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第1008号(平成15年9月5日) |
規制改革の動向
最近,規制改革の名のもとに,いくつかの「規制緩和」と「規制強化」が実施されたり,検討されたりしている.この規制改革の動向については,本紙別記事のとおり,8月19日に開催された都道府県医師会長協議会において説明があったが,特に,一般会員にも関連が深い問題を中心に,その要点について担当の櫻井秀也常任理事に解説してもらった.
医療情報の提供,専門医資格の広告規制緩和とカルテの開示
平成十四年四月から,医療法関連の改正で医療に関する広告規制が緩和された.そのなかで,いわゆる「専門医資格」の広告ができるようになり,現在二十二の学会の専門医の広告が認められている.
しかし,一方では,商業紙に利用されて,高い広告料を取られている医師がいることには注意をしてほしい.もともと,専門医を週刊誌や新聞に広告することには何の意味もないと思う.
次に,カルテの開示について,「診療に関する情報提供等の在り方に関する検討会」の報告書が平成十五年六月に出た.主旨は,五月に「個人情報の保護に関する法律」(西島英利常任理事が担当)が制定されたことにより,カルテ開示も含めた診療情報の提供についての法的基盤が整ったので,カルテ開示に関する個別法の制定の必要はなく,指針を定めて,自主的にカルテ開示をしていくことに決定した.会員は,日医がすでに公表している「診療情報の提供に関する指針」に従って,積極的にカルテ開示を推進していく必要がある.
医療関連業務への労働者派遣を条件付きで容認
これまでは労働者派遣法によって,医療関連業務の労働者派遣は禁止されていたが,本年六月から医療機関以外の社会福祉施設等への派遣が認められるようになった.
今回,労働者派遣法の改正によって,「紹介予定派遣」という制度により,派遣労働者の事前面接,履歴確認などができるようになったことを踏まえ,七月に「医療分野における規制改革に関する検討会」の報告書が出され,医療機関への医療関連業務の労働者派遣を「紹介予定派遣」に限るという条件つきで認める方向が打ち出された.
この問題は,地域の医師確保という面も考えて,医師会を中心に積極的に取り組んでいく必要がある.
消防法施行令改正による防火対策施設の規制強化
東京・新宿で起きた雑居ビル火災をきっかけに,消防法施行令の改正があり,防火対策が強化され,自動火災報知設備の設置対象が拡大された.特に,住宅兼用の診療所が影響を受けることになる.詳細については,八月十一日付で都道府県医師会へ通知してあるので,問い合わせてほしい.
医療法に関連する事項の規制緩和について
一般の会員には直接関係は少ないが,外国人医師の医療行為について,医療知識・技能の修得に付随して行われる教授の容認と語学能力基準を緩和して,日本語・英語に加えて中国語,フランス語,ロシア語,スペイン語,ドイツ語が認められた.
また,病状が安定している在宅患者について,一定条件のもとで遠隔診療の適用が拡大された.
病院を開設している会員にとって朗報と思われる規制緩和がある.医療法による病院の標準医師数の算定方法について,患者数に応じて算定する数の端数は,端数のままで標準数とする.したがって,医療法第二十五条に基づく立入検査についても,医師数(常勤換算)は同様に端数のままで取り扱うこととする.
薬事法・血液法の改正による重要な変更点
平成十四年七月に「薬事法」の改正があり,その一部が平成十五年七月三十日から施行されている.
同時に,「採血及び供血あつせん業取締法」が「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」(通称「血液法」)と法律の名前が変更され,内容も一部変更された.
重要な変更点は,(1)医師,医療機関が主体となって行う治験制度の導入(2)副作用・感染症・不具合情報の報告制度の義務化(3)生物由来製品,特定生物由来製品の定義付けと,それらに関する規制の強化―である.特に,特定生物由来製品については,医師等による患者に対する有効性・安全性の説明の努力義務と使用記録の二十年間の保存義務が定められた.この詳細については,日医雑誌八月一日号の巻末を参照されたい.
また,血液法の改正で,従来より血液製剤の使用基準が厳しくなり,特定生物由来製品と同様な説明・同意,使用記録,同保存義務が課せられている.
特定生物由来製品,血液製剤を使用の際は十分な注意が必要である.
医療に関連する構造改革特区の提案と対応の現状
構造改革特区については,本紙でも今までに何回も取り上げている.昨年から本年にかけて,全国の地方行政や諸団体等に対して,三回の提案募集が行われた.
第一次募集(平成十四年八月締切)については,医療に関する特区は一つも採用されなかった.平成十四年十二月に構造改革特別区域法(いわゆる特区法)が成立し,平成十五年四月に完全施行され,現在,第一次募集による特区の申請が受け付けられ,いよいよ特区が動き出そうとしている.
第二次募集(平成十五年一月締切)では,医療に関連して,「株式会社が自由診療で高度な医療の提供を目的とする病院または診療所の開設を認める」という特区が採用され,今年度中の国会において特区法が改正され,医療法等の特例規定が設けられることになる予定である.
第三次募集(平成十五年六月締切)については,現在その対応方法を関係部局と検討中であり,近日中に結論が出される.
さらに,平成十五年十一月締切で第四次募集が行われる予定で,今までに否定された提案が何回でも出てくるので,会員が一致団結して,根気よくこれに対抗していく必要がある.
現在検討中の規制改革関連の諸問題について
(1)保健所長の医師資格要件について―この問題は,平成十四年十月に「地方分権改革推進会議」が「事務・事業の在り方に関する意見」を発表.そのなかで,保健所長の医師資格要件について,医師でなくても良いのではないかという要望が出されたことを踏まえて,「保健所長の職務の在り方に関する検討会」が設置され,保健所が担うべき業務,保健所長の職務・能力,保健所長の資格要件などについて検討している.
(2)医療計画の見直しについて―医療計画制度の評価,基準病床数の新たな算定方式の策定など,医療法に定める医療計画制度に関する課題や今後の在り方を検討するために,平成十五年八月に「医療計画の見直し等に関する検討会」が設置されて,検討を開始した.この検討会の背景には,規制改革推進三か年計画(閣議決定)がある.
(3)医療分野における規制改革の検討―医療関連業務の労働者派遣について検討してきた「医療分野における規制改革に関する検討会」では,この問題について引き続き検討することとしており,患者・国民の視点に立って考えることを基本に,今後,具体的課題の検討に入る予定である.
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