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2004年の活動

世界医師会(WMA)の活動

1.概要

2004年は、5月13日から15日まで、第167回中間理事会がフランスのディボンヌで、総会は10月6日から9日まで、東京の帝国ホテルを主会場として開催された。1975年以来2回目の日本でのWMA総会となる2004年世界医師会東京総会には、加盟82各国医師会から41カ国医師会の代表の他、国際赤十字などの国際機関のオブザーバーを含む海外220名、国内約300名の総勢500名を超える参加者(正規登録者・同伴者)が集い、会議、学術集会、および各種社交行事が挙行された。

6日は、理事会、常設委員会等のビジネスミーティングが行われ、夜には天皇皇后両陛下のご臨席を仰いだ日医主催による歓迎レセプションが催された。7日は、準会員会議では、人権にかかわる一部の文書が審議された。「先端医療と医の倫理」「ITの進歩と医療」をテーマとした学術集会は7日から8日の午前中にかけて開催され、植松会長による「今医療に求められるもの」と題した講演他、内外の講師による講演およびパネルディスカッションが行われた。(学術集会の詳細は前項参照)また、7日夜には日医主催による夕食会が開かれた。最終日の9日は、理事会に引き続き、細田博之官房長官、尾辻秀久厚生労働大臣、石原慎太郎東京都知事を来賓に招き、総会式典が挙行された。来賓祝辞に引き続き、新旧WMA会長の交代式が行われ、アメリカ医師会元会長のYank D. Coble Jr.氏が新会長に就任した。午後の総会全体会議では、次期会長に南アフリカ医師会の前会長であるT.K.S.Letlape氏が選出された。また、事務総長は、Delon Human氏が退任し、ドイツ医師会のOtmar Kloiber氏が就任した。夜にはWMA主催による公式晩餐会が行われた。

以下に、総会での主な議決事項を示す。

(1)ベトナム、エストニア医師会の新規加盟が承認された。
(2)宣言1件、声明3件、決議2件、WMA機能・運営方針に関する文書1件の計7件の文書が採択された。(以下の2を参照)
(3)第170回理事会は2005年5月にディボンヌ、2005年総会は10月12日〜15日にチリのサンチャゴで、それぞれ開催されることが確認された。


2.宣言・声明の採択

(1)概略

今回は、「ヘルシンキ宣言」「医師と企業」「水と健康」「武力紛争時における医の倫理」「医学教育」「医療上の緊急時における連絡」「WMA機能・運営方針」に関する7件のWMA文書が採択された。

その他、「医師と肥満症に関するWMA政策案」は作業部会により審議され、HIV/AIDSに関する理事会決議草案(「HIV/AIDSが世界的な死亡者数および死亡率を増大させる主たる病気であるという認識により、WMAはこの疾病がすべての国で届出伝染病として分類されることを提唱する。」)が提出されたが、プライバシーの問題を含め関連のWMA声明文の修正を考慮しながら検討することとなった。


(2)採択された宣言・声明・決議

 1)ヘルシンキ宣言第30項注釈

[経緯]
 2000年10月のWMAエジンバラ総会において、大幅修正されたヘルシンキ宣言(DoH)修正案が採択されたが、その後いくつかの項目、特に臨床試験におけるプラシーボの使用を扱った第29項と、被験者の継続的ケアに関する第30項について懸念の声があがっていた。第29項については、2002年10月のWMAワシントン総会で明確化のための注釈が採択された。その後作業部会は現在の第30項の文言が完全ではないことを認めている。しかしながら、同項の修正を提案しないのには大きな理由がある。つまり、文言が完全でないとしても精神とは一致している。修正に必要な75%を得ることは困難である。安定性が必要である(DoHは絶対的に必要なときのみ修正されるべきである)。そこで、作業部会では第30項を修正しないこと、そして第30項の目的を明白にしつつ、誤った解釈を防ぐような注釈を付け加えることを勧告した。そして注釈は、研究実施者が被験予定者に対して、予定されている事項とその論理的根拠の説明、リスクと利益の可能性についての包括的説明、および当事者への予防、診断および治療について入手可能なものとそうでないものについての詳細な説明を行う倫理的義務を強調したものとなった。第30項に注釈を付けた形で正式に採択された。以下に注釈部分のみを記す。(ヘルシンキ宣言の全文はこちら

