日医ニュース
日医ニュース目次 第1083号(平成18年10月20日)

第115回日本医師会臨時代議員会
唐澤会長 あるべき医療のための政策を掲げ,会員,国民とともにその実現を

 第百十五回日本医師会臨時代議員会が,十月七日に日医会館で開催された.全国から三百四十六名(定数三百五十名)の代議員が出席し,一般会計決算の件,特別会計予算の件など七議案が審議され,可決成立した.

第115回日本医師会臨時代議員会/唐澤会長 あるべき医療のための政策を掲げ,会員,国民とともにその実現を(写真) 午前九時三十分,石川育成代議員会議長の開会宣言,あいさつの後,議席の指定,定足数の確認,議事録署名人二名の指名と議事運営委員会委員八名の紹介が行われた.
 次に,唐澤人会長が,別掲(別記事参照)のとおり所信を表明.つづいて,竹嶋康弘副会長が,平成十八年四月以降の会務報告を行い,議事に移った.
 まず,第一号議案「平成十七年度日本医師会一般会計決算の件」,第二号議案「平成十七年度医賠責事業特別会計決算の件」,第三号議案「平成十七年度日医総研事業特別会計決算の件」,第四号議案「平成十七年度治験促進センター事業特別会計決算の件」を一括上程,宝住与一副会長による提案理由説明後,決算委員会(十五名で構成)に審議を付託した.
 さらに,第五号議案「平成十八年度治験促進センター事業特別会計予算補正の件」,第六号議案「平成十八年度医師再就業支援事業特別会計予算の件」,第七号議案「日本医師会会費賦課徴収の件」を一括上程,宝住副会長の提案理由説明後,予算委員会(二十五名で構成)に付託した.
 その後,代表質問と個人質問に入った(詳細については,『日医雑誌』十二月号の別冊参照).

代表質問

 ブロック代表質問(六件)への執行部の回答は,以下のとおりである.
 碓井静照代議員(中国四国ブロック)の看護師不足についての質問には,宝住副会長が,「大学病院等で行われている看護師等の大量募集では,看護師が特定の地域・医療機関に集中してしまう.このような現象は,日本の医療提供体制を根本から崩し,医療の安全性,良質な医療の提供を阻むものである」と述べ,看護師の偏在がますます加速することを危惧.早期に看護師不足の実態を把握し,附帯決議に盛り込まれた看護職員確保対策に対して,今後も厚生労働省に申し入れを行うと回答した.
 野村秀洋代議員(九州ブロック)の看護師確保問題の再浮上についての質問には,宝住副会長が,「昨年十二月に公表された第六次看護職員需給見通しでは,平成十八年の四万千六百人の不足が,平成二十二年には一万五千九百人の不足にまで改善すると見込んでいるが,これには七対一の看護配置などの,需給見通し算出の重要な要素が入っておらず,現実にはさらなる不足が見込まれる.厚労省には再集計を要求しているが,日医としても,実態を把握するため,日医総研で看護職員需給データを作成中である」と答えた.
 また,「今後も数字として表れてこない地域や医療機関間の偏在も考慮し,国が看護職員確保対策を実施するよう,強く主張していく」とした.
 西城英郎代議員(中部ブロック)の医療保険者が施行する新たな健診・保健指導についての質問には,竹嶋副会長が,「健診・保健指導のデータとレセプト内容との突合による管理医療への危惧は,重要な問題であると認識している.そのためにも,第三者評価機構が必要と考えている.また,健診・保健指導,特に治療中の患者への保健指導は,かかりつけ医の下でと考えている.健診だけでなく,保健指導をどうするかについても,医師会がかかわっていかなければならない」と回答.会内の「公衆衛生委員会」で今後議論し,対応していきたいとした.
 難波俊司代議員(近畿ブロック)は,(一)小泉内閣の医療改革の評価,(二)政府の医療費抑制政策に対する対峙,(三)国民医療推進協議会の今後,(四)日医総研に対する対応─の四点について質問を行った.
 唐澤会長が回答.
 (一)「骨太の方針」に基づく経済財政運営は,市場原理の導入で国民に格差社会と言われる最悪の結果をもたらし,社会保障制度改革は,すべて財政優先で行われたと批判.
 (二)今後の政権の政策運営を見極め,国民皆保険制度を守り,有効な地域医療体制を構築するため,大きく運動を展開することも視野にある.
 (三)適切な期日を選び,国民医療推進協議会参加の各団体にお集まりいただき,基本的な方向,活動方針などご意見をいただく機会をつくりたい.
 (四)日医総研は,基礎的研究と日医の政策提言に資するための短期的な調査研究に取り組んでおり,有能な人材を募るなど組織強化に努めている.
 城守代議員(北海道ブロック)は,介護保険法および障害者自立支援法に基づく認定審査のあり方について質問をした.
 岩砂和雄副会長は,次のように回答を行った.
 (一)一次判定コンピュータソフトの不備については,厚労省が今後,一次判定ロジック作成を目的とした高齢者介護実態調査を新たに実施するため,日医としても是正検討を要望する.
 (二)現在の認定調査員の指導・教育については,厚労省が,「全国一律」で「客観的かつ公平・公正」な認定のため,平成十八年度より「要介護認定都道府県等職員研修事業」を実施している.
 (三)要介護認定専門家派遣は二次判定時の重度変更の抑制かという質問だが,当該事業は,二次判定時の重度変更を抑制することが目的ではなく,要介護認定を平準化することが目的であると考えている.
 吉原忠男代議員(関東甲信越ブロック)は,病床大再編成時代の到来による病床削減の問題について質問を行った.
 竹嶋副会長は,「政府は,医療費抑制策,特に高齢者の医療費抑制策を進めてくると思うが,日医としては,医療上,特に入院医療が必要な患者さんに対しては,入院医療を保険給付すべきであり,患者さんの視点から,必要な医療が保険給付されるよう強く主張していきたいと考えている.
 療養病床については,医療制度改革関連法案の附帯決議である『すべての転換を希望する介護療養病床及び医療療養病床が老人保健施設等に確実に転換し得るために適切な対応を図る』『療養病床の患者の医療区分について速やかな調査・検証を行い,必要に応じて適切な見直しを行う』などの規定の遵守を厚労省に強く申し入れ続けている」と答えた.

