日医ニュース 第995号(平成15年2月20日)

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新しい臨床研修制度を地域医療活性化に活かそう

努力義務から必修化へ

 昭和四十三年にそれまでのインターン制度が廃止され,大学卒業後すぐに医師免許を受けて二年間の卒後の臨床研修が努力目標とされた.この研修制度においては,ストレート方式や大学中心の体制がもたらす弊害が指摘されることになった.初期臨床研修の目標は歪められ,医師としての第一歩から専門化された研修をするため,全人的な診療やいわゆるプライマリ・ケア(最も大切で根本的な医療・単に広く一般的な診療ができるという意味ではなく,専門性を追求するうえでも最も重要で根本的な医療のこと)の技術・知識を身につけることができない医師が生まれることになった.ローテート研修への誘導策が繰り返しとられたが,専門医の短期養成に目が向けられ,受け入れられなかった.
 平成十二年十一月に医師法が改正され,平成十六年以後に医師免許を取得した者は,一定の要件を満たす施設で二年間研修に専念しなければならないことになった.修了していない者が診療所を開設する場合には都道府県知事の許可(これまでは医師であれば届出で開設ができた)が必要になり,病院等の開設者は登録を受けた医師に管理(病院長)をさせなければならない.臨床を目指す医師にとっては事実上の必修化である.
 新たな研修制度は,医局制度や地域医療のあり方,医師会の役割,あるいは大学学部教育にまで大きなインパクトを与えることになるであろう.新しい臨床研修のあり方を議論する場として設けられた厚生労働省の「医道審議会医師分科会医師臨床研修検討部会,新医師臨床研修制度ワーキンググループ」において,日医は良い医師の養成のためには初期臨床研修の充実が不可欠との考えから,「地域の複数の医療機関が連携し,地域主導で行う研修」への転換を提案した.

病院委員会の提言

 新たな臨床研修制度の基本的な枠組みが概ね決まった現在,平成十六年度の実施に向けた対応が求められている.会内の病院委員会では,地域医療を担う立場からの今後の具体的な制度運用のあり方について論議が進められ,早急に地域における研修受け入れ体制を整えることが必要であるとの判断から,「中間まとめ」として一月に報告を行ったところである.
 このなかで,「新たな臨床研修制度の基本的な意義は,今後の地域医療を担う医師は,地域医療を現に担っている病院において養成されるべきであるという理念を実現するところにある.厳しい医療環境の下で地域の病院が臨床研修に関与することは決して容易ではないが,次世代の医師を自ら養成することに関与することは,病院の新たな展望を切り拓く上でも極めて重要である」とし,「多くの病院が何らかの形で新たな臨床研修に関与することが強く期待されており,地域の医師会・病院団体も臨床研修病院群の組織化や連携体制強化の支援に努める必要がある」と呼びかけている.
 この他,報告書では,研修制度導入の地域への悪影響に関する懸念やその対処,大学病院の役割と地域医療を担う病院との連携の重要性に触れ,一方で,同一の大学または開設者による臨床研修病院群の系列化は適切でないこと,日本医療機能評価機構等の第三者評価機関によって認定されていることが望ましいことなどを示している.
 また,指導医やその養成,マッチング方式,身分保障,指導医や研修施設の負担,女性医師の産休などについて,適切な配慮がなされるべきであるとしている.そして,「臨床研修病院は,まず適切な研修を行うことに努め,その成果によって研修医に選ばれることを期待すべきであろう」と締めくくっている.

生涯教育推進委員会における議論

 臨床研修の必修化に関係する議論として,会内の生涯教育委員会は,「これからの生涯教育のあり方すすめ方(その3)学習方略と評価について」を諮問され,卒前臨床実習および卒後臨床研修の指導医のための教育のあり方に関して具体的な検討を行っている.背景には臨床研修だけでなく最近,多くの医学部・医科大学で取り入れられている「学外実習」「家庭医実習」において,医学生が地域の診療所で,臨床実習を行っていることを指摘している.
 こうした状況のなかで,医学生や研修医を受け入れ,指導する日医会員は,適切な教育能力を身につけておかねばならない.医学生・研修医の教育に携わる日医会員は,一人ひとりが教育に関する基本的考え方と効果的技法を習得することが必要なのである.具体的には,「指導医のための教育ワークショップ」を各都道府県医師会等の主導で開催し,指導医としての教育能力を涵養することを目指すとしている.
 これらの動きを踏まえて,平成十五年度には,間近に迫る研修の義務化に備えて各都道府県医師会を単位とした研修の開催を支援する方策を現在検討中である.

マッチング制度と日医の役割

 研修制度の今後の問題の一つにマッチング制度が挙げられている.さまざまな憶測が飛び交ってはいるが,日医をはじめとして関係者が協議を進めており,近くその概要が公表されることになっている.医師会としての積極的な関与が必要だという点では意見の一致を見ており,特に今後の問題として指摘されるのは,医局に保護されない研修医の処遇や研修の質の担保,研修医や研修施設からの相談に応じる体制が必要であるという意見であり,都道府県医師会あるいは地区医師会の機能に期待することが最善であると考えている.

日医のモデル事業

 日医ニュースでも何度か取り上げられているとおり,日医が提唱する研修制度では,これまでの専門的に過ぎるとの反省から,地域医療を含むプライマリ・ケア(最も大切で根本的な医療)を中心としたものとされている.ここでいう「プライマリ・ケア」は,将来どんな専門分野に進もうとも必要とされる重要な医療であり,単にゲートキーパー的な役割を担う一般医あるいは家庭医の直接の養成を考えているわけではない.
 このモデル事業の目標は,地域の第一線で活躍する先輩医師が直接指導をする体制の構築であり,昨年度から地域における研修制度のあり方を具体的に示すことを目指している.この考え方は先の病院委員会の報告や生涯教育委員会の報告と重なるものであり,来年度はこの趣旨を理解する多くの地域医師会と研修医の参加を得て,より効果的に実施されることが期待されている.
 来年度の研修医募集のパンフレットには,「地域の先輩集団である医師会がいわば後見人となって,地域内のあらゆる医療資源を使い,研修を受ける諸君の意見を反映し,研修成果を評価しながら実施する,オーダーメイドの研修を約束します.きっとその成果が皆さんの臨床におけるさまざまな能力開発につながることになるでしょう」と呼びかけている.

処遇の問題と予算化

 研修医の処遇の問題は,いまだ解決がついていない.政治の力に期待しなければならない部分も多い.指導医や施設の負担の問題も現実的な問題として提起されている.
 しかしながら,国会を経て予算化されるためには,現実に新しい研修制度が国民の期待に応えられる医師の養成に資するのかどうかが問われているのであり,われわれ自身の努力にかかっているということができるのではないだろうか.
(日本医師会常任理事 星 北斗)

■病院委員会中間まとめ「地域における臨床研修と医療連携について」


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