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平成28年(2016年)3月5日(土) / 日医ニュース

日本医師会賞 「娘を支えてくれた人たち」(全文掲載)

日本医師会賞 「娘を支えてくれた人たち」(全文掲載)

日本医師会賞 「娘を支えてくれた人たち」(全文掲載)

 6年9か月という短い人生を終えた愛娘(まなむすめ)。実に人生の半分以上をお世話になった、病院の職員の皆様とは、娘との思い出をたくさん残して頂きました。
 看護師のFさんが娘の担当になり、どんな人かなぁと娘もドキドキしていましたが、すぐに優しい雰囲気のFさんが大好きになりました。AKB48のDVDを見ながら一緒に振り付けを覚えたり、ディズニーの話をして盛り上がったり。いつも笑いの絶えない病室だったと思います。骨髄移植を受けるに当たっては、当時3歳だった娘でも分かるように、イラスト付きで分かりやすい冊子を作ってくれて、ゆっくりと時間をかけて説明してくれました。どんなに小さな子でもきちんと分かりやすく説明をして、その子に治療を受け入れてもらうという姿勢は共感できました。
 面会時間は限られているので、私達が行けない間、看護師さんを始め、保育士さんや心理士さん、メディエーターさんといった方々が娘に関わって下さり、ママやパパと離れていても寂しくないようサポートして下さったのは本当に心強かったです。
 5歳の時白血病に罹(かか)り、2度目の骨髄移植をしなければならなくなりました。楽しみに通っていた幼稚園も休園することになった娘でしたが、「頑張る。病気をやっつける」と言ってくれました。それは今までの病院での生活の中で、職員さん達と信頼関係が築かれ、みんなとだったら頑張れると信じたからなのだと思います。
 移植を乗り越えて頑張る娘でしたが、なかなか良くならない状態が続きました。頑張って幼稚園にまた行くんだという夢も叶(かな)わなくなりました。卒園式にも出られない。ところが、幼稚園の先生方とFさんが協力して、病棟で娘のためだけに卒園式を開いてくれることになりました。初めはそんなことできるのかなぁと思っていましたが、Fさんがすごい情熱を持ってやってくださいました。Fさん中心に病棟の皆さんで手作りの飾りを造り、お部屋を華やかにしてくれました。たった一人のためだけにそんなことをやってくれることに感動しました。Fさんの尽力もあり、無事卒園式を執り行うことができました。ベビーカーに座って参加した娘。驚いたことに、その時は筋力がだいぶ弱って立つのもままならなかったのですが、先生から証書と贈り物を頂く時は、しっかりと自分の足で立って受け取ることができました。参加したみんなが涙を浮かべながらも笑顔で、本当にほほえましい時間でした。
 Fさんのことは娘も大好きだったので、わがままや無理も言っていたと思います。でも苦手な看護師さんだと遠慮して言えなくなるので、そうやって娘なりにバランスを取っていたのだと思います。Fさんは娘にとって、心の支えになっていたのだと思います。
 いよいよ状態が厳しくなり、娘の病室にはベッドを2つ並べ、私と妻と娘の3人で川の字になって寝られるよう配慮してくれました。3人で寝られるのはいつ以来だろうな。昼には弟も遊びに来てくれて、久々の再会を楽しむことができました。たくさんの病院職員さんが娘に会いに来てくれました。娘とこんなことあったよねぇと、みんな思い出して笑っています。きっと娘も聞いていたと思います。とてもありがたかった。そして帰る時みんなが言っていました。「じゃあね、今日は帰るけど、また明日会おうね」と。どんなに辛(つら)い状況にあっても、そうやって娘が元気になることを信じるという気持ちは私達の心に響きました。そして嬉(うれ)しいのか悲しいのかよく分からない涙をたくさん流しました。
 娘の最期の夜はやっぱりFさんと、もう一人、娘が大好きだった看護師さんが夜勤でした。きっとその時を見計らって逝ったのだろうねと話していました。夜勤中で忙しいにもかかわらず、息を引き取ってから、娘の体を私達と一緒にお風呂で綺麗(きれい)に洗ってくれたFさん。「Fさんがいてくれて、娘も喜んでいると思います」と言うと、「いえ、私は何もできなくて......」と涙をポロポロ流されていました。その後、小学校の入学式に着ていく予定だった洋服を着せてくれ、お化粧もしてくれました。その時には娘の周りにはたくさんの病院職員さん達が集まってきていました。みんな娘との思い出話をしています。「小学校に行けたね、良かったね」と声をかけてくれました。
 娘が病気にならなければ出逢(であ)わなかったご縁。だけど娘にとっては、本当にかけがえのない時間を過ごさせてくれた人達。元気にさせてあげられなくてごめんねと涙を流された方もいました。本当は元気になって欲しかったけど、こんなにも素敵な人達に囲まれて、娘は幸せだったと思います。出逢ってくれたことに、感謝いたします。ありがとう。

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