日医ニュース
日医ニュース目次 第1116号(平成20年3月5日)

平成20年度診療報酬改定答申が行われる

土田 中医協会長が総括
「病院勤務医を支援するには,少なくとも1%の引き上げが必要だった」

 平成20年度診療報酬改定に関する答申が,2月13日に開催された中医協総会で取りまとめられ,土田武史中医協会長(早大商学部教授)から舛添要一厚生労働大臣に手交された.なお,答申に際しては,8項目の意見が付記され,今後の検討が求められた(別記事参照).

右から鈴木常任理事,竹嶋副会長,中川常任理事
 政府が昨年末に決定した改定率マイナス〇・八二%(診療報酬本体:プラス〇・三八%,薬価等:マイナス一・二%)という制約のもと,中医協では,社会保障審議会医療保険部会・医療部会が取りまとめた「平成二十年度診療報酬改定の基本方針」,社会保障審議会後期高齢者医療の在り方に関する特別部会が取りまとめた「後期高齢者医療の診療報酬体系の骨子」に沿って,具体的な改定項目の議論を重ねてきた.
 一月十八日の総会で,舛添厚労大臣から診療報酬点数表の改正案を作成するよう諮問を受け,同日には「平成二十年度診療報酬改定に係る検討状況について(現時点での骨子)」を取りまとめて公表.この骨子に対するパブリックコメントを求めたほか,公聴会を開催するなど,前回の改定に引き続き,医療現場や患者などの意見を広く改定に反映させるための取り組みも行われた.
 二月十三日の総会では,診療報酬点数表の改正案,付帯意見の案が示され,議論の結果,診療・支払両側がこれを了承することになった.
 答申の取りまとめを受けて,土田会長は,「初再診料の抜本的な見直しの議論ができなかったことは残念.病院勤務医を診療報酬の面から支援するためには,少なくとも一%の引き上げが必要だった」と今回の改定を振り返った.また,病院勤務医への支援に理解を示した診療側に,感謝の意を表した.
 今回の改定議論のなかで一番問題となったのは,緊急課題に挙げられた病院勤務医への支援策に対する財源をどのように捻出するかということであった.
 当初は,診療所の再診料を引き下げるとの案が示されたが,竹嶋康弘副会長を中心に,「再診料の引き下げは,昼夜を問わず頑張っている医師たちの意欲を失わせ,地域医療を崩壊させかねないので,認めるわけにはいかない」と強く反論.その結果,再診料の引き下げは回避され,公益側の裁定によって,「外来管理加算の見直し」「検査判断料の引き下げ」「軽微な処置の初再診料への包括化」「経過措置を設けたうえでのデジタル映像化処理加算の廃止」等を行うことで,その財源を賄うことになった.
 主な改定内容は,以下のとおりとなっている.
・再診料
 病院と診療所の格差是正を進めるとの観点から,病院(二百床未満)の再診料を三点引き上げ六十点とする(診療所は引き続き七十一点).
・外来管理加算
 提供される医療サービスの内容を患者が実感しにくいとの指摘を受けて,その意義付けの見直しを行った.具体的には,医師が患者の療養上の疑問に答え,疾病・病状や療養上の注意等にかかる説明を懇切丁寧に行うなど,療養継続に向けた取り組みを評価する.併せて,時間の目安を設けることとなったが,鈴木満常任理事は,「医療の質は時間で計れるものではない」と,一貫して反対の姿勢を示してきた.
 なお,後期高齢者における外来管理加算は,病院と診療所の点数を,五十二点に統一する.
・入院料
 前回改定で導入された七対一入院基本料については,地方の中小病院で看護師の引き抜きが起きるなど,医療現場に大きな混乱をもたらした.日医は,「看護職員の需給に関する調査」を実施し,調査結果を基にその是正を求めた.これを受けて,昨年一月には,中医協としてその見直しを求める建議書を取りまとめ,厚労大臣に提出している.
 今回の見直しは,その建議を踏まえて,算定要件に「看護必要度」と「医師配置基準」を導入.「医師配置基準」を満たさない場合には,六十点減算された準七対一入院基本料を算定すること,看護必要度の基準を満たすことができず,十対一入院基本料を算定する場合には,経過措置期間(平成二十二年三月三十一日まで)を設けて,看護補助加算を算定できることとした.