ヘルシンキ宣言(17.C)

(2004年10月、WMA東京総会で第30項目明確化のための注釈が追加)

ヘルシンキ宣言第30項目の明確化のための注釈

「WMAはここに次の見解を再確認する。すなわち、研究参加者が研究によって有益と確認された予防、診断および治療方法、または他の適切なケアを試験終了後に利用できることは、研究の計画過程において明確にされていることが必要である。試験後の利用に関する取決めまたはその他のケアについては、倫理審査委員会が審査過程でその取決めを検討できるよう、実験計画書に記載されなければならない。」


 2)医師と企業

[経緯]
医師と企業の関係は複雑である。一方では、製薬または医療用品などの企業が経済的支援に基づき直接間接を問わず医師の行動に影響を与える場合には、明らかに利害の対立が生じる可能性がある。他方、公的財源の不足から、企業による支援が医学研究、学術会議、および生涯教育を促進させる重要な要素となっていることも多く、したがって、このような支援は、患者および医療保険制度全体の利益となっている。企業により提供された資金と個々の医師の有する医学知識が結びつくことにより、医学の大幅な進歩につながる可能性もある。したがって、医師と企業の関わりを禁止するよりも、そのような関わりに関するガイドラインを確立することが望ましい。これらのガイドラインには、情報公開ならびに明らかな利害対立の回避についての重要な諸原則を定めなければならない。当該ガイドラインは、WHO(世界保健機関)、各国医師会、および製薬業界がすでに確立している指針に基づくものとする。
この文書は2002年3月イスラエル医師会により提出された。以後、医の倫理委員会(MEC)による審議、作業部会による再起草、各国医師会(NMA)からのコメントを経て、本会も参加した作業部会により再起草された。

医師と企業の関係に関するWMA声明

(2004年10月、WMA東京総会にて採択)

A.序文
1.患者の治療において、医師は、企業によって開発、製造される医薬品、器具、診断用具、設備および材料を使用する。企業には費用のかかる研究や開発プログラムに資金提供を行う財源があり、これを行うには医師の知識と経験が不可欠である。さらに、企業による支援は、患者および医療制度全体の利益となりうる医学研究、学術会議、および生涯教育の促進を可能にしている。企業が提供する財源および商品知識と、個々の医師が有する医学知識との連携が、新たな診断手順、医薬品、療法および治療の開発を可能にし、医学の大いなる進歩につながる可能性がある。
2.しかしながら、企業と医師の間には利害の対立が生じ、それは患者のケアと医師の評判に影響する恐れがある。医師の義務は患者にとって何が最善であるかを客観的に判断することであり、一方企業は商品を売り、顧客のために競争することによって所有者に利潤をもたらすことが期待されている。営利的動機は、とくに医師が企業に何らかの形で依存している場合に、医師の客観性に影響する恐れがある。
3.医師と企業の関係を禁止するよりも、そのような関係についてのガイドラインを確立することが望ましい。これらのガイドラインには、情報公開、明らかな利害対立の回避、および患者の最善の利益のために行動するという医師の臨床上の自律性についての主要原則を定めなければならない。
4.これらのガイドラインは、既存のガイドラインの見直しや、将来ガイドラインを作成する際の基準としての役割を果たすべきである。

