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平成27年(2015年)5月5日(火) / 日医ニュース

ダライ・ラマ法王来日記念講演会

ダライ・ラマ法王来日記念講演会(主催:日医,協力:横浜市立大学医学部)が4月4日、日医会館大講堂で開催された。

※講演の映像配信はこちらから

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 当日は、ダライ・ラマ法王が「医学の進歩と死生観」をテーマに講演した他、横倉義武会長との対談も行われた。

 今回の記念講演会は、多くの日本の医師達と話す機会を持ちたいとのダライ・ラマ法王の強い希望を受け、法王の21回目の来日に合わせて、日医が招待する形で実現したものである。

 講演会は、今村聡副会長の司会で開会。冒頭あいさつした横倉会長は、「今回の講演の機会を得たことは大変光栄なことである」とした上で、「本日参加の先生方が新たに得られた知見を医療の実践の中で十分に発揮し、その恩恵を広く国民が享受することを期待したい」と述べた。

 引き続き、ダライ・ラマ法王が「医学の進歩と死生観」をテーマに講演(要旨は下記記事を参照)。

 参加者との質疑応答では、「自殺や安楽死に対する考え方」等、多くの質問が寄せられ、ダライ・ラマ法王から丁寧な回答が示された。

 その後は、今回の講演会開催に尽力頂いた井元清隆横浜市立大学附属市民総合医療センター教授の進行の下で、ダライ・ラマ法王と横倉会長の対談が行われた。

 横倉会長は、ダライ・ラマ法王が講演の中で、「医療者は人の苦痛を除き、人のために尽くす菩薩のような人だ」と発言したことに感謝の意を示すとともに、「法王の言葉を聞いて、医療者は患者にとって菩薩であり続けなければならず、そのために努力していかなければならないことを改めて実感した」と述べた。

 超高齢社会を迎えたわが国に必要な仕組みに関しては、ダライ・ラマ法王が、「高齢化にどう対応していくかという課題は、多くの国が抱えている重要な問題だ」とした上で、退職後に高齢者が幼稚園で働く機会を設けているスウェーデンの例を紹介。「高齢者に精神的にもいきいきと過ごしてもらうことが、肉体的にも健康でいられることにつながるのではないか」とし、「医師にはその検証をしてもらい、良い方策を提言してもらいたい」と述べた。

 更に、「人間の生命に、医学・医療はどこまで関わっていくべきか」という問題に関しては、ダライ・ラマ法王が、「道徳や倫理観に基づいた行動をしなければ、間違った方向に行ってしまう」と指摘。その道徳や倫理観を身につけてもらうには、幼い時から、子ども達にも分かる言葉で、世俗の倫理観について教育し、争いではなく、対話でなければ問題を解決することはできないことを理解させることが必要になるとした。

 最後に、ダライ・ラマ法王は参加者に「『体のレベルで優れた医療を受けること』と『心のレベルのケア』の2つがそろって初めて完璧な医療と言える。医師の皆さんは優れた技術と医療に関する知識をもっている方であり、思いやりの気持ちをもって、患者に接してもらいたい」と要望。

 これに対して、横倉会長は賛意を示し、「今の医学教育はどうしても知識と技術に偏重したものになっていた気がする。今後はより患者の心(気持ち)を大事にした医療を行っていけるよう、努力していきたい」と述べ、講演会は終了となった。

 講演会終了後には、道永麻里常任理事からダライ・ラマ法王に花束が贈呈された。

 その後、横倉会長とダライ・ラマ法王は日医会館の玄関脇に移動し、今回の講演会を記念して、西洋シャクナゲの苗木の植樹を行った。

ダライ・ラマ法王講演「医学の進歩と死生観」(要旨)

 ダライ・ラマ法王講演(要旨)/「医学の進歩と死生観」

マイナンバー会長挨拶写真

マイナンバー会長挨拶写真

 今日お集まりの方々は、人々を助けるために働いている方々であり、仏教の言葉で言えば、皆様方は菩薩と言えます。就労されている人々は、何らかの形で、この世の中に貢献されているわけですが、医療に携わる方々は人間の命を救うという尊敬すべきお仕事に就かれている方々ばかりです。
 病院に来る人達は、痛みに苦しみ、それを治して欲しいという思いで来るわけですが、そういう時に皆様方が温かい気持ちで接してくれれば、大きな治療効果が生まれ、患者達は新たな人生を始めることができるという気持ちになることさえあるのです。
 それではここで、私自身の紹介をしたいと思います。私自身はこの地球上に住んでいる70億人の人間の1人に過ぎません。つまり、全ての人類というものは、精神的にも、肉体的にも何ら変わりはない同じ立場にあり、私は一人ひとりの人間を、私の兄弟、姉妹であると常に認識しています。
 全ての人々は幸せでありたいと願っていますが、私達には望んでいない苦しみや問題が次々に起きてきます。それは私達自身が非常に狭い視野で、自分の身の周りのことだけを考え、自分さえ良ければいいという行動をとってしまっているからなのです。
 そこで今、なさなければならないことは、人間は一つの家族であるという感覚を世界に広めていくことではないかと私は思っています。
 近代社会は互いに依存しているわけで、隣人を破壊するような行為は、自分達も破壊する行為につながるのだということを、人類は今、新たに認識すべきなのです。自分の望みと七十億人の望みは、決して別ではないということを知って頂きたいと思います。私は、その認識を一般教育を通じて、広く普及させていくべきであり、それが私の第一の使命であると考えています。
 次に、私の第二の使命についてです。世界の中には、さまざまな宗教がありますが、その異なった宗教観の調和を図ることが私の使命であると考えています。私は、宗教を信心されている全ての方々を、精神的な姉妹や兄弟であると思っていますし、今は、全ての方々がその宗教観の違いを乗り越えて、調和を図る努力をすべき時ではないかと考えています。
 世の中には、宗教という言葉を語りつつ、互いに殺し合ったり、戦争をしたりすることで、人類に対して問題を引き起こしているという現実もありますが、自分の属する宗教以外の宗教を信じる方々にも心からの敬意をもって接する、そして、互いの理解を深めるという努力をしていけば、必ずや異なった宗教観の調和を図ることができると私は信じています。
 私の第三の使命ですが、これは、チベット人として、私が果たすべき使命となります。仏教には、"心の科学"と言われる、古代から引き継がれてきた私達の心や意識を、どのようにより良く変容すべきであるかということを教えてくれるものがありますが、それは現代人を救うことにも役立つものです。
 このような意味で、私は、このチベット仏教を源とするチベット文化は、世界の人々に役立つ、人類の遺産とも成り得るものであると思っており、それを守っていきたいと考えています。
 また、これに加えて、私はチベットの環境も守っていかなければならないと考えています。北インド、東南アジアに流れる大河の多くはチベット高原の雪山から流れ出ているものですが、この大河はこれらの地域の人々の命をつないでいます。そういった意味でも、チベットの環境も守っていくことが私の大きな使命と言えます。
 最後になりますが、私はこの7年近く、胆石に苦しみ、医師の勧めもあり、胆のうの切除をしてもらいました。今は非常に健康であり、新たな人生を与えてくれた医師の皆様方には非常に感謝しています。本日はありがとうございました。

 ダライ・ラマ法王/1935年生まれ、2歳の時にダライ・ラマ14世として認定され、1940年に即位。その後、1959年にインドに亡命、インドのダラムサラに樹立されたチベット亡命政権の国家元首となり、チベット民族の国家的、精神的指導者となっている。1989年には、ノーベル平和賞を受賞。

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