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令和4年(2022年)12月5日(月) / 南から北から / 日医ニュース

自称ナイトフォトグラファー

 「お届け物です。」受付の職員からPHSに連絡があった。荷物を受け取ると、星空に関する書籍がたくさん入っていた。何と医局の先輩が、それも直々に参考文献を届けてくれたのだ。中にメモ書きがあり、以前に医報の私の文章を読んだことがあったので、本棚を整理していてふさわしい人へ渡した方が本も幸せだと思って持ってきてくれたと書かれてあった。私がふさわしい人かどうかは別として、無茶苦茶うれしくなった。他にも、お手紙と共に以前に撮影した貴重な彗星(すいせい)の写真をお送り頂いたり、月食の写真に過分なお褒めのメールを頂いたりと、医報を通じ医師会の先生方からエネルギーを頂戴した。
 お陰様で、その後も天候と病棟の条件が整えば、蛍、星空、天の川と興味の向くまま自然の写真を撮っている。当初、晴れているからと星座や天の川の撮影に出掛けても、月明かりに邪魔されて思うような映像にならないことがよくあった。月明かりは侮れず、半月以上に大きくなると星空が青空になってしまう。あーっ月が邪魔だ、あの月が無ければ、なんて無茶なことを考えても始まらない。
 そこで逆に、月も撮ることにした。月が出ていれば月、出ていなければ星空を撮れば良い。方針転換で少し忙しくなった。月食など特別な天体イベントが無くても、撮り始めてみると月はそれだけで存在感があり美しい。満月は言うまでもなく、きっちり半月も奇麗である。私が一番気に入っているのは、細い三日月で、三日月以外の部分もうっすら見えている地球照の状態である。地球で反射した太陽光が月の影の部分を照らし出すのだ。太陽の光が地球→月→地球と宇宙空間を伝わっているのが想像され、月から見える青い地球を想像してしまう。
 星も月も撮るようになって断然楽しくなったのは確かである。しかし、さすがに雨の日は星も月も見えないのが当然。だから雨が続くと何となく気分が下がっていた。
 ある雨の深夜、病棟からの電話で目が覚めた。対応後、寝付けずにいると、突然ものすごい閃光(せんこう)に雷鳴が続いた。怖いもの見たさでカーテンの隙間からのぞいて見ると、次の閃光が。私の頭にも電気が走った。カーテンを全開にして、急いでカメラと三脚を準備。初めての稲妻撮影だったので、とにかく光るタイミングを狙ってシャッターを押し、時間を忘れて夢中で撮っていた。後で調べたら、星空撮影同様に、長時間シャッターで連写するのが一番確実で簡単と知り、思わず笑ってしまった。
 それにしても、夜の稲妻はアートである。Deep purpleの雷雲から地上に向かう太く折れ曲った閃光とさまざまな方向への分枝。二度と同じ形の稲妻は無く、写真で見ると放電の細部まで血管分岐のように美しく見える。それ以来、雷注意報と聞くとすぐ撮影できるように準備してから寝ることにしている。落雷を喜ぶのは不謹慎だが、雨が降ってもワクワクしているのは事実である。
 最近、視力が衰えてきているので、見えなくなることへの反動なのか、肉眼よりも美しく見えるカメラを通した映像に、ある種の憧れを感じているのかも知れない。結局、気が付いたら、晴れても降っても夜になると写真を撮っている感じである。
 夜な夜な撮影に出掛ける時は服装や装備が特別なので、家内もよもや浮気などと考えてはいないと思うが、気持ち良く送り出してくれ感謝している。夜の写真愛好家と言うと何だか怪しいので、自称ナイトフォトグラファーはどうだろう? 明るいうちは撮りません!なんてますます怪しいだろうか。なんだ、ただのカメラ小僧ならぬカメラおじさんじゃないかと言われそうだが、最近孫が生まれたので、正確にはカメラじいさんである。とほほ。

(一部省略)

秋田県 秋田医報 NO.1603より

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