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令和3年(2021年)10月5日(火) / 日医ニュース

「令和4年度診療報酬改定」「新型コロナウイルス感染症に対する今後の医療提供体制」をテーマとして活発な討議

「令和4年度診療報酬改定」「新型コロナウイルス感染症に対する今後の医療提供体制」をテーマとして活発な討議

「令和4年度診療報酬改定」「新型コロナウイルス感染症に対する今後の医療提供体制」をテーマとして活発な討議

 令和3年度第2回都道府県医師会長会議が9月21日、「令和4年度診療報酬改定」「新型コロナウイルス感染症に対する今後の医療提供体制」の二つをテーマとして、WEB会議により開催された。

 会議は松本吉郎常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした中川俊男会長は、日本の状況について、「医療提供体制等の指標に関しては全国的には改善傾向にあるが、依然として、医療提供体制が逼迫(ひっぱく)した状況にあることに変わりはない」と指摘。「このままの状態が続けば、医療自体を受けることができない状態に陥ってしまうとの危機感から、日本医師会として、誰もが必要な時に適切な医療を受けられる体制を整備するための取り組みを強化・徹底している」とした。
 その上で、「いまだ新型コロナウイルスの収束が見えない中で、医療の担い手である医療機関の経営安定化に向けた診療報酬上の特例的な対応等が更に重要になることは言うまでもないが、その一方で、来年度の改定に向けた平時における診療報酬の体制整備も欠かせない」と強調。「本日の会議でのご提言等を参考としながら、厚生労働省など関係各所と協議の上、地域の実情に則した取り組みを推進していきたいと考えており、各地域での課題等も含め、忌憚(きたん)のない意見を聞かせて欲しい」と呼び掛けた。

