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平成28年(2016年)6月5日(日) / 日医ニュース

「2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて」をテーマに

「2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて」をテーマに

「2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて」をテーマに

 日本医師会災害医療シンポジウムが、「2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて」をテーマに5月15日、日医会館小講堂で開催された。
 本シンポジウムは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、競技会場やその周辺地域における将棋倒し等やテロリズムによる集団災害に備える必要があることを踏まえて、事前の対策立案や災害発生時の対応等の質の向上を目指して開催されたものであり、競技開催予定の都道県の医師会、行政、関係省庁等から52名が参加した。
 石井正三常任理事の司会で開会。冒頭、井上惠嗣東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会大会準備運営第一局長よりあいさつが行われた後、シカゴマラソン大会メディカルディレクターのジョージ T. チャンパス ノースウエスタン大学ファインバーグ医学部救急医療・整形外科助教から、「マスギャザリングイベントと危機管理」と題して講演が行われた。
 チャンパス氏は、ボストンマラソンでの爆弾事件(2013年)やパリ同時多発テロ(2015年)などに触れ、Mass Gathering(多数の参加者)イベントはテロリスト等からの攻撃対象になりやすく、その危機管理が重要になると指摘。
 その上で、ICS緊急時総合調整システムにおける統合指揮体制の下で行われたシカゴマラソンでの事例を基に、統合指揮の必要性、その実現方法、公共の安全対策等について、6大大会運営学会のガイドブック等を紹介しながら具体的に解説した。
 加えて、全ての災害において、問題となるのは、現場での情報共有不足であると説明。その解消のためには、情報共有方法、伝達方法、情報へのアクセス方法等、常に正しい情報共有に向けた調整がポイントになるとして、「司令室を設置し、あらゆるリソース(施設、人員、装備、手順、情報通信等)を統一指揮系統の下で効率的に運用すること」「関係省庁、医療関係者、ボランティア、民間企業等、関係する全ての組織が、大会を安全に行うという同一目標の下、協力して取り組むこと」を求めるとともに、「2020年の大会開催に向けて、日本においても顔の見える信頼関係を築いていって欲しい」と述べた。
 続いて、3名の演者が講演を行った。
 坂本哲也帝京大学医学部附属病院長/同救命救急センター長は、「日本のMass Gathering Medicine」と題し、マラソンイベントや花火大会等ではリスクファクターを基に、ある程度傷病者は予測可能で、その人達に対する医療支援体制は整備されつつあるが、イベント関連事故(火災、崩落、将棋倒し)、自然災害、テロリズム等による「予測不可能な傷病者」への災害医療体制は現状では不十分であると指摘。
 Mass Gathering Medicineの今後の課題としては、①イベントを実施する組織に救急・災害医療対策チームとその責任者を公式に組み入れる②救急・災害医療対策の責任者が権限を持ってイベントにおける医療を監督する③救急事故やテロを想定した災害医療に対する訓練を重ね、その結果を検証する―等を挙げるとともに、現場医療スタッフ、搬送体制、受け入れ病院の準備等について、災害医療の視点での見直しが求められるとした。
 山口芳裕東京DMAT運営協議会長/杏林大学医学部救急医学主任教授・高度救命救急センター長は、オリンピック・パラリンピックによる近隣医療機関への救急対応の負荷について、通常は1・5~2・0%増であるが、2020年8月の東京開催では、高温多湿等の影響によって、そのリスクは3・0%程まで高くなると予想。
 また、外国人患者受け入れの課題としては、「多言語への対応」「治療費の不払い」等を挙げ、安全かつ安心に開催するためにも、医療を開催準備の枠組みの中に早期から位置付けることが必要だと強調するとともに、準備する医療は、テロ等の重大事案への対応も考慮に入れ、Mass Gathering対応だけでなく、法執行機関とも密接に連携したものにしなければならないとした。
 鈴木康裕厚生労働省大臣官房技術総括審議官は、「2020年東京オリンピック・パラリンピックにおける健康危機管理」と題して、大会開催月の気温と湿度を一番の懸念事項に挙げ、本大会の開催には熱中症対策が必須であり、競技会場等の暑さ対策、発信すべき関連情報の内容や提供手段等を検討中であるとした他、多言語による情報提供を順次開始予定であることや、「食中毒対策」「医療機関における外国人患者受け入れ」等への取り組みを紹介。
 その上で、緊急事態への危機管理体制を周到に準備したとしても想定外のことは必ず起こるものであり、その際には、平時のルールに捉われず何ができるかが重要になるとして、「各自治体には、阪神・淡路大震災や東日本大震災での事例等を基に、自治体間で知見を共有して欲しい」と要望した。
 その後は、司会の石井常任理事が、日医総研で翻訳を進めていた『国際マラソン医学協会医療救護マニュアル(暫定版)』が完成したことを報告。引き続き、4名の講師と参加者との間で活発な討議がなされ、最後に、猪口正孝東京都医師会副会長が総括し、閉会となった。

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