個人質問

 午後一時十五分,個人質問に入る.
 (1)河西紀夫代議員(北海道)が,医療における消費税について,(2)稲倉正孝代議員(宮崎県)が,消費税の損税解消に抜本的対策をという質問を行った.
 今村聡常任理事は,医療機関の消費税問題は損得の問題ではないので,「日医としては,各方面の理解を得るため,損税ではなく,控除対象外消費税という用語を使用していきたい.
 また,この問題は,医療機関の経営に大きな影響を与え,地域医療の崩壊にさえつながりかねず,会内の医業税制検討委員会でも,“非課税制度をゼロ税率ないし軽減税率に改める”ことを要望している.
 今後,消費税の税率アップの時期がくると思うが,その時がわれわれの要望を通すタイミングだと思う.なお,この問題に関して会員の理解を深めるために,小冊子を配布する準備をしている」と説明した.
 (3)小松満代議員(茨城県)の,リハビリテーションの日数制限に関連した「国民の要望に耳を傾け,迅速に行動する日本医師会であることを望む」という質問には,中川俊男常任理事が答弁した.
 今回の診療報酬改定は,「患者さん本位の視点」が欠落しており,「医療の切り捨て」につながると批判.唐澤執行部発足直後から,リハビリテーションの日数制限や療養病床における医療区分等を“緊急的対応が必要な事項”と位置付け,問題解決に取り組む姿勢を表明し,現在,緊急レセプト調査の結果を分析中と説明した.また,時宜に応じ,日医の見解を記者会見等の場で公表しているほか,日医のイメージアップのためのテレビCMの放映を始めたことを報告,協力と理解を求めた.
 (4)杉山知行代議員(山口県)は,診療内容の分かる明細「領収証」交付の義務化について質問.
 これには,鈴木満常任理事が,まず,二十五年間の領収証をめぐる経緯に触れ,療養担当規則第五条の二の二により「患者から費用の支払いを受ける時は,正当な理由がない限り,個別の費用(診療報酬点数表の部)ごとに区分して記載した領収証を無償で交付しなければならない」と規定され,経過措置期限の満了した十月一日から記載することになったと説明.さらに,詳細な明細書の発行義務化には絶対反対との姿勢を示し,部別の領収証の発行の煩雑さや患者さんへの説明の困難さを中医協の場で訴え,簡便な代替法に結び付ける努力を続けるとした.
 療養病床再編に関連した,(5)大野尚文代議員(愛媛県)の療養病床問題と在宅療養支援診療所についてと,(6)大原重和代議員(兵庫県)の療養病床の機能維持のため,医療区分の再検討についての質問には,天本宏常任理事が回答.
 在宅療養支援診療所については,夜間等を含め二十四時間三百六十五日,一人での対応は困難で,地域の医療機関,看護師等との連携で実現可能になるとの考えを示した.さらに,「今日ほど地域ケアのシステム化について,地域医師会が中心的な役割を果たすことが求められている時期はない」との「介護保険委員会」報告書からの文言を引用し,各地区医師会が積極的に関与,支援して連携システムを構築することで,多くのかかりつけ医が在宅医療に取り組めるよう,リーダーシップを取って欲しいと要望した.
 また,医療区分の問題については,中医協で適正なデータに基づく情報分析や議論,特に,「地域ケア体制整備」「第三期介護事業計画の見直し」「介護保険施設における医療のあり方の見直し」等の検討や,保険,老健,医政各局の横断的事前協議もなされず,役割分担においても論理的整合性がない結果と指摘.(1)手続き上の問題(2)医療区分の妥当性における課題山積(3)報酬の結果が及ぼす社会的影響の大きさ(4)事前の対応策がなされていない─などを理由に挙げ,早急な再審議が必要との見解を示した.さらに,約三千施設の回答を得て,現在分析中の「療養病床に関する緊急調査」の調査結果を,今後の審議資料として活用していきたいとした.
