第99回日本医師会臨時代議員会
坪井会長所信表明
1998.10.27
本日は、早朝より第99回日本医師会臨時代議員会にご出席賜りありがとうございます。
今回の臨時代議員会は、平成9年度日本医師会の決算並びに関連議案につきご審議いただくため、第1号議案、第2号議案並びに第3号議案を上程いたしてあります。
また、第4号議案として日本医学会施行細則の一部改正につき、第5号議案として日本医師会役員功労金支給の件につきご審議いただきます。
いずれも会務執行上重要な議案でございますので、慎重ご審議の上、ご承認賜りますようお願い申し上げます。
この際せっかくの機会ですので、現在の社会情勢のもとでの日本医師会会務遂行につき、会長としての所信を述べさせていただきます。
はじめに |
底のみえぬ不況は、医療にも大きな悪影響を及ぼしており、昨年9月の健保法改正は薬剤一部負担の増加が予測をはるかに上回る受診抑制作用を発生させ、とくに高齢者が負担増によって受診を手びかえた結果が今後の疾患構造にどのような現象を惹起させるか、大変心配されるところです。健康な老後を約束されていたはずなのにという全国老人クラブ連合会のアンケート調査の声もむべなるかなと考え、もし将来医療のアウトカムに悪い結果が出てきたときに、今回の如き悪政の責任は誰がとるのか、行政にも政治にもその責任感が全くないところに恐ろしさを感じているのは私一人ではないと思っています。
この急角度の改変により得た医療費抑制の実額は、1兆8,000億円に及ぶといわれています。
しかし、将来この削減によって生じた医療の質の低下による代償は、決して低額ではないはずです。
保険組合が赤字であるから、政府管掌健康保険の財政が破綻するからという理由でその原因を深くさぐることもなく、国民の一部負担金を増額して赤字補填をした今回の暴挙は決して見逃しておくべきではありません。
何故暴挙というのかといいますと、日医が主張しているように医療構造を抜本的に改革していけば、財政的に国民に過大な負担をかけなくても維持が可能であるという日医総研のシミュレーションがあるからです。
文言の中には抜本改正をうたっていながら、実際に行っていることは小手先の財政補填対策であって、とても抜本改革を決行しようというような意志は認められません。
高齢社会の到来、医学・医療技術の発展、少子化社会による社会保障費負担の過重感などをキーワードとして考えるとき、今、医療構造を抜本的に改革しないと新しい世紀にいい形でソフトランディングすることができないのは確かです。
だからこそ、少し時間がかかっても抜本的な改革によって、財政的な良循環を構築すべきであるという日医の主張こそ、国益に利するものと確信しております。
今後も日医としては、基本的には抜本的改革の具体的政策を整えていくと同時に、短期的には厚生省が出してくる参照価格制などの不合理な制度の成立を阻止する論争を強力に展開して行くつもりでおります。
介護保険について |
平成12年より実施される介護保険制度は、現在実施要領について細かい検討が行われており、その対応への地区医師会の先生方のご苦労は大変なものと推察しております。とくに一部業者が研修会などを開き確信のない情報を流しているため、医師会に限らず関係者にいらぬ混乱を起こしていることは好ましくないことでございます。
しかし、日医担当役員は、厚生省担当官と密接な連携をとり、かつ指導しながら整備を進めておりますので、都道府県医師会におかれましても日医との連絡をさらに密にして、円滑な実施に向けて準備されることをお願いいたします。
とくにサービス実施に際しては、多数の拠点が必要になるため、医師会組織が動かないと、実施が不可能ではないかとさえ考えております。
地区医師会の積極的参画を重ねてお願いいたします。
詳細は本日の質疑の中で担当常任理事からご説明するようですので、そちらに譲りたいと思います。
会員の倫理向上に関する検討委員会 |
さて、前回の代議員会におきまして、会務執行の基本理念として、会員の倫理昂揚と生涯教育の推進を提唱し、その具体的施策について検討してまいりました。
会員の倫理昂揚については検討委員会を設置し、生命倫理懇談会と両輪の関係を保ちつつ検討を始めております。
具体的にはまだ申し上げる段階ではありませんが、倫理綱要のマニュアル作りと、医師会に医療相談窓口を常設するなどについて、検討が続けられていることに期待をもっております。
生涯教育の振興と倫理の昂揚は必然的に患者との信頼関係の強化につながるものであり、日医が今後打ち出していく医療政策に対する国民の理解と同意を得るための最大のバックアップになると確信いたしております。
未来医師会ビジョン委員会とその期待 |
次の世代の医師会を担う年代の先生方にお集まりいただき討議をしてもらうため、未来医師会ビジョン委員会を発足し、すでに会合を重ねております。 この会の設置目的はおおよそ2025年を目途にして未来医師会を担う先生方の価値観と予想される社会背景から未来医師会のあり方を計画し、準備しておくために設置したものであります。一方、この委員会の論議から未来医師会の構図を予測することによって、現在政策をたてていく立場の者が未来予測を加えた政策をつくっておくことも必要であると考えておりますので、現在の会務にとっても重要な委員会と考えております。近々、合宿討議を計画しており、その成果を期待しておるところです。
最近、多くの県医師会内に次世代の育成を図る企画があるようにお聞きしておりますが、大変好ましいことと賛意をもっております。
女性会員懇談会の意義 |
現在、医学部において女子学生の占める割合が50%に達しているという状況が生じております。
当然のことながら医師会において女性会員の意見を広く会務に反映させる場の設定が必要になってきました。
世界各国の医師会ではすでにかなり広く深く医師会活動に女性会員が実績を示しており、医療の確保に大きな貢献をみせております。