B.医学会議
5.医師は、以下の原則に合致している場合には、企業による全体または一部後援を受ける医学会議に出席してもよい。
 5.1.会議の主たる目的が専門的または学術的な情報の交換である。
 5.2.会期中のもてなしは専門的な情報交換の副次的なものでなければならず、地域的な慣例や一般的な許容の程度を超えてはならない。
 5.3.個々の医師は、法律および国の医師会の方針で提供される場合を除いて、会議旅費、宿泊費および食費、または会議に費やした時間に対する報酬として企業から直接支払いを受け取るべきではない。
 5.4.資金援助を行う企業の名称は、医療界や一般の人々が財源を考慮に入れて、発表された情報を評価できるようにするために公表されるものとする。さらに、会議主催者および講演者は、会議で言及された製品の製造会社または競合製品の製造会社ともちうるいかなる財政関係についても会議参加者に公開するものとする。
 5.5.すべての場合において、医師による発表は、学術的に正確で、可能な治療選択肢についてバランスのとれた考察を行っているものでなければならない。それはスポンサーとなる組織の影響を受けるべきではない。
 5.6.会議は、以下の原則に合致している場合にのみ、生涯教育/生涯職能開発(CME/CPD)を目的としているものと認められる。
5.6.1.スポンサーとなっている製薬会社等の企業は、内容、講演、講演者の選択、または成果の発表に何ら影響を与えないものとする。
5.6.2.会議への資金提供は会議の一般費への寄付としてのみ受理されるものとする。

C.寄贈
6.医師は、法律および国の医師会の方針によって認められ、かつ以下の条件に合致する場合を除いて、企業から寄贈を受けないものとする。
 6.1.寄贈がごく廉価なものである
 6.2.寄贈が現金でない
 6.3.寄贈が、廉価なものであったとしても、医師が特定の医薬品を処方したり、患者に特定の機関を紹介するという条件に一切関係していない

D.研究
7.医師は、以下の原則に合致する場合には、個人であれ研究機関に属する立場であれ、企業からの資金提供を受けた研究を行うことができる。
 7.1.医師は、研究を行うにあたり、法律、倫理原則、ヘルシンキ宣言のガイドライン、および臨床的判断にのみ従うものとし、自らの研究結果やその出版について外部からの圧力に影響されないものとする。
 7.2.研究への着手を希望する医師または機関は、可能であれば、一社以上の企業に研究の資金提供を要請するものとする。
 7.3.研究に関わった患者または自発的参加者を特定しうる情報は、関係当事者の同意なしにスポンサーに渡してはならない。
 7.4.医師は、研究に費やした時間と労力に基づき報酬を受け取ることができるが、そのような報酬は研究結果と一切関係しないものとする。
 7.5.研究の成果は、スポンサー企業の名称を開示し、研究依頼者を明らかにした記述を添えて公表するものとする。これは、資金提供が直接か間接か、または全額か一部かを問わず適用されるものとする。
 7.6.企業は研究成果の公表の差し止めを行うべきではない。研究結果が公表されない場合、特にその結果がネガティヴな場合は、研究が不必要に繰り返され、それによって将来の参加者を潜在的な危害にさらす恐れがある。

E.企業との提携
8.医師は、以下の原則に従う場合、コンサルタントもしくは顧問団のメンバーとして企業と提携することは可能である。
 8.1.提携は、医師の完全性を危うくするものであってはならい。
 8.2.提携は、医師の患者への義務と対立するものであってはならない。
 8.3.企業との提携及びその他の関係は、講義、論文および報告書などの関連する全ての状況において十分に公開されるべきである。


 3)水と健康

[経緯]
2002年3月、第3回世界水フォーラムが日本で開催された。本会では、「水と医療」のテーマに着目し、「水と命、医療」と題したセッションを開催した。その成果として本会は「水と医療に関する提言」を提示し、世界中の医師がグローバルな視点から水と医療の問題を再認識し、「病める地球を救うための医師の水問題への適切な対応」が21世紀においてきわめて重要となると強調し、各国医療専門家が共通の課題として取組んでいくことの必要性を説いた。この文書は、本会により2003年4月WMAに提出され、以後、社会医学委員会(SMAC)における検討、作業部会による再起草、各国医師会からのコメントを反映して採択された。