 一方,地域の急性期医療を担う医療機関を評価し,なおかつ,七対一入院基本料との点数格差を縮めるため,十対一入院基本料の点数を引き上げることになった.
・処方せん様式の見直し
 後発医薬品の使用促進を図るため,処方医が後発医薬品に変更することに差し支えがあると判断した場合にのみ,その意思表示として,所定のチェック欄に署名,または記名・押印することになった.今回の見直しは,竹嶋副会長が,昨年十一月九日の中医協で,処方権の全面的な尊重と処方せん様式の変更の際に工夫を行うことを前提として,その見直しに賛意を示したことを受けて実現したものである.
・後期高齢者
 本年四月から後期高齢者医療制度が創設されることに伴い,外来医療については,後期高齢者診療料(六百点)を新設.患者の同意を得たうえで,他の医療機関での受診スケジュールを含め,定期的に診療計画を作成し,心身にわたる総合的な評価や検査等を通じて患者を把握し,継続的に診療を行うことを評価する.対象疾患は,糖尿病,脂質異常症,高血圧性疾患等の慢性疾患および認知症など.
 そのほか,入院医療については,退院後の生活に配慮するため,日常生活能力を評価し,退院が難しい高齢者の円滑な退院を調整することの評価,退院後に入院前の保険医療機関に継続して通院した場合の評価を新設した.
・小児医療
 子ども専門病院など,手厚い人員配置により,高い水準の医療が提供されている医療機関に対する新たな区分(小児入院医療管理料1)を設けて,高い評価を行う.
 また,病院・診療所の小児科医の連携による救急医療体制の評価が引き上げられた.
・産科医療
 救急搬送された妊産婦を受け入れた場合の評価として,妊産婦救急搬送入院加算を創設.その他,ハイリスク分娩管理加算については,評価を二倍にするとともに,その対象の拡大を図った.
・病院勤務医の負担軽減策
 地域の急性期医療を担っている病院で,勤務医負担軽減策が具体的に計画されている場合を評価することを目的として,入院時医学管理加算(一日につき百二十点,十四日を限度)を新設.加えて,医師の事務作業を補助する職員を配置しているなど,病院勤務医の事務作業負担を軽減する体制を評価するため,医師事務作業補助体制加算(入院初日)を設けた.
 その他,軽症な救急患者を地域の身近な診療所で受け止める体制を推進するため,診療所の開業時間に行う夜間,早朝等における診療を評価する[初再診料にかかる加算を創設(五十点)]こととした.
・リハビリテーション
 疾患別のリハビリテーション料については,昨年四月に導入された逓減制を廃止するとともに,各疾患別の実施日数を超えたものについては,一カ月当たり十三単位まで算定可能とした.
 また,より早期に実施したものに関して,診療報酬上の評価を行うこととした.
 その他,回復期リハビリテーション病棟には,試行的に質の評価を導入した.
・有床診療所
 医療法改正に伴い,入院患者の病状の急変に備えて診療所の医師が速やかに診療を行う体制や,四十八時間を超えた入院医療を行う際の手厚い夜間の看護体制等を評価することになった.
・コンタクトレンズ検査料
 いわゆるコンタクトレンズ診療所で不適切な請求が頻発している状況等を鑑み,検査料の施設基準を厳格化した.
 このことにより,きちんと診療をしている眼科医には見合わない扱いになることから,鈴木常任理事は,不適切な請求が一掃された後には再評価するよう要請した.
・明細書発行の義務化
 四月からレセプトのオンライン化が義務化される四百床以上の病院は,患者からの求めがあった場合,明細書の発行が義務付けられることになった.なお,費用徴収については,「実質的に明細書の入手の妨げとなるような料金設定をしてはならない」とされた.
・慢性期入院医療
 療養病棟入院基本料については,医療経済実態調査の結果等を踏まえて,評価を引き下げることになった.議論において,天本宏常任理事は,受け皿がないまま,医療区分1の点数が政策誘導によって極端に低く設定されたことを問題視.その改善を今回の改定で要求し,医療区分1・ADL区分3は現状の点数が維持されるとともに,ADL区分3には加算(十五点)が新設された.

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