日医ニュース 第979号(平成14年6月20日)
会員の窓 |
会員の皆さまの強い要望により,投稿欄「会員の窓」を設けました.意見・提案などをご応募ください. |
ITとORCA 山本 楯(愛知県・知多郡医師会) |
国は,平成十三年一月に「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」を施行しました.これは情報化社会に向けた日本IT戦略の方向性を示しており,二〇〇五年までに三千万世帯が高速インターネット網に,一千万世帯が超高速インターネット網に常時接続できる世界最先端のIT環境整備を目指しております.
日医においても,昨年の十一月,医療現場のIT化を進めるため,「日医IT化宣言」を行い,医療情報交換の標準化を効率的に行うことができ,医療のIT化を大きく前進させるものと期待されるORCA(進化型オンラインレセプトコンピューターシステム)プロジェクトを推進してきました.
これらのIT化に伴い,インフラやハードの面だけでなく,もう一つ大切なことを考える必要があると思います.パソコンやインターネットは,もともと個人主義・自己責任の国であるアメリカで発祥しました.
何かというと相手が悪い・社会が悪い・国が悪いという土壌の日本において,パソコンやインターネットを真に活用してゆくうえでは,まず,個人主義・自己責任という精神をも合わせて,取り入れることが大切ではないでしょうか.
また,ORCAに関しては,現在のつぎはぎだらけの医療請求ソフトを単にオンライン化するだけでなく,日医独自のコンセプトを反映したまったく新しいソフトの創出を期待しています.
医療改革論議の輪に東洋医学も入れては 永山隆造(青森県・南黒医師会) |
医療改革という言葉が世間にあふれ,玄人・素人論議が賑っている.医療改革の本音は,何らかの方法で国民医療費の増高曲線の角度を小さく変えようということであろう.議論されている方法論の多くは,保険医療制度の点からであり,医療内容の観点から抑制策を模索する論議は少ないように思われる.
医療費の高負担に悩むのは先進国のみではなく,開発途上国でも同様である.
この問題の打開策としてWHOがこの十数年間世界の各地域で積極的に取り組んで来たのは,その国や地域にある伝統医療を代替医療として現代医療のなかに組み込む活動であった.
現代医学は資本主義のなかで発展してきたので,医療原価は高い.これに反し,大衆に根ざした伝統医学はコストベネフィットの点で優れていること,および,現代医学にはないある種の治療的有効性にWHOが着目したからである.
幸いなことに,日本には,WHOが世界の代表的な代替医療と認める漢方薬や針灸がある.EBMの点から批判的に見る向きもあろうが,明治時代以前千年余の日本の医療を担ってきた実績がある.
かつて元日医会長故武見太郎先生が日本国民の医療と皆保険を守るために漢方薬の保険適用にご尽力された先見の明を思う時,医療改革論議のなかに,ぜひ,東洋医学を保険医療のなかに正規に幅広く組み入れる論議の必要性を,日本東洋医学会員の一人として,強く思うのである.
フリー・アクセスで気にかかること 本田剛彦(宮城県・気仙沼市医師会) |
最近になって七十歳代後半の男性患者が腰痛を主訴として,来院するようになった.二,三回診察,治療して,患者と医師の信頼関係ができたと思われたのか,ある日,「先生の専門外だけれども,相談したい」と切り出された.曰く「左ののどの奥が重苦しいので,今まで国立病院を含めて七〜八医療機関の耳鼻科を受診したが,どこでも病的所見はないといわれている.しかし,やはり心配なので,今度は大学病院を紹介してほしい」と.いわゆる“咽喉頭違和感症”ではないかと思って,精神神経科の受診を勧めたら,すでに行ってきて,そこでも異常なしということだったらしい.
「それでは,これまで診てもらった大きな病院の医師を信頼することです」と説明して,結局,紹介状は書かなかった.
日本の国民皆保険によるフリー・アクセスは極めて優れた理念で,わが国が世界一の長寿国になったのもそのおかげである.しかし,一方では,マスメディアの偏った報道により「医療不信」を煽って,この一例のように,現行の医療制度のいろいろな矛盾点を噴出させて,結果的に医療費の無駄遣いがかなりあるといわざるを得ない.
本紙四月二十日号の“視点”で主張しているように,「専門性の広告」と「かかりつけ医から専門医」への紹介の過程を明確にして,無駄な初診料,検査,投薬などを防ぎ,有限の医療資源を確保するよう,日医として,運用の再構築を提案する必要がある.
聖域のない構造改革の実現 隈部時雄(東京都・中央区医師会) |
一年前「聖域のない構造改革」により,この国もやっと市民主権の国家として新たな船出をすると思った.ところが,今までどおりの官僚主権国家であり,官の聖域がさらに強固になってしまった.
そうしたなか,戦後一貫して官僚組織と戦い続けてきたのが,唯一日医であると,ある著名な論客が語っていた.考えてみると,そのとおりだと思う.
今回の改革を見ると,医療改革はもとより,どれも一般国民の負担を増すことばかりである.不況の最大の原因は個人消費の低迷であり,それは将来に対する不安から貯蓄に走った結果でもある.ならば,将来の不安を解消する政策を取るべきであり,それは年金と医療の保証に他ならない.その財源は行政改革の断行であり,いまだ全然手つかずの分野である.
官僚機構の抜本改革なくしてこの国の未来はないが,現実の政策はまったく逆の方向へ進んでしまった.この流れを何とか変えなくてはならない.
そこで登場するのが医師会であり,いい意味での政治力・実行力の発揮が期待される.医師会は公益法人として,地域の保健医療介護福祉に責任を持つのは当たり前とし,さらに一歩進め,「国のあり方」そのものの改革に取り組むべきと考える.この改革の最大のパワーこそ,一人ひとりの医師であり,毎日の診療をとおして接する市民とともに,より良い国・地域作りに具体的に着手していかなくてはならないと思う.