Aグループ「令和4年度診療報酬改定」

 「令和4年度診療報酬改定」をテーマとしたAグループでは、松永啓介佐賀県医師会長が議長、稲野秀孝栃木県医師会長が副議長をそれぞれ務め、主に(1)コロナ後を踏まえた診療報酬改定、(2)オンライン診療、(3)かかりつけ医の診療報酬上の取り扱い ―について、議論が行われた。
 (1)では、新型コロナウイルス感染症に関する診療報酬上の特例の延長・継続や、特に小児科、耳鼻科の経営が厳しい状況にあるとして、その支援を求める意見が多く出された。
 愛知県医師会からは、「新型コロナウイルス感染症の影響がある中で、国民が望む医療を提供するためには、どれくらいのプラスの改定幅が必要なのか、日本医師会が試算して示して欲しい」といった意見や、コロナの影響で受診日数が少なくなっていることを踏まえた診療報酬の改定(「特定疾患療養管理料」の要件緩和など)を求める要望が出された。
 その他、鹿児島県医師会からは、高額薬剤の使用が医療財政の逼迫を招きかねないとして、各国が協力し、開発費用に見合う金額を国が負担するようにするなど、薬価が高額にならない工夫が必要との考えが示された。
 (2)では、「オンライン診療の有用性は認めるが、オンライン診療ありきでその導入を進めることは危険」(山口県医師会)、「初診は対面診療を原則としなければ、医事紛争につながりかねない。また、札幌の患者であれば北海道だけでオンライン診療ができるなど場所を限定すべき」(北海道医師会)といった意見が出された。
 また、愛知県医師会は、オンライン診療を行う場を医療機関内に限定して行うようにすることを求めるとともに、オンライン診療の導入が進むことで、キャッシュレス化も進むとして、それに伴う医療機関の負担の解消も考えるよう求めた。
 (3)では、多くの医師会から、かかりつけ医を診療報酬上の評価として、包括化が導入され、そのことが人頭払いに結び付けられることへの懸念が示された。
 その後の全体討議においても、多くの医師会から、かかりつけ医に関して意見が出された。鹿児島県医師会は「全国の医師がかかりつけ医としての自覚を持ち始めている」として、これを評価する一方で、「そのことを診療報酬上の評価と結びつけることは別の話だ」と主張。茨城県医師会は、日本医師会が行っている「日本医師会 かかりつけ医機能研修制度」の充実・強化を求めた他、大阪府医師会は外来機能報告制度について、無床診療所にも広がれば包括化が進み、かかりつけ医機能がなくなってしまうと危機感を示した。
 また、福井県医師会は、かかりつけ医の診療報酬上の評価に包括化を導入することに反対する理由を、明確に国民に示す必要性を指摘した。
 その他、奈良県医師会は後発薬品の自主回収が進み、安定供給されていないとして、その改善を要望した。
 これらの議論を踏まえてコメントした松本常任理事は、「診療報酬という公定価格で運営されている以上、どのような診療機能や診療科を選択したとしても、経営が成り立つ診療報酬体系であるべき」という診療報酬に対する日本医師会の基本的なスタンスを説明。
 その上で、小児科、耳鼻咽喉科の経営が厳しい状況にあるとの指摘に対しては、地方における小児科不足や医師偏在の解消に寄与する診療報酬体系に改善できるかといったことについて、今期の社会保険診療報酬検討委員会で「新型コロナウイルス感染症に対応した診療報酬のあり方」という会長諮問を検討していることを報告。具体的な支援策としては、乳幼児加算の更なる評価などについても検討していきたいとした。
 かかりつけ医に関しては、「医療費抑制のためにフリーアクセスを制限する『制度化』ではなく、国民に社会や健康に関する教育・啓発などを行って意識改革を促し、『骨太の方針』にも記載されているとおり、上手な医療のかかり方を広め、かかりつけ医を普及していくことが大事になる」との考えを明示。外来診療の包括化や人頭払いに関しては、「絶対に認めることはできない」と強調した。
 その一方で、地域包括診療加算・診療料、機能強化加算などについては、さまざまな先生方が算定できるよう、裾野を広げる対応を今後も続けていくとした。
 オンライン診療については、「対面診療が原則」という日本医師会の考えに変わりはないとするとともに、例えば遠隔診療など、どうしても医師が近くにいない場合や、特殊な領域の医師がいない場合はメリットがあるが、一般的なオンライン診療の場合はデメリットの方が大きく、遠隔診療とオンライン診療は分けて考えていくべきとした。
 「特定疾患療養管理料」を月1回の点数に改編、あるいは対象疾患を拡大すべきとの指摘に対しては、「財源の問題で難しい点もあるが、時代に合わない内容となっている部分については、先生方の意見を参考にしながら、見直しできるよう検討していきたい」と述べた。
 その他、高額薬剤の問題については、「市場の拡大が予想される薬剤に関して、現行の制度だけでは薬価を制御できなくなることも想定され、この問題は制度全体の中で考えていくべき」と中医協で発言していることを説明し、理解を求めた。

