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第1294号(平成27年8月5日) |
都道府県医師会「地域医療構想策定研修」
2025年の医療需要を見通し適切な医療提供体制の構築へ

都道府県医師会「地域医療構想策定研修」が7月2日,日医会館大講堂で開催された.
本研修は,地域医療構想の円滑な策定に資するため,6月16日から3日間,厚生労働省が都道府県職員を対象に行った前期医療構想策定研修(ガイドライン編)の内容を,都道府県医師会役員・事務職員のために再編成したものである.
当日は,47都道府県医師会から170名が出席した他,テレビ会議システムにより32道県医師会に中継を行った.
釜萢敏常任理事の司会で開会.
冒頭,あいさつに立った横倉義武会長は,「都道府県庁だけで情報を持つのではなく,都道府県医師会と郡市区医師会が中心となって情報を共有して構想を練り上げ,自主的に実行に移すのが地域医療構想の本来の趣旨である.本研修を通して,行政と医師会とが共通理解に立ち,地域医療構想を円滑に策定して欲しい」と述べた.
専門調査会の2025年必要病床数は参考値
午前の研修ではまず,中川俊男副会長が「地域医療構想の策定に向けて」と題して講演.同副会長は,「『医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会』の第1次報告について,構想区域ごとの必要病床数は,患者の流出入について都道府県間,構想区域間で調整を行って決めることから,最初に行う機械的な計算が最終結果にはならないことを強調.
また,必要病床数は構想区域ごとに算定するものであることから,「都道府県単位の推計に意味はなく,都道府県単位で既存許可病床数と2025年の必要病床数を比較し,この県では2025年までに何床削減しなければならないと考えるのは間違いである」と述べた.
その上で,同副会長は,「地域医療構想は,医療機関が構想区域内のデータを参考に,自主的に収れんしていくものであることを認識することが重要である」とするとともに,厚労省医政局地域医療計画課からも,専門調査会の必要病床数の推計値について,単純に病床を削減しなければならないという誤った理解とならないよう注意を呼び掛ける文書が,6月18日付で発出されたことを報告し,その場で読み上げた.
今後の医療需要を見通して地域医療構想を
続いて,北波孝厚労省医政局地域医療計画課長が,「地域医療構想に関する基本的な考え方」と題して講演.地域医療構想については,今後大きく変化する医療需要にいかに的確に対応していくかを計画立てて考えるものだとし,需要側の観点として,高齢化に伴う医療需要の内容の変化,総人口が変動することによる医療需要総量の変化を,供給側の観点としては,地域で医療関係者をいかに確保し,過不足なく提供体制に結びつけていくかを挙げ,これら両面を組み合わせた上で,診療科の状況や救急へのアクセスを考えた区域設定をするなど,地域住民にとって最適な医療を具体的に検討することがその目的であるとした.
策定に当たっては,人口動向を踏まえて医療需要がどのような軌跡をたどるかという視点から,「これからの10年間で新たな設備投資をするのか」「既存のものを転用して対応するのか」などの判断が必要になるとし,県立病院や民間医療機関においても,地域との関係で今後の体制を考えていく必要があるとした.
講義ダイジェスト
引き続き,午前は2名の厚労省職員による講義ダイジェストが行われた.
佐々木昌弘厚労省医政局地域医療計画課医師確保等地域医療対策室長は,3日間にわたって行われた都道府県職員研修の概要について,詳しく解説した.
同室長は,医療法改正,医療計画制度の歴史に触れ,地域医療構想は医療計画の一部であることを説明した上で,地域医療構想の策定に当たっては,10年後の患者数に対して必要な地域医療の提供体制を考えるのが基本であるとして,単に病床数だけではなく,医療従事者の確保という課題についても,解決に向けた検討を進めるべきだと強調.自治体職員と都道府県医師会を始めとした医療関係者が共通理解を持つためにも,推計値の活用を求めた.
吉村健祐厚労省保険局医療介護連携政策課保険システム高度化推進室室長補佐は,地域医療構想の策定においては,都道府県に「推計ツール」と「データブック」が配布されるが,それらにはナショナルデータベース(NDB)に収載されているレセプト情報等が盛り込まれていることから,その特性と取り扱いの注意点について解説した.
同室長補佐は,NDBのレセプトデータについて,「小さな自治体において希少な疾患であった場合などは個人が特定されてしまうため,厚労省としては個人情報に準ずる形で運用するルールである」として,目的外の利用が厳禁であることを強調するとともに,取り扱いに十分な注意を求めた.
その上で厚労省としては,データの流出を防ぐため,(1)利用場所が施錠され,入退室の状況は管理されている(2)閲覧用パソコンはインターネットとの接続は禁止(3)情報の持ち出しは原則不可─など,都道府県に対しても遵守を求めていることを強調した.
実習ダイジェスト
午後からの実習ダイジェストでは,地域医療構想を策定する上で活用できるツールの使い方について説明が行われた.
廣澤友也厚労省医政局地域医療計画課長補佐は,「地域医療構想策定支援ツール」の使い方について,本支援ツールは「必要病床数等推計ツール」と「構想区域設定検討支援ツール」で構成され,将来の医療需要や必要病床数(参考値)の推計を支援するものであるが,NDBデータ及びDPCデータ等,極めて重要な情報により推計処理が実施されることから,情報の取り扱いには十分な配慮が必要であるとした.
また,支援ツールを用いて集計,生成した医療需要等の結果については,「地域医療構想策定に関する検討の目的であれば,結果を電子媒体及び紙媒体で保存・活用することは可能である」とした.
松下幸司厚労省医政局地域医療計画課計画係は,「医療計画作成支援データブック」について医療計画の策定と見直しの際に必要となる指標として,「疾病・事業および在宅医療に係る医療体制について」(平成24年厚労省医政局指導課長通知)に示された必須指標と推奨指標等は,5疾病5事業及び在宅医療ごとに,ストラクチャー(医療サービスを提供する物的資源,人的資源及び組織体制を測る指標),プロセス(実際にサービスを提供する主体の活動や,他機関との連携体制を測る指標),アウトカム(医療サービスの結果としての住民の健康状態を測る指標)等に分類し,医療圏単位または市町村単位で集計し,グラフやレーダーチャート等を用いて可視化したものであり,指標別の経年変化や指標間の比較等ができると説明.本データブックをより実効性・効率性のある医療計画の策定に活用して欲しいとした.
石川ベンジャミン光一国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部がん医療費調査室長は,地域の現状をきちんと把握するためにも,「必要病床数等推計ツール」を活用し,患者住所地での医療需要と医療機関所在地での供給量から圏域間の患者の流出入や(地域内の)自己完結率について推計することで,現状の医療提供体制における問題点をあぶり出すことが重要であると指摘.
ただし,その推計値はあくまで目安に過ぎず,2025年における医療提供体制を反映するわけではないことから,調整会議においては本ツールを活用し,それまでに何をすべきか議論して欲しいと述べた.
その後の質疑応答では,「患者の流出入と区域設定の考え方」「病床機能報告制度」「基準病床数の考え方」等,会場からの質問に対し,厚労省の担当者や日医からそれぞれ回答を行った後,中川副会長が,「あるべき医療提供体制の構築に向け,今後もご協力をお願いしたい」と総括し,閉会となった.
なお,当日は,「医師資格証」による受付も行われた.
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