10年目のカルテ

子育てをしながらでも
外来も病棟も手術も全部自分で診たい

【産婦人科】池宮城 梢医師
(那覇市立病院 産婦人科)-(前編)

開かれた雰囲気の産婦人科へ

10年目のカルテ

――産婦人科に進もうと思ったきっかけは何でしたか?

池宮城(以下、池):大学の臨床実習のときは外科に行きたいと思っていました。けれど、当時女性が外科に行くのはすごく敷居が高かったんです。将来結婚も出産もしたいなと思っていたので、外科で修行して、執刀できるのは何十年も先ということを考えたら、将来のビジョンがなかなか見えてこないな…と思いました。でもとにかく手術がやりたくて、じゃあ他に手術ができる科はどこかなと考えたとき、産婦人科が候補に上がりました。当時は産婦人科の医局も女性は2割ぐらいでしたが、それでも女性にすごく優しい、開かれた雰囲気の医局でした。患者さんも笑顔で帰っていくことが多く、全体的に明るい雰囲気だったことも決め手になりました。

――現在は何を専門にされていますか?

池:全般的に診ているのですが、この病院は年間400~500件のお産を受け入れる病院なので、産科が主ですね。またここはNICUがあるので、ハイリスクの妊婦さんの受け入れも多いです。割合としては通常分娩とハイリスクが半々くらいだと思います。また、婦人科腫瘍の手術なども行います。

――産科の仕事において、やりがいや難しさはどんなところにあるのでしょうか。

池:産科医の役割は、赤ちゃんを母体から出すタイミングや、出し方を決めることです。通常分娩であれば医師はほぼ立ち会うだけですが、ハイリスクであれば、胎児のリスクと母体のリスクの兼ね合いを考え、適切な選択をしなければなりません。どちらにも負担がかからないように分娩方法を選ぶことが産科の一番の難関で、やりがいのあるところだと思います。

妊婦さんの合併症も少なくなく、例えば妊娠高血圧症候群の治療は産婦人科医の仕事です。また、腎障害や心不全になってしまった妊婦さんなどは、内科の先生にコンサルトして、治療していただくこともあります。

妊娠をする前から何らかの疾患をお持ちの妊婦さんもいます。そういった場合には検査もしますし、自己免疫疾患など専門的治療が必要なときに他科の先生につなげるのも私たちの役割です。そうやって他科に診てもらいながら、産婦人科ではそれら基礎疾患に伴う胎児のリスクを診ます。お腹の中は私たちしか診られないので、赤ちゃんに合併症や奇形が出ないかどうかを見つけていきます。

10年目のカルテ

子育てをしながらでも
外来も病棟も手術も全部自分で診たい

【産婦人科】池宮城 梢医師
(那覇市立病院 産婦人科)-(後編)

子育てとの両立

――仕事をしながら、2人のお子さんを育てていらっしゃいますね。大変ではないですか?

池:大変ですよ。夫も医師なので、近くに住む祖父母や両親など家族のサポートがないとかなり厳しいと思います。私は周囲に恵まれたおかげで、今フルタイムで働いて当直もできていますが、外来だけ・検診だけという女性医師もたくさんると思います。

小さい子を保育園に預けることに抵抗のある人もいるかもしれませんが、私はそうは思わないです。この仕事をするために今まで頑張ってやってきたので、今やっているくらいの仕事量は確保したいんです。だから、私の子どもに生まれた宿命だよ、と思ってますね(笑)。

ただ、子どもと過ごす時間ももちろん私に必要な時間なので、それはそれで大事にしています。今の仕事と家庭の時間配分は、私にとってはすごくいい配分だなと思っています。

――出産のタイミングで悩んでいる女子医学生も多いと思いますが。

池:結局やりたいことは常にあって、仕事にも常に追われているものですから、最適なタイミングなんてないと思いますよ。「専門医資格を取ってから」なんて言う人もいますが、自分の人生なんだから、自分のタイミングでいいと私は思います。

ただ、産んだ後に時間的な制限が出てくるのは仕方がないので、逆にそこは自分でプランを立てる必要がありますね。今は昔と違ってサポートがとても充実しているので、仕事をしながらでも十分やっていけると思いますよ。

今後のキャリア

――今後のキャリアプランはどのように考えていますか?

池:将来的には大学院に進学して、研究というより現場で活かせる技術や資格を得たいと考えています。というのも、私が産後早くに復帰したのは、外来も病棟も手術も、最初から最後まで全部自分で診たいという気持ちがあったからなんです。そのためには、役に立つスキルを忘れてしまわないように、とにかく早く現場に戻らなければ…と思いました。外科志望だったからか、「切ってなんぼ」という考え方がまだ自分の中にある感じですね(笑)。

例えば婦人科のがん手術では、がん発症の低年齢化にともない、子どもをもつ能力をできるだけ温存しようと、例えば子宮頸がんなら頸部だけとって体部は残すという流れになってきています。あとは卵巣の腹腔鏡手術も発展してきていますね。そういう技術が全国で少しずつ普及してきているので、私も追いついて勉強して、臨床で活かせるようになりたいと思っています。

池宮城 梢
2003年 琉球大学医学部卒業
2013年7月現在 那覇市立病院 産婦人科