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令和元年(2019年)7月20日(土) / 日医ニュース

会議の成果として「UHCに関する東京宣言」を採択

会議の成果として「UHCに関する東京宣言」を採択

会議の成果として「UHCに関する東京宣言」を採択

 「Health Professional Meeting(H20)2019」が「Road to Universal Health Coverage」をテーマとして、6月13、14の2日間にわたり、日本を含め38カ国約220名の参加を得て都内で開催された。
 本会議は、昨年4月に横倉義武会長が世界医師会(以下、WMA)会長として、テドロス世界保健機関(WHO)事務局長との間で"ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(以下、UHC)の推進"と"緊急災害対策の強化"をテーマに交わした覚書の実践の場という位置づけで行われたものであり、特に、UHCの推進における医師と医師会の役割に焦点を当てて議論が行われた。

第1日(13日)

開会式典

 開会式典は秋篠宮皇嗣妃殿下にご臨席を仰ぎ、挙行された。
 冒頭あいさつに立った横倉会長/WMA前会長は、国境を越えた医師の結束がますます重要になっているとするとともに、新たな元号「令和」が示す"Beautiful harmony"の下にUHCの推進が一層進むことに期待を寄せた。
 続いてあいさつしたレオニード・エイデルマンWMA会長/イスラエル医師会前会長は、2030年までに持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためにもUHCを推進していくことが国際社会にとって最重要課題であるとした上で、「本会議において実行可能な解決策の議論を重ね、各国関係者の協力・連携の強化を図ることで更にUHCの推進を図っていきたい」と述べた。

全ての人々が健康で幸せな暮らしを享受できる世界を―秋篠宮皇嗣妃殿下

190720e2.jpg 引き続き、秋篠宮皇嗣妃殿下よりお言葉を賜った。
 秋篠宮皇嗣妃殿下は、「結核罹患率や乳幼児死亡率の改善のために結核予防法が制定され、母子手帳が広く使われるようになり、1961年に国民皆保険が達成されることで、国民の生活は大きく改善された」と評価。更に、人口の高齢化に対応するため、日医を含む健康関連の専門家が人々の健康に向けて活動していることにも触れられ、「皆様のご尽力が実りあるものとなり、全ての人々が健康で幸せな暮らしを享受できる世界となりますことを心から願っております」と述べられた。
 また、安倍晋三内閣総理大臣からは、「UHCの推進は不可欠な要素であり、G20大阪サミットの議長国を務める本年、この会議が開催されたことをうれしく思っている。今後も、世界のUHCの達成に貢献されることを期待する」旨のビデオメッセージが寄せられた。

基調講演

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 引き続き、ミゲル・ジョルジュWMA次期会長/ブラジル医師会理事を座長とした基調講演に移り、まず、サー・マイケル・マーモットWMA元会長/ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン疫学教授が、「健康格差と健康の社会的決定要因」と題して講演を行った。
 同教授は人々の健康が経済格差や貧困などの社会環境に大きく影響されているとし、より良い健康を国民に提供するためにも、医師・医療関係者がいかに行動を起こすかが重要になると指摘した。
 また、各国における医療の不平等と言える健康格差は社会的危機でもあると強調。その解決のためには、UHCを推進することに加えて、①小児期での最善な環境②生涯教育③雇用の確保④生活水準を保つための最低賃金⑤持続可能な地域社会の場所⑥疾病予防―について対策を講じる必要があるとの見解を示した。
 その上で、「健康格差を是正する方法は明確であり、予防することが可能」として、尊厳ある人生を送るためにも全ての国の政府が行動を起こすよう呼び掛けた。
 続いて、「UHC実現のために~何が必要か~」と題して講演した山本尚子WHO事務局長補は、「各国がどのようにUHCを導入し、維持・発展させていくかは本会議の重要なテーマであるが、2030年までのUHCの実現のためには、①政治的なリーダーシップ②ヘルス分野への資金投入③人材育成④プライマリ・ヘルス・ケア⑤地域づくり―が必要になるとの考えを示した。190720e4.jpg
 また、医師会に期待することとして、「医師が医療チームのリーダーとして、さまざまな職種への教育あるいは支援を行う」「医療やケアの質に対する考え、評価、改善を行っていく上でリーダーシップを持つ」等を明示。
 その上で、山本氏は「健康は人間の人権問題、そして社会正義の問題であり、連帯や結束の問題でもある。また、健康は開発、発展あるいは安全や平和の礎(いしずえ)となるものである。これからも、医師会の方々と共にUHCの実現に力を尽くしていきたい」と述べた。

