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令和3年(2021年)9月20日(月) / 日医ニュース

オンライン時代の到来:医療に与えるインパクト

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オンライン時代の到来:医療に与えるインパクト

オンライン時代の到来:医療に与えるインパクト

●時代の移り変わり

 テレビがわが家にやってきたのは、私がまだ小学生だった前回の東京オリンピックの頃だったように記憶している。コンピューターは大学時代に登場し、スマホを使い始めたのはつい最近になってからのことである。長年生きていると、時代の移り変わりというのが実感をもって感じられる。

●外科の革命

 医療の分野に限れば、最大の変化は私が外科医となり、10年目を過ぎた頃にやってきた。内視鏡手術という新しいやり方が欧米から日本にもたらされ、瞬く間に世界中へと広がった。大きな傷こそ名医の勲章と言われていた時代に、小さな穴を通して行われるこの術式は、外科医の考え方を180度転換した。これまで見たこともないやり方に、教育へのニーズは未曽有(みぞう)の高まりを示し、九州大学病院には海外からも数多くの医師が見学に訪れていた。

●日韓共同プロジェクト

 時代はちょうど21世紀に入り、2001年には小泉内閣の下、e-Japan計画として日本のインターネット化が宣言され、また2002年には日韓ワールドカップが2カ国共同で開催された。福岡と釜山(ぷさん)の間に超高速回線が敷設されたことを契機に、九州大学は玄海プロジェクトと呼ばれる情報通信を活用した産学官の共同事業を開始した。

●遠隔医療1・0

 韓国側の担当校に、私がアメリカの研究室で一緒だった医師が偶然勤務していた関係で、遠隔医療がプログラムの一つとして採用され、2003年には内視鏡手術を韓国へライブ配信することに成功した。ここで最も重要な要素は、工学部の先生と協働し、非圧縮の映像を市販のコンピューターを用いて転送できる画期的なシステムを、世界に先駆けて開発できたことである。高価な衛星放送や専用機器を購入することなく、安価に利用できるこのシステムは、多くの開発途上国を抱えるアジアを中心に世界中へ広がることとなった。

●活動の拡大

 内視鏡手術への大きなニーズに応えるために、数多くの遠隔セミナーやライブ手術が企画されたが、この活動は外科以外の分野へも急速に広がった。例えば、消化器内視鏡では時期を同じくして超音波内視鏡など新たな診断・治療手技が開発され、外科同様に教育のニーズが高まっていた他、胃がんの早期診断といった領域も、アジア諸国にとっては大きな関心を集める領域であった。地理的拡大も目覚ましく、その後、約20年間に79カ国の1147施設へ、39分野で1300回を超えるプログラムを開催した。

●コロナの激震

 このような遠隔医療の流れが、昨年初めからの新型コロナ感染症の影響により、大きく変わることとなる。人の移動が厳しく制限される中、まずあらゆる種類の会議や講義などが、オンラインに移行せざるを得なかった。4月の新学期を前に、大学では急きょシステムを導入し、また、春先から夏にかけて予定されていた学会や研究会はその対応に苦慮した。多くの集会が中止や延期に追い込まれる中、短い準備期間で果敢にオンラインへの切り替えを試み、成功裏に終えた集会には感嘆することも多かった。

●予期しなかった利点

 大きな混乱の中からは、多くの新たな発見もあった。まずは参加者の増加。不慣れな設定や操作にもかかわらず、多くの集会では参加者が大幅な増加を記録した。移動に要する時間や費用はもちろん、自宅や勤務先など、どこからでも参加できる利便性が大きな要因だった。また、人の頭に邪魔されたりすることもなく、快適に講演を聞ける環境、更にはカジュアルな服装でリラックスして参加できる雰囲気も多くの人を惹きつけた理由の一つであろう。

●更なるメリット

 海外との接続性も大きな利点である。国の内外を問わず、世界中からの招聘(しょうへい)や参加も容易で、国際会議のセッティングが格段に簡素化した。一方では、社内や学内での移動も不要となるため、「会議の梯子」も容易で、業務の効率性も飛躍的に向上した。

●技術的な側面

210920l2.jpg これらの変化の陰には、Zoomに代表されるさまざまなビデオ会議システムのタイムリーな普及という、技術面での進歩があったことも忘れてはならない。
 シンポジウム形式のウェビナーや、グループ討論のためのブレークアウトセッション、またホワイトボード共有やライブアンケートなど、議論を活発化できる機能も続々と登場している。
 更に、グループではなく個人で参加することが多くなる中で、ハウリングやエコーなど音の問題も減少し、技術的なサポートの必要性も低下している。

●究極の限界

 しかしながら、何と言っても対面での会議にかなわないのは、直接的なコミュニケーションで得られる人間的なやり取りである。技術的には仮想空間での学会場の設定や交流の場の提供など新しいソフトウエアの開発がなされてはいるものの、直接の触れ合いに勝るものはない。

●ポストコロナ

 新型コロナにより、私達は否応なしにオンラインコミュニケーションの世界に導かれ、その恩恵と限界を認識することとなった。コロナ後もいったん実感したオンラインの利便性は手放すことはできず、会議や学会も対面との共生・共存になろうことは容易に想像できる。

●新たな時代の始まり:遠隔医療2・0

 私達は時代の移り変わりを目撃し、その真っ只中にいる。このオンライン時代の新たなツールを、どのような形で医療に活用していくかを問われている段階に来ているのではないだろうか。

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