水と健康に関するWMA声明

(2004年10月、WMA東京総会にて採択)

前文
1.新鮮な(清潔で汚染されていない)水の十分な供給は、個人の健康と公衆衛生に不可欠なものである。しかし不幸にも、世界人口の半数以上が、そのような水を入手できず、また、新鮮な水が豊富にある場所でさえ、汚染やその他の負の力によって水の供給が脅かされている。
2.世界中の人々に対し、医療における最高の国際水準を達成する活動を通じて人類に貢献するという使命をふまえ、WMAは人々の健康に責任を持つべきすべての人が、個人の健康と公衆衛生にとっての水の重要性に配慮することを奨励するためこの声明を作成した。

検討
3.水に起因する病気は、死亡および疾病の大きな要因であり、特に発展途上国で顕著である。また、これらの問題は戦争、地震、伝染病、干ばつ、洪水のような災害時に問題となる。
4.生態系の人為的変化、地表の保水力の低下、そして地層による水の浄化能力の限界は、自然環境、特に水環境に深刻な損傷を与えている。
5.水の商品化は、公益事業としてではなくむしろ利潤を目的として提供されるので、飲料水の十分な供給に影響を及ぼす。
6.安全な水を供給するための持続的な基盤整備は、公衆衛生および国民の福祉に大いに寄与する。安全でない水によって引き起こされる感染症等の疾病を減少させることで、医療費は軽減され、生産性は改善される。このことは、国家経済に好ましい波及効果を生むものである。
7.生命にとって必要不可欠な資源である水が世界各地で不足してきており、したがって水は合理的かつ慎重に利用されるべきである。
8.水は人類および全世界によって共有される資産である。したがって、水に関する諸問題は国際社会として協力して取り組むべきである。

勧告
9.医師、医師会および医療関連当局に対し、水と健康に関する以下の施策の支援を奨励する:
 a.地球上の全ての人々に低価格で安全な飲料水を提供し、水源の汚染を防ぐための国際計画および国内計画
 b.公衆衛生へのアクセスの提供、水資源の悪化防止のための、国際計画および国内・地域計画
 c.排水を含む上下水道体制と健康との関係についての研究
 d.非常時の飲料水供給および適切な廃水処理の計画整備。これらには現場での水殺菌、水源の特定作業、ポンプを稼働させる予備電源確保等も含まれる。
 e.自然災害、特に地震発生直後に、医療施設向けの安全な水を確保するための事前対策。これらには医療施設がそうした危機的状況に対処することを支援する基盤整備と研修計画の整備等も含まれる。非常時給水計画の実施にあたっては、地方自治体や地域社会と協力して行なわれるべきである。
 f.各国における水資源の効率的利用。WMAは医療機関、病院に対し利用可能な水資源の影響を検証するよう特に促すものである。


 4)武力紛争時における医の倫理

[経緯]
武力紛争時にもその他すべての場合と同様の倫理的義務が適応される。実行すべき原則は、WMA医の倫理の国際綱領(ジュネーブ宣言)に明確に述べられている。医師としての第一の義務は患者に利益となる医療を提供することである。武力紛争中には、治療面においてだけでなく、研究や実験などその他すべての介入について、基準となる倫理規範が適応される。この修正案は2003年3月にイギリス医師会により提出され、各国医師会からのコメント、社会医学会、作業部会での検討を経て再起草され、採択された。

武力紛争時における医の倫理に関するWMA決議修正

(2004年10月、WMA東京総会にて修正)