セッション1

 その後は、「UHCを達成する方法についての見解」をテーマに、セッション1(座長:エナブレレ元ナイジェリア医師会長)が行われた。
 ロゼニ国際患者団体連合(IAPO)理事(マラウイ)は患者の利益のため、UHCを実現することを目指して、WMA及び加盟国医師会と協力する用意があると説明。コメットWHO保健人材担当部調整官は、「UHCを実現できるか否かは医療従事者に掛かっている」と述べた。
 國井修グローバルファンド戦略・投資・効果局長は、持続可能な保健システムの強化に向けた医師会の役割と機能の強化、特に地域において、置き去りにされている人々を救う努力と実践に期待感を表明。キトゥルケニア医師会長はUHC達成には、「適切で十分に訓練された人材」「予防と健康促進への注力」「持続可能な医療費調達メカニズム」「公的資金による戦略的医療への支出」が必要であると指摘。ワンケッダカー前インド医師会長は、医療提供においては高度に熟練した医療従事者の配置が重要であるとした。
 その他、ティニオ元フィリピン医師会長、オレグブナムWMA―JDN代表(ナイジェリア)、アルワダニ国際医学生連盟会長(ヨルダン)からコメントがあった後、活発な議論が行われた。

UHC推進のために医師会が果たす役割の重要性を強調―麻生財務大臣

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 夜に行われたレセプションには、麻生太郎財務大臣が出席。自身が議長を務めた財務大臣・中央銀行総裁会議で、途上国におけるUHCの推進を議題に取り上げ、UHCファイナンス強化の重要性を確認したことに触れ、「UHCを推進していくためには、医師会の役割が非常に重要であり、今回のような会議を医師会が主催することの意義は極めて大きい」と指摘。大阪で行われるサミットでもG20財務大臣・保健大臣合同セッションにおいて、UHC推進に向けた議論を深めていく考えを示した。

第2日(14日)

セッション2

 2日目には、三つのセッションが行われた。
 「健康の安全保障とUHC」をテーマとしたセッション2(座長:神馬征峰東京大学大学院教授)では、戸田隆夫国際協力機構(JICA)上級審議役が、災害、感染症の流行などの健康上の脅威に対処するには強靭な社会システムが必要であり、その鍵は人間、コミュニティ、行政、国そして国外からの「信頼」にあるとし、その信頼が果たす役割について言及。マイズリッシュ赤十字国際委員会(ICRC)駐日代表代理は、武力紛争によってダメージを受けた保健システムを、長きにわたり組織的にサポートしてきたICRCの実績について説明した。
 ファン ヒューリック国境なき医師団(MSF)日本医療アドバイザーは、UHC促進のためには医療の保護、医療に対する攻撃を阻止することが必要とした他、「医療従事者は患者に医療を提供したことで刑事訴追されてはならず、救命活動は犯罪ではない」とした。ワライポン タイ保健省国際保健政策プログラム部長は、タイのUHCは2001―2002年に全国での実現に成功したとするとともに、さまざまなグループや施設が医療部門の内外で行動的に相互連携を取ることで、効果的なUHC政策の維持と医療制度の回復力を支えているとした。

セッション3

 「UHCとプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)の政治的側面―医療専門職の役割」をテーマとしたセッション3(座長:中谷比呂樹WHO執行理事)では、アマーレバノン保健省事務局長が、より強力な医療専門職が積極的に関与することはPHCネットワークの人間中心の医療への転換に貢献するとし、質の高い医療へのアクセスにおいて、レバノンは最もパフォーマンスの高い国の一つに位置づけられているとした。
 渋谷健司キングス・カレッジ・ロンドン ポピュレーションヘルス研究所長は、世界の保健システムは高齢化、慢性疾患、医療技術、そして、グローバル化に翻弄されているとし、誰もが取り残されないよう、保健システムを社会システムとして再構築する必要があると指摘。バーブ元アメリカ医師会長は、「オバマケア」で得られた利益を守りながら、強力な連邦政府のセーフティネット制度の下で市場ベースのソリューションを利用し、医療の更なる拡大に向け取り組んでいくとした。
 クロイバーWMA事務総長は、PHCを機能させるためには、PHCが信頼に値するもので、医療の拡張性と発展への意欲をもたらすような包括的医療制度に組み込まれている必要があると説明。柏倉美保子ビル&メリンダ・ゲイツ財団日本代表は、持続可能な保健システム財政の実現、効率的なPHCへの投資、PHCのパフォーマンス評価とデータ収集、国際保健機関間のパートナーシップ強化の重要性を説いた。また、占部まり宇沢国際学館代表は、ヘルスケアシステムが社会的共通資本の最も重要な要素であるとすることが、豊かで魅力的な社会構築への礎となるとした。
 最後に、医師の労働団体でもあるイギリス医師会のナグポール議長がコメントを行い、セッションは終了となった。