 (7)高橋康文代議員(岩手県)の医療に対する警察の不当介入阻止についての質問には,木下勝之常任理事が答弁した.
 日医では,「医師法二十一条」に関連し,プロジェクト委員会として「医療事故責任問題検討委員会」を設置,会長諮問「医療事故と業務上過失致死罪による刑事処分との関係の検討,および法律改善策などについての提言」に対し,審議中であると説明.
 異状死を届け出る第三者機関の設置に関しては,臨床医が中心となって立ち上げた厚労省の「診療行為に関連する死亡の調査分析モデル事業」が全国七カ所で実施中である.まだ十分には機能していないが,日医としても検討を続けたいとした.裁判外紛争処理に関する“ADR法”については,民事裁判に代わるものとしては拙速な結論は避けるべきとの認識を示し,無過失補償制度は国が行うべきとの視点で交渉中だとした.
 (8)井上雄元代議員(千葉県)の看護職員不足の現状を国民に示すべきとの意見,(9)鈴木勝彦代議員(静岡県)の准看護師養成制度存続に対する今後の方針を問う質問,(10)福田光之代議員(秋田県)の日医が看護師不足に対する具体的な対応策を示すべきとの要望に対しては,羽生田俊常任理事が一括して答弁を行った.
 同常任理事は,まず,厚労省が示した第六次看護職員需給見通しに関して,宝住副会長の答弁と同様に,潜在看護師の現場復帰数を多く見積もっているなど問題が多いと批判.厚労省に対して再調査を強く求めており,日医でも看護職員の勤務状況を独自に調査する準備を進めていることを報告.その結果を基にして,中医協等で看護師の配置基準の見直しなどを求めていきたいとした.
 准看護師問題については,日医として,今後も准看護師養成制度の維持存続に向けてあらゆる努力を傾注していくとし,養成所に対し,今年度助成金の増額を行う考えを示した.
 さらに,フィリピン人看護師の受け入れ問題については,今後も「自国の看護職は自国で責任を持って養成すべき」との考えのもとに,慎重に対応していきたいとした.
 (11)西池彰代議員(北海道)は,有床診療所が抱える(一)地域医療計画の必要病床数への算入,(二)入院基本料の低さ,(三)介護療養病床への転換─等の問題点を挙げ,日医の早急な対策を求めた.
 これに対して,鈴木常任理事が回答.(一)については,病床過剰地域であっても,在宅医療の推進のため必要とされるもの等は新規開業が認められる意向であることを説明.(二)については,病院に比べて点数が低く設定されていることは問題だとして,日医が実施している緊急レセプト調査の結果などを踏まえて対応していくとした.(三)に関しては,会内の「有床診療所に関する検討委員会」で削減計画への対応や転換問題を早急に検討していくことを明らかにした.
 (12)加藤義博代議員(石川県)が,小泉政権が残した負の遺産(「社会保障制度の大幅な後退」「格差医療・偏在医療」「地域医療の混乱と崩壊の危機」)の再構築を求めたのに対しては,竹嶋副会長が回答.
 小泉政権の社会保障政策は財政優先のみの政策で,国民に不安を醸成したことは否めないと批判.日医としても,会内の「グランドデザイン作成会議」で検討を重ね,真に国民のためになる将来的な医療体制のスキームを財源論とともに明示すると断言.それを基に,国民はもとより,国会議員,行政府等に理解を求めていくとした.
 (13)嶋田丞代議員(大分県)は,日医総研について質問.
 今村定臣常任理事は,政府と厚労省が主導する医療政策に対峙し,国民に別の選択肢を示すことは日医の役割と指摘.日医の政策決定は,会内委員会,都道府県・郡市区医師会の意見とともに,日医総研の研究から導き出された提言を踏まえて行われており,日医と日医総研両方の機能強化が必要であると述べた.