1.武力紛争時における医の倫理は平時における医の倫理に等しく、WMA医の倫理の国際綱領に定められているとおりである。医師の第一の義務は患者に対するものである。つまり、医師としての職務の遂行において、医師の究極の指針は自らの良心である。
2.医師の第一の任務は、健康を維持し、生命を救うことである。それゆえ、医師の以下のような行動は非倫理的であるとみなされる。
a.患者の利益にとって正当と認められないような助言、あるいは予防、診断または治療的処置を行うこと
b.治療上の正当な理由なく人間の身体または精神を弱めること
c.健康な身体を危険にさらしたり生命を滅ぼすために科学的知識を利用すること
3.武力紛争時には治療に関してだけでなく、研究等その他すべての介入に対しても標準的な倫理規範が適用される。人体実験を含む研究を、自由を奪われたすべての人、特に民間人や軍の捕虜、および被占領国民に対して行うことは固く禁じられている。
4.慈悲と敬意をもって人々を治療するという医学的義務はすべての患者に適用される。医師は、年齢、疾病または障害、信条、種族的出身、性別、国籍、政治的所属、人種、性的志向、社会的地位、その他同種のいかなる基準をも考慮することなく、公平に、必要とされるケアを常に与えなければならない。
5.政府、軍隊、およびその他権力の立場にあるものは、ジュネーブ条約および同条約の追加議定書に従い、医療従事者が武力紛争という状況のなかで、ケアを必要とするすべての人に医療を提供できることを保障すべきである。この義務には、医療従事者を保護するという条件が含まれる。
6.平時と同様に、医療上の守秘義務は医師によって守られなければならない。しかしながら平時と同様、ある患者が他の人々に重大なリスクを与える状況もありうるため、医師はその患者に対する責務と、リスクを与えられる他の人々に対する責務とを比較考量する必要があるであろう。
7.武力紛争時に医師およびその他の医療従事者に与えられている特権や便宜は、医療上の目的以外で使用されてはならない。
8.医療従事者には病人や負傷者の世話をする明確な義務がある。そのようなケアの提供は妨げられるべきでなく、またいかなる種類の違反ともみなされるべきではない。医師は自らのいかなる倫理的義務に従うことについても決して起訴や処罰を受けてはならない。
9.医師は、携帯用飲料水、十分な食料、および避難所を含む健康にとっての必須条件であるインフラを提供するよう、政府およびその他当局に強く求める義務を負う。
10.紛争が差し迫って回避できそうにない場合には、医師は、当局が紛争終結後直ちに公衆衛生のインフラの修復を計画していることをできる限り確認すべきである。
11.緊急時には、医療従事者は迅速な治療の提供に全力を尽くすことが求められる。民間人であれ戦闘員であれ、病人および負傷者は必要なケアを迅速に受けなければならない。臨床上の必要性に基づく場合を除き、患者を区別するものは何もない。
12.医師は、患者と接し、医療機器および設備を利用でき、医療活動を自由に行うために保護されなければならない。スムーズな移動と専門家としての完全な独立性を含め、必要な支援が与えられなければならない。
13.職務遂行にあたり、医療従事者は通常、赤十字や赤新月社のような国際的に認知されたシンボルで特定されるものとする。
14.戦争地域にある病院や医療施設は、戦闘員やメディア関係者により尊重されなければならない。民間人であれ戦闘員であれ、病人および負傷者に与えられた治療は、後ろ向きの報道や宣伝材料として利用できない。病人、負傷者および死亡者のプライバシーは常に尊重されなければならない。


 5)医学教育

[経緯]
2003年3月、デンマークに本部を置く世界医学教育連盟が主催した医学教育世界会議において承認された「よりよい医療のための医学教育世界基準」に対するWMAの立場を表明した決議案

医学教育の質向上のためのWFME国際基準に関するWMA決議

(2004年10月、WMA東京総会にて採択)

WMAは、
1.医学教育の質向上のための健全な国際基準が必要かつ重要であることを認識し、
2.WMAの世界医学教育連盟(WFME)との特別な関係は、同連盟創設者の一員としてのものであることを認め、
3.それはWFME執行評議会において象徴されており、その立場において、1997年から実施されているWFMEの医学教育国際基準計画に共同責任を負っていることを認識し、
4.基礎医学教育、卒後医学教育、および専門能力開発(CPD)を扱った医学教育の質向上に関する国際基準WFME文書三部作の最近の進展を認め、
5.2003年3月、デンマークのコペンハーゲンで行われた医学教育世界会議におけるWFME国際基準(よりよい医療のための医学教育国際基準:Global Standards in Medical Education for Better Health Care)の承認を認めるがゆえ、
ここに、
6.医学教育における国際基準に関するWFME文書を実施するという現在の活動について、それを奨励し、支援することを表明する。


