日医ニュース
日医ニュース目次 第1291号(平成27年6月20日)

プリズム

オキシトシン

 オキシトシンは,下垂体後葉から放出される出産や授乳に関係する「雌性ホルモン」というのが,これまでの理解であった.近年,男女共に視床下部で産生されるアミノ酸九個からなるペプチドは,ホルモンでもあり,神経伝達物質でもあることが分かってきた.
 そして,従来の概念を超え,生物にとって大切な働きを持ち,特に「安らぎときずな」を促進し,精神活動を制御する物質として注目を浴びている.
 オキシトシンの作用は成長や生殖について多岐にわたるが,精神や行動に与える影響が特筆される.母性行動の促進,不安の減少,好奇心の増強,痛みの感覚の減少など,情緒の安定や心を癒す働きがある.
 また,人間関係,とりわけ母と子ども間の心の絆である「愛着」に密接に関連していると推測されている.
 人間は地球上の他の生物に比べ,より積極性や闘争力を持ったため,これほどまでの数的,物質的繁栄と豊かさを獲得してきたが,その結果,心はいつも緊張や孤独や恐怖といったストレスで充(み)ち溢(あふ)れてしまっている.医学も医療もストレスをどう克服するか,どう回避するかという交感神経系からの取り組みが主流で,「安心と信頼」の副交感神経系の観点からの研究や治療は遅れている.
 勝つか負けるか,正義か悪かの二元論的な思考が現在も優先され,「闘争か逃走」と「安らぎときずな」とのバランスが失われてしまい,親子関係や人間関係そして組織・国家間のコミュニケーションが危うくなっている.
 攻撃や報復,自己主張ばかりのお互いが向き合わない論理が横行している昨今こそ,オキシトシンを豊かにするアプローチが必要となっている.

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