セッション4

 「UHCに対する責任の共有と個人の義務」をテーマとしたセッション4(座長:葛西健WHO西太平洋地域事務局長)では、パネルディスカッションに先立ち、横倉会長が講演を行った。
 横倉会長は、北里柴三郎先生の「予防医学を確立することが近代化である」という志を受け継ぎ、「人生100年時代に向けて、治療を中心とした医療のみならず、『予防・健康づくり』にも力点を置き、健康長寿社会の実現に努めていく」と述べた。
 また、現在のわが国の国民医療費の現況についても触れ、「社会保障費は、高齢化によって医療・介護等を中心に、今後も増加していくことが見込まれる」との認識を示すとともに、「国から社会保障費の抑制策が提示される中で、引き続き、『国民の安全な医療に資する政策かどうか』『公的医療保険による国民皆保険を堅持できる政策かどうか』を判断基準として政府に意見を述べるだけでなく、医療現場からの声を基にさまざまな提言をしていきたい」とした。
 講演に引き続き、横倉会長、モンゴメリーWMA理事会議長/ドイツ医師会前会長、鈴木康裕厚生労働省医務技監、戸田JICA上級審議役、平林国彦ユニセフ東アジア・太平洋地域事務局地域保健事業アドバイザー、ナムギャルWHO南東アジア地域事務局事業統括部長、ガクルーWHOアフリカ地域事務局セーシェル事務所代表、ユエ西太平洋地域事務局ヘルスシステム部UHC及びSDGsガバナンスコーディネーターの参加の下に、パネルディスカッションが行われた。
 その中では、UHCの達成に向けた課題として、主に医療関係者の人材不足の問題、エボラ出血熱等、地域特有の問題や各国の保険制度が異なる点、患者との関係性等が挙げられた。190720e6.jpg
 特に人材不足については、プライマリ・ケアを担う人材が世界的に不足していることや、待遇・教育面において条件の良い都市部への人材の集中、発展途上国から先進国に留学した医学生などが母国に戻らないなど、絶対数だけではなく、偏在の問題も大きいとの認識が示された。
 また、患者との関係性については、横倉会長が、提供する側と受ける側の信頼関係の醸成(じょうせい)の重要性を強調した上で、わが国で患者権利法の議論が進んでいることを紹介するとともに、さまざまな問題の解決のために医師の団結を強く呼び掛けた。

「UHCに関する東京宣言」を採択

 全てのセッションが終了後、(1)UHCとプライマリ・ケアの理解と関与の強化、(2)UHCの達成に向けた長期国家政策の策定、(3)医師及び医師会の役割の明確化、政府と社会のあらゆる側面に向けた提言の策定―を主な内容とした「UHCに関する東京宣言」が参加者の拍手の下、採択された。
 同宣言の中では、世界中の医師と医師会にUHCの擁護と実現のために重要な役割を果たすよう求めるとともに、G20サミットに対しては、ヘルスケアシステムに対する持続に十分な投資ができない国への投資を鼓舞(こぶ)することを期待するとしている。

日医、WMAの尽力に感謝―根本厚労大臣

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 その後に行われた夕食会には根本匠厚労大臣が出席し、「東京宣言」について、「医療関係者の皆さんの真摯なご議論により、充実した成果文書が取りまとめられた。これもひとえに横倉会長、エイデルマンWMA会長の強いリーダーシップと日医、WMAの尽力のおかげ」と述べ、感謝の意を示した。

Health Professional Meeting(H20)2019
Road to Universal Health Coverage
June 13th & 14th, 2019
Hilton Tokyo Odaiba, Tokyo
UHCに関する東京宣言
Health Professional Meeting(H20)2019において、世界医師会(WMA)と日本医師会(JMA)は、世界保健機関(WHO)、各国政府、政府間および国連機関、その他の組織によるユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)を提供するヘルスケア制度の開発を推進する取り組みを歓迎する。
私たちは、UHCを「すべての人々および地域社会が、その必要とする効果的で十分な質の、健康増進、予防、治療、リハビリおよび緩和に関するサービスを、経済的な困難を伴うことなく確実に享受できること」(WHOによる定義)を意味すると理解する。
UHCは、ヘルスシステム自体の不平等を克服するためのツールである。
UHCは、人々のためのものであると同時に人々によるものでもある。
多くの国ではヘルスケアのための人的資源が不足している。私たちは、医療専門家の教育と定着化への投資を行う責任者すべてに対して、UHCを実現するよう求める。
これには、質の高い教育、継続的専門能力開発の機会、そして地域社会と患者に医療を提供する人々にとって、最も重要で安全、尊厳重視で魅力的な労働条件や生活状況が含まれる。
WMAは、世界のすべての地域における医師と医師会に対して、UHCの擁護と実現に重要な役割を果たすよう奨励する。
医療側からすれば、包括的ヘルスシステムの中核部分として質の高いプライマリケアの開発への強い関与を含め、UHCの概念を受け入れることに躊躇があってはならない。
私たちは、G20の財務大臣1がUHCの発展を「開発途上国における、人的資本の開発、持続可能かつ包括的成長と開発、ならびにパンデミックや抗菌薬耐性などの健康上の緊急事態の予防、発見と対応」に貢献するものとして最近注目していることを歓迎する。
私たちはG20サミットに対して、以上のことがG20諸国のみならず、理由を問わずヘルスケアシステムに未だ十分な投資ができない他の諸国においてこそヘルスケアシステムに対する改善された持続可能な投資への道を鼓舞するという期待を表明する。
 1https://www.mof.go.jp/english/international_policy/convention/g20/communique.htm
  https://www.mof.go.jp/english/international_policy/convention/g20/annex8_1.pdf

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