 6)医療上の緊急時における連絡

[経緯]
カナダにおけるSARSへのカナダ医師会の取り組みと見解、そしてそれらの各国国医師会への適用可能性について述べた文書。SARSに関する重要な背景情報を提供する文書として提案され採択された。

医療上の緊急時における連絡および調整に関するWMA声明

A.序文
1.2002年後半、新たな感染症である重症急性呼吸器症候群(SARS)が中国南部で発生した。2003年2月末にはこのSARSコロナウイルスにより引き起こされた疾病が世界的に拡大した。もっとも深刻な影響を受けた国は、中国、カナダ、シンガポール、ベトナムであり、これらすべての国では世界保健機関(WHO)が世界的警戒を発する以前にSARSが発生していた。WHOのデータによると、29カ国で8,422件の症例が発生しており、このうち上記の4カ国においては908症例が死亡した。
2.SARSは診断と治療がとくに困難な新興感染症であった。人から人へと急速に感染し、媒介動物等を必要とせず、特定の好発地域がなく、他の多くの疾患と類似する症状を示し、医療従事者の感染率がもっとも高く、そして驚くほど急速に世界中に蔓延した。旅客機の国際線ルートに沿ったSARSの拡大は、病原体に国境はないという事実を強調し、世界的な公衆衛生計略の必要性を著しく高めている。
3.SARSの大規模な発生は、医療システムが高度に発達している地域で起こった。医療基盤が脆弱な地域でSARSが発生していたら、このように感染を速やかに封じ込めることは不可能であっただろう。しかし、医療システムが発達している地域においてさえも、今回の蔓延時には特定の極めて重大な不備が露呈された。
現場の医師とのリアルタイムで実効的かつ双方向的な連絡ルートの欠如
この種の異常事態に対処するための十分な資源、医薬品や医療用具の備蓄不足
救急医療および公衆衛生システムにおける、患者大量発生時の対処能力の欠如
4.今回のSARS発生時には、公衆衛生当局(国および国際レベル)と臨床医学の間のギャップが明らかになった。2003年9月の総会において、WMAは「WHO(世界保健機関)に対し、世界の医療界が現状に沿った有意義な取組みと関与を早期に行えるようWHO緊急対応プロトコールを強化することを強く求める」というSARSに関する決議を採択した。

B.基本原則
5.国際社会は、新興感染症発生の脅威に対して常に警戒し、世界的な戦略に基づいて対応できるように備えておかなければならない。WHOの世界感染症警戒対応ネットワーク(Global Outbreak Alert and Response Network:GOARN)は、以下の活動により、世界的な公衆衛生の安全確保に大きな役割を果たしている。
国際的な感染拡大の防止
感染地域に対する適切な技術支援の速やかな提供
感染に対する長期的な準備と対応能力の強化への貢献
 WMAはGOARNネットワークに積極的に参加しているが、その役割は医療従事者間において適宜認識、促進されなければならない。
6.主権国家には、自国内における公衆衛生上のニーズに対応する責任がある。しかし今日における多くの差し迫った公衆衛生上のリスクは、一国内にとどまるものではない。国内の効果的な監視システムによって公衆衛生を脅かす異常な感染症の発生を早期に発見することと、WHO、その加盟国、およびWMAのような非政府組織が国際的に協力することが、国際的問題である公衆衛生上の緊急事態に効果的に対応するためには必要である。将来的に起こりうる新たな公衆衛生上の緊急事態に備え、各国における国際的な公衆衛生上の危機への対処をWHOが積極的に支援できるよう、国際衛生法規の範囲を拡大して強化することは、世界的な感染症管理のためのさらなる手段となるであろう。
7.WHOとWMA、WMAと加盟各国医師会(NMA)、およびNMAと医師の間の効果的な連絡により、公衆衛生上の緊急事態におけるWHOとその加盟国の間の情報交換を促進することができる。
8.新興感染症と最初に接触するのは医師であることが多い。したがって、医師は診断、感染患者の治療、および感染予防のあらゆる面において助力する立場におかれる。臨床現場および患者ケアに対する国および国際的な指示の影響が理解されるよう、公衆衛生上の緊急事態における意思決定プロセスには重要な専門知識を有する医師を参加させなければならない。
9.WHOとその加盟国は、WMAおよびNMAと協力し、新興感染症発生時の患者および患者ケアを行う医療従事者の安全対策を積極的に行わなければならない。予防用具の特定とそれらの医療従事者や患者への配布が遅れると、不安と感染拡大のリスクは高まる。必要な医療用品を十分に備蓄し、感染地域に速やかに届けるための国内および国際的なシステムが構築または強化されるべきである。SARS発生のような緊急事態においては、患者の安全を確保するためのあらゆる原則が尊重かつ遵守されるべきである。