Bグループ「新型コロナウイルス感染症に対する今後の医療提供体制について」

 「新型コロナウイルス感染症に対する今後の医療提供体制について」をテーマとしたBグループでは、須藤英仁群馬県医師会長が議長、馬瀬大助富山県医師会長が副議長をそれぞれ務め、各医師会より、病床のあり方や保健所との連携などに関する問題提起や地域の実情の報告がなされた後、活発な議論が行われた。
 宮城県医師会は、今回のコロナ禍において、わが国の人口当たりベッド数は欧米に比較して多いにもかかわらず医療提供体制の逼迫(ひっぱく)を招いたことで、民間病院の受け入れ態勢に問題があると報じられたことを問題視。今後、病院の集約化が声高に論じられていくことに危機感を示した上で、診療報酬が低く、平時の人員配置や設備の面で余裕がないことが、非常時の体制に影響したことを強く主張していくべきだとした。
 静岡県医師会は、自宅療養者のフォローについて、県から医師会へ強い要請があったとし、手挙げにより多くの診療所が往診を行ったことを説明。宿泊療養が逼迫した頃は医師会から常駐の医師を手配していたものの、患者が減りつつある現在は病院の医師が対応しているとし、今後の体制については、有事を想定して専門病院を設けることを知事とも話し合っていることを明らかにした。
 大阪府医師会は、第4波において19名が自宅で亡くなり、第5波においては調整中を含めて2万人にもなる自宅療養者への対応が医師会としての課題であったことを報告。第4波の際には90医療機関が往診に参加していたが、今回実施したアンケートでは661医療機関が「往診可能」と回答したとし、患者に寄り添える体制を構築するため、自宅療養者への対応ガイドを作成するとともに、感染予防知識を高めるための医師と看護師に向けた研修会を開始、今後も継続していくとした。
 広島県医師会は、危機管理の司令塔が迷走した反省に立ち、今後の危機管理体制を検討しているとし、自治体と医師会の官民一体の体制で臨めるよう、知事に法的強制力のある権限を持たせる法改正を国に要望することを求めた。
 また、新たな変異株の出現や第6波を見据え、危機管理体制の確立が急務であることから、新興感染症対策が追加される2024年度からの第8次医療計画を前倒しし、新興感染症対策を盛り込むことを提言した。
 宮崎県医師会は、新型コロナウイルス感染症の患者数は少なかったものの、医療提供体制が脆弱(ぜいじゃく)であった同県における対応を説明するとともに、小児科、耳鼻科以外も大きなダメージを受けていることを報告。まずはその手当てをした上で、平時から非常時の医療提供体制を構築することが必要だとし、その中には介護の視点まで含めていくべきであるとした。
 意見交換では、ICUのベッド数把握や携わる医療従事者の育成の重要性が強調された他、保健所との連携、県や市との調整のあり方について議論が交わされた。
 その中で大阪府医師会からは、対応能力を超えた保健所をカバーするため、コロナの陽性が判明した場合は開業医に電話するよう促すパンフレットを配布し、電話診療で薬を処方するなどの協力を行ったことや、往診についての窓口を医師会に設けて、医療機関を紹介していることの報告がなされた。
 その後の全体討議では、「コロナ患者用のベッドを設けても、看護師が不足して重症患者を受け入れるのに半分程度しか使えない。病床を減らして機能を上げるしかないが、在宅医療にも看護師が必要で、全体としての配分を考える必要がある」(茨城県医師会)、「自宅療養者への対応のガイドブックをつくって会員に配布したが、保健所にPCR検査陽性の連絡をした後のフィードバックがなく、連携がうまくいっていない」(岡山県医師会)、「昨年4月から入院のコーディネートセンターにDMATの医師が関わり、ホテル療養や入院のトリアージを行っているため、保健所はクラスター対策や疫学調査に専念できる」(福井県医師会)など、各医師会の実情や取り組みについての発言が見られた。
 これらの議論を踏まえてコメントした釜萢敏常任理事は、人口規模や医療提供体制、感染状況が異なるそれぞれの地域での奮闘(ふんとう)に謝意を示した上で、「わが国の病床数は諸外国と基準が違うため一概に比較できないが、今後のあり方においては、急性期に使える病床に焦点を当て、特にICUの必要数をしっかり検討していく必要がある」と指摘。「コロナ用の病床を準備するためには、その倍以上のベッドを休ませることになるが、そのための財政的支援がなされなくなった時にどうするかも検討していく必要がある」とした。この他、日頃から医療従事者の対応能力を高めておくことが大切だとし、保健所機能を医師が積極的に担っていくことも求めた。
 最後にあいさつした中川会長は活発な議論が行われたことに感謝の意を示した上で、まず、9月末で期限の切れる新型コロナウイルス感染症に関わる診療報酬上の特例について言及(別記事参照)。「財務省は予定どおり9月いっぱいで終了すると冷徹なことを考えているようだが、ゼロ回答など決して許されることではない」とし、一定の財源を国庫から支出してもらえるよう、引き続き交渉していく考えを示し、理解を求めた。
 かかりつけ医に関しては、当日の議論で多く出された「かかりつけ医の機能のあり方と診療報酬上の評価を無理にリンクさせない方が良い」との意見に対して賛意を示すとともに、診療報酬上の評価として、包括化の導入が行われることのないよう、引き続き注視していくとした。
 ワクチン接種に関しては9月末時点で1日120万回以上の接種が行われていることに触れ、「全国の医師会の底力を見せることができた」として、感謝の意を示した。
 その他、医療提供体制に関しては、医療計画に「新興感染症」が加わり「5疾病6事業」になったことについて、「平時から有事に備えて病床をどれくらい確保すべきか、防護具はどれくらい配備するかなどを毎年考え、見直していくということが今回の見直しの趣旨である」と説明し、計画の見直しへの理解と協力を求めた。

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