わが国においても同様、医学研究・地域医療の場においてすでに多くの実績を示しておりますが、今後、諸外国の如く、日本医師会の中にその機能を発揮できる場を設け、その能力の活用を図りたいと考え、すでに常設の懇談会を設置し、活動を始めておりますので、今後の発展を期待しております。
今回、アメリカ医師会ディッキー会長が来日する機会に、日医の女性会員とのセミナーを開催し、女性会員の医師会活動の推進を図りたいと計画を進めております。
少子化対策について |
少子化対策は高齢社会対策と表裏の関係にあり、わが国にとって甚だ重大な課題であります。
高齢化対策についてはかなり広い範囲で検討が行われ、整理された状況になってきております。そして介護保険法をはじめ法律的な整備も整いつつあります。
しかし、少子化対策は社会全体が広くかかわりあっていかないと対策がたてられない複雑な要件があり、国際的にもなかなか解決できない実状があります。
国の政策も決して劣っているとは思いませんし、真剣に検討が進められておりますが、日本医師会が医療専門職の視線で少子化対策を検討したとき、新しい活路が見い出し得るのではないかという考えから、今回会内に少子化対策検討委員会を設置いたしました。
委員の選任については、広く各分野の学識者の参加を求め討議を重ねています。
来年2月北欧から、少子化対策の有識者を招聘して、医政シンポジウムを開催する予定にしております。
日医総研について |
日医総研は順調に形態を整えつつあり、予期した以上の速度で調査資料を公表しております。資料として印刷されたものはその都度都道府県医師会に送付いたしており、また、日医ホームページにその全文を掲載しております。ご覧いただいていると思いますが、地区医師会の先生方の中から、日医総研の活動内容が不明確であるとのご意見をいただいております。
さらにわかりやすい運営を図るべく努力しておりますが、とくに日医総研と日医執行部との位置関係が外見的に不明確であるため、いろいろな誤解が生じているものと思います。
あくまでも日医総研は政策研究の場であり、調査資料作成の場であります。日医の政策は日医執行部が会内各種会議・委員会の答申を参考資料として政策を策定し決定していくものでございます。
現在、日医執行部と日医総研の間には、医療政策開発会議を設置し政策決定の過程をよりわかりやすくするように努めております。
国の医療政策決定過程の改革について |
以上は、日医の政策決定の過程について申し上げましたが、もう一つ私が強調いたしておりますのは、日本の医療政策決定過程の改革ということでございます。
日医が、地域医療の現場からの動機付けを得て、国民の要望に沿った医療政策を立案しても、従来の如く官僚主導型でつくられた政策、しかも落とし場所があらかじめ決められている政策審議の中に埋没してしまっては、われわれ独自の政策が実現されることは望めません。
そこで、官僚主導型、財政主導型の政策作成の厚生省審議会を経ずに、日医の医療現場主導型の政策を直接政党審査に提出する手法をとり、この政党審査という同じ土俵の上で官僚主導型の政策案と日医案が討議される図式を確立する必要があります。このときに政治が国民の利益のために正しい選択をすることが必須条件になりますから、政治家の資質が問われることになります。
ここにも医療専門職としての医師会の医政活動の重要性が生じてくるわけです。
日本医師連盟関連事項 |
最後に、とくに議長のお許しをいただき、日本医師連盟に関する事項につき、2、3触れさせていただきます。
去る7月12日の参議院選挙におきまして、宮崎秀樹候補が比例順位16位に位置づけられ、自民党の惨敗のあおりを受けて甚だ心外な結果に終わりました。
日医連執行委員長として力の足りなさに対し深くお詫びを申し上げます。選挙直後に即刻日医連執行委員会を開き、反省と今後の活動方針につき総括討議を行いましたが、まず、宮崎候補が議席を復活して捲土重来を期するため、政治活動継続の場として日医会館内日医連事務局に宮崎事務所を設置し、また、公の場における政治活動がしやすいように日本医師連盟参与に推挙いたしました。その後、自民党医療基本問題調査会の参与の地位を取得され、現在広く政治活動を継続されています。この間の自民党の姿勢について支持政党として果たして日医連を正確に評価しているのかというご意見が多くあり、当然のご不満であると思います。
しかし、今日の如き混沌とした政局の中での支持政党についての論議は、あくまで慎重であっていいと判断いたしております。
勿論、支持政党は日本医師会の国民のための医療政策を十分に理解し、主張を実現するために努力してくれる集団でなくてはなりませんから、日本医師会に対する評価の実態を正確に把握するため、多角的な検討を行っております。
お手元に差し上げてあります自民党政調会長と日本医師会長の覚え書きと自民党幹事長と日本医師会長との覚え書きの2つの覚え書きは、日本医師会が単独で自民党と対決し、正面から日医に対する評価を質したものであり、三師会合同のものとは性格が異になっていることをご理解いただきたいと思います。
昭和59年8月10日、自民党三役と三師会会長の間で7項目にわたる覚え書きが取り交わされており、その早期実現を確約している事実は代議員諸先生はご承知のことと存じます。しかし、今日に至るも何らその実現は図られておりません。その理由は種々考えられますが、今回の日医と自民党の間での覚え書きは、国民のための適正な医療の構築のために、医療専門集団として政治に合意を求めたものであることには違いませんが、政権与党である自民党が日医の主張に対してどれほどの理解を示し、国民的視野に立った日医の医療政策に対してどのような評価をもっているかを確認するためのものであり、日医単独での覚え書きはその強烈な決意のあらわれとお受け取りいただきたいと思います。
そして、日本医師会が国民のための医療政策を作り上げていくためには、強い政治力が必須であることを再確認くださり、今後ともご支援を頂きたいと思います。
以上、第99回日本医師会臨時代議員会の冒頭にあたり、いささか所信を述べ、ご挨拶といたします。
ありがとうございました。