C.提言
10.WMAおよびNMAは、WHO、各国政府、および他の専門職組織と緊密に協力し、本声明の原則を共同で促進すべきである。
11.WMAは医師に対し、a) 地域における原因不明の疾病および死亡に注意を払い、b) 異常な集団発生、症状および発現に対応するための疾病監視と対処能力に関する知識を高め、疑わしい症例の関係当局への速やかな報告に努め、c) 感染病原体の自身および他者への拡散を予防するための適切な手段を講じ、d) リスクコミュニケーションの原則を理解し、患者、家族、メディアに対して拡散のリスクや潜在的な予防手段(例:ワクチン)等の問題について明確に、脅えさせることなく伝達することを可能とし、e) 公衆衛生上の危機的状況における公衆衛生、緊急医療サービス、緊急時の管理、そして事故管理のシステムの役割や、これらのシステムにおける個々の保健専門職の役割を理解することを強く要請する。
12.WMAは、医師、NMA、および他の医療関連組織に対し、地域、国、および国際的な公衆衛生当局とともに感染症の自然発生に対する災害準備および対策プロトコールの作成と施行に参加するよう勧告する。これらのプロトコールは医師や市民の教育のための基盤として利用されるべきである。
13.WMAはNMAに対し、世界的な公衆衛生上の危機対策における管理調整組織としてのWHOのGOARNネットワークを促進かつ支援するよう要請する。
14.WMAは、感染症流行時に保健情報の伝達を大幅に強化し、双方向的な情報の流れを確保できるよう、WHOと戦略的な協力体制のための取り決めを結ぶことを求める。
15.WHOは、必要物資が速やかに輸送され、患者ケアにあたる医師が利用できるように、既存の医療用品の備蓄に基づいた在庫目録の作成を調整すべきである。
16.WHOは、国際保健規制を強化して、新たなそして将来における公衆衛生上の緊急事態の報告化を含め、国際的な公衆衛生上の脅威における各国の対応をWHOが積極的に支援できるよう適用範囲を広げるべきである。
17.感染症蔓延の管理に携わる医療従事者の移動を円滑にするために、国際的な合意が積極的に模索されるべきである。
18.現状のシステムにおける欠陥および将来的な準備体制の改善方法をよりよく理解するために、災害準備分野の研究が各国政府とNMAにより適宜促進されるべきである。
19.実情と緊急時に必要とされる具体的なニーズを考慮に入れ、急性感染症患者をケアする際の患者および医療従事者の安全に対して相当な注意が確実に払われるようにするため、医師の教育とトレーニング方法が修正されるべきである。
20.台湾も含めた世界中の医師は、公衆衛生上の緊急事態に関するWHOのプログラムおよび情報を無制限に入手できる。


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