新しい騒音性難聴-ヘッドホン・イヤホン難聴- メインビジュアル

Vol.15公開:令和8年9月

新しい騒音性難聴
-ヘッドホン・イヤホン難聴-

防衛医科大学校耳鼻咽喉科学講座 准教授
松延 毅

はじめに

スマートフォンなどの個人携帯端末からヘッドホンやイヤホンを使用して大音量で長時間にわたり音楽を聞く人々が増えています。特に若年層に、難聴になる危険が高まっています。ヘッドホンやイヤホンで大きな音を長時間聞き続けることにより発症する難聴のことを、近年では「ヘッドホン・イヤホン難聴」と呼んでいます。医学的には、慢性音響性聴器障害に分類されます。WHO(世界保健機関)の調査によると、世界で中高所得国の11億人の若者がヘッドホン・イヤホン難聴になる危険にさらされているといわれています。

新しい騒音「レジャー騒音」の登場

近年、聴覚障害の新たなリスクとして娯楽に伴う騒音(強大音)曝露ばくろが注目されています。以前は、騒音性難聴といえば工場や建設現場など、騒音が発生する職場が主な原因でしたが、現在では、ヘッドホンやイヤホンを使用して音楽やビデオゲーム、eスポーツなどの大きな音を長時間聞き続けることに加え、ライブ音楽イベントやスポーツ観戦など、日常的な娯楽の中に潜む強大音・騒音が大きなリスクとなっています。

携帯型オーディオプレイヤーの登場以降、音楽鑑賞は「移動しながら個人的に楽しむ」形へと変化し、さらにスマートフォンの普及により、音楽、動画、ビデオゲームなど多彩な音源がヘッドホンやイヤホンから日常的に耳に届けられるようになり、長時間にわたって大音量で聞く習慣が日常のことになりました。特に、ゲーミングヘッドセットを使った長時間・大音量のゲームプレーは、耳を直撃する強大音刺激として、若年層の新たな聴覚リスクとなっています。

さらに、在宅勤務やオンライン授業の増加により、ヘッドホン・イヤホンの長時間使用が常態化し、耳の休息時間が著しく減っていることも重なって、音楽などを大音量で聴く生活習慣と複合的な音響曝露環境が社会問題となっています。

コンサート会場にいる女性のイラスト

なお、ライブ、コンサートや音楽フェスティバルでは、最大で110~120dBを超える音量(音圧)に達することがあります。これは短時間でも聴覚にかかわる細胞を損傷する強度です。スポーツスタジアムでは観客の歓声や応援、楽器による爆音の演出などが音響環境を悪化させていて、平均90dB以上、ピークでは100dBを超えることもあります。長時間の試合観戦に加え、子ども連れでの参加も多く、無自覚のうちに難聴のリスクが高まっています。

*騒音の目安として、120dBは近くで聞く飛行機のエンジン音、110dBは前方2mでの自動車のクラクション、100dBは電車が通るガードの下、90dBは騒々しい工場の中、80dBは地下鉄の車内や走行中の電車内の音に匹敵するとされる。

ヘッドホン・イヤホン難聴の症状、聴覚障害の進行の特徴

ヘッドホン・イヤホン難聴の初期には、特に高音域(3,000~6,000Hz)での聴力低下がみられます。聴力低下レベルは何年もかけて徐々に進行し、軽度難聴から中等度難聴を来します。
自覚症状では、音が聞きとりにくい、耳閉塞感(耳が詰まる感じ)、耳鳴りなどの異常で気づくことが多いようです。単に「聞こえが悪い」というよりも「音楽の細部が聞きづらい」「子音が聞き取りにくい」といった訴えが多くあります。さらに、騒がしい環境で聞き取りにくくなる例があります。耳鳴りは、持続性または断続性の高音の耳鳴りが典型的です。中には、音に敏感になる聴覚過敏を訴えるケースもあります。

耳鳴り・聞こえに悩む男性のイラスト

また、難聴の特徴として、非常にゆっくり進行するため、自分自身では耳の聴力低下に気がつかず、人から指摘されてはじめて気がつく場合があり、知らず知らずのうちに難聴が進行している可能性があります。
難聴は多くの場合は両耳にほぼ均等な影響がみられますが、イヤホンを片耳で使用していると、一側性の難聴が進行する例もあります。

耳鳴り・聞こえに悩む男性のイラスト

音が聞こえる仕組みと、かかわる細胞

音とは空気の振動です。内耳に蝸牛かぎゅうという音を感知する器官があり、その内側に「有毛細胞」がぎっしりと並んでいます(図)。この有毛細胞が空気の振動を捉えて電気信号に変換し、聞こえの神経を通じて脳に伝えています。ところが有毛細胞は、大きな音に長時間さらされると傷ついてしまいます。一度傷ついた有毛細胞は再生しません。

図:耳の構造

治療、予防と対策

ヘッドホン・イヤホン難聴には、現在のところ、有効な治療法がありません。一度傷ついた有毛細胞は再生しないため、治療の中心は、進行を予防することと、聞くことに関する生活の質を維持することになります。薬物療法も試みられてきましたが、効果は期待できません。予防が唯一の確実な対策です。リスクを認識し、適切な音量・時間管理をすることが最も重要です。

ヘッドホン・イヤホン難聴のリスクは、音量と曝露される時間により規定されます。音量が3dB上昇するごとに音のエネルギーは2倍になるので、許容される曝露時間は半分に減ります。短時間であっても大きな音で聞いていると危険ということです。
WHOとITU(国際電気通信連合)が連名で2019年に示した「安全なリスニングのためのガイドライン」では、成人では80dB未満で週40時間以内、若年者(15~34歳)では75dB未満で週40時間以内の使用を守ることが推奨されています。
また、WHOを中心としたキャンペーンでは、のような予防のための対策が推奨されています。参考にして、ヘッドホン・イヤホン難聴にならないようにしましょう。

表:ヘッドホン・イヤホン難聴にならないために

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