 日医総研の経理ならびに決済システムの問題に関しては,監査報告,担当職員への事情聴取等の結果,不備なく適正に運用されており,また,日医総研の内部資料の漏洩を指摘する質問にも,引き続き契約等情報の厳正な管理徹底をしていきたいとした.
 (14)池田俊彦代議員(福岡県)は,診療報酬改定の検証について質問した.
 中川常任理事は,改定率の検証は,厚労省・日医・支払側ともに,厚労省が毎年九月に公表している「社会医療診療行為別調査結果」を用いて行われていると説明する一方,調査結果は,前年度六月審査分のレセプトについて行われたもので,その時点と改定以後で診療行動等が変化するため検証結果は異なると指摘.
 また,より迅速・正確に改定率の影響を検証するためには,医療機関が日医標準レセプトソフト(日レセ)を利用し,そのデータを日医で収集・分析する必要があり,今後,日レセを利用している会員に,協力を求めていく予定であるとした.
 (15)久山元代議員(京都府)の,国民医療推進協議会の活動成果に対する評価と今後の取り組みに関する質問には,岩砂副会長が次のとおり答弁した.
 国民医療推進協議会は,財政優先の医療制度改革に対し,署名運動等の国民運動を展開することで,混合診療や保険免責制の導入を阻止する成果を上げてきた.国民とともに考え,国民に安全で良質な医療提供の実現を目指す国民運動を展開してきた国民医療推進協議会は,日医の重要な活動の一つと理解している.
 今後の取り組みは,近く適切な時期に協議会総会を開催し,基本的な対応・活動方針など,広範囲な意見交換を行いたいとした.
 (16)今井三男代議員(神奈川県)は,産科における看護師の業務および助産師不足について日医の見解を質した.
 木下常任理事は,「産婦への内診は助産行為だから,看護師は内診してはならない」という,厚労省看護課長通知が出て以来,保健師助産師看護師法違反での事件が起きていると指摘.この定義は,学問的・医学的に理解できないので,「内診は診療の補助行為であって,助産行為ではない」とし,通知の撤回を強く求めていると説明した.
 また,この不適切な通知と助産師不足が相まって,分娩を取りやめる診療所が増加し,産科医療の崩壊が進んでいると指摘.助産師養成は,看護師が,夜間・通信教育などで助産師資格を取得できる社会人枠の創設などを,国に働き掛けていくとした.
 (17)渡部透代議員(新潟県)は,平成二十年度から実施予定の新たな健診・保健指導プログラムについて質問した.
 内田健夫常任理事は,改正により,健診・保健指導が保険者に義務付けられることから,地域医師会は,地域・職域連携推進協議会のみならず,保険者協議会にも何らかの形で参加することが必要であると指摘.従来の,老人保健法で行われてきた住民健診と同様に,医師会が受託して欲しいと述べた.
 また,保険者に対する第三者評価機構の立ち上げを,厚労省の検討会でも強く主張していると説明.改正による懸念事項への対応などについては,日医の会内委員会等で,検討を進めていく予定であるとした.
 午後三時五十五分,予算委員会,決算委員会の結果報告があり,質疑の後,いずれも賛成多数で可決した.
 最後に,唐澤会長・有山雄基代議員会副議長の閉会あいさつが行われ,午後五時十五分に閉会した.
 なお,会議冒頭に,第二十七回日本医学会総会の堀正二準備委員長が,総会の内容を説明し,参加登録への一層の協力を呼び掛けた.

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