松本会長
松本会長
Q来年に日本医師会長として特に注力する取り組みについて教えて下さい。
A2025年に特に注力する取り組みとしては、大きく5点あります。
令和8年度の診療報酬改定への対応
まず1点目は「令和8年度の診療報酬改定への対応」です。
令和6年度の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げの必要性を粘り強く主張したこともあり、プラス0・88%のプラス改定となりましたが、物価高騰等を考慮すると、十分な財源とは言えません。
また、これから日本は未曽有の超高齢・人口減少社会を迎え、生産年齢人口が急激に減少することにより、医療界においても支え手の減少に直面することが懸念されます。
こうした状況下においても、私どもは国民に適切な医療を提供していく義務がありますので、医療従事者の更なる賃上げを実現し、他産業への人材流出を防ぐことも重要であり、その際には、公定価格により運営する医療機関はその上昇分を価格に転嫁することができないことから、十分な原資を確保することが必要となります。
また、令和6年度の診療報酬改定ではベースアップ評価料が創設され、令和6年度は2・5%の賃上げを目標とすることとなりましたが、その一方で令和6年春闘の平均賃上げ率は定期昇給込みで5・10%、ベースアップ分だけでも3・56%と非常に高い水準となっています。
すなわち、ベースアップ評価料による賃上げ率は、春闘との間に2・6%もの差があり、全く追い付いていません。このままでは、他産業並みの賃上げが実現できないだけでなく、来年度の賃上げもままならない状況です。
現在の医療機関の経営状況では、これ以上の賃上げは到底不可能であり、このままでは人手不足に拍車が掛かってしまい、国民に適切な医療を提供できなくなってしまいます。
今後も地域医療を守り、地方経済を活性化するためにも、必要な賃上げを行い、医療従事者を確保していくことが不可欠です。
石破茂内閣総理大臣は「物価に負けない賃上げ」を実施するとされていますが、日本医師会としても令和6年度の診療報酬改定で新設されたベースアップ評価料の届出・算定をできるだけ多くの医療機関に実施して頂けるよう取り組んでおります。
公定価格により運営を行っている医療業界においても、物価高騰を上回る賃上げが実現でき、地域でそれらの施設が確実に存続できるよう、石破総理にはぜひ、お力添えを賜りたいと考えています。
参議院議員選挙
2点目は「参議院議員選挙」です。
日本医師連盟に関する話になってしまいますが、来夏に予定されている「参議院議員選挙」において、日本医師連盟は比例代表の自民党公認候補者として、釜萢敏副会長を擁立することを決定しました。
釜萢副会長は、5期10年にわたって日本医師会の常任理事として、看護職の養成や新型コロナウイルス感染症対応など、多岐にわたる業務を担当し、医師会業務に精通しておられるばかりでなく、日本医師連盟も担当しており、政治に対する造詣(ぞうけい)も深く、その活躍が期待されております。
更に、釜萢副会長は圧倒的な知名度がある他、地域医療に携わり、地域医療が抱える問題にしっかりと取り組んでおられ、幅広い人脈をお持ちです。今後更に人脈を築いていく能力もお持ちであり、余人をもって代えがたい存在です。
比例代表に候補者を擁立することは、その団体がいかにその政権政党を支持しているかのバロメータとなりますし、政党は、団体推薦の比例代表議員の発言を、その団体の発言と見る傾向があります。
従って、医療・介護の政策でリーダーシップを取るには、医療・介護の候補者の中で、トップの得票である必要があると思われます。
現在、釜萢副会長は国民の健康を守るための政治活動を全国展開しております。日本医師連盟は都道府県医師連盟・郡市区医師連盟一丸となって、釜萢先生を全力で応援して参ります。
組織強化
3点目は「組織強化」です。
日本医師会の組織強化は、私が日本医師会長に就任して以来、力を入れて取り組んで参りました。全国の医師会の先生方の格段のご尽力もあり、本年7月末には、初めて会員数が17万7000名を突破し、17万7170名となりました。ご協力頂いた先生方には深く感謝しております。
また、この「組織強化」の一環として、新たな医師会会員情報システム「MAMIS」の運用を10月から開始しており、来年3月末までには全ての医師会に導入頂く予定です。
これにより、今まで書類で行ってきた入会・異動等の手続きをWEB上で行うことが可能となり、先生方の手続き負担が軽減されます。これまで異動時の手続きの煩雑さが退会検討理由の一つになっておりましたが、「MAMIS」の導入により、こうした課題は解消に向かうものと考えています。
医師会の組織強化の眼目は、現場に根差した提言をしっかりと医療政策の決定プロセスに反映していく中で、医師の診療と生活を支援し、国民の生命と健康を守ることにあります。
医師会がこうした使命を果たし続けていくには、更なる会員数の増加、組織率の向上を始めとする組織強化を通じて、対外的にも医師会のプレゼンスを一段と高めていくことが重要であるため、引き続き取り組んで参ります。
かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に向けた取り組み
4点目は「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に向けた取り組み」です。
来年4月より「かかりつけ医機能報告制度」が施行され、地域における面としてのかかりつけ医機能の更なる発揮に向けた取り組みが始まりますが、その中で医師会にはさまざまなことが求められてくると考えています。
例えば、地域によって医療資源の事情は異なることから、各地域の実情を踏まえた取り組み例を収集・分析し、好事例を活用しながら各地域と情報共有することで全国に横展開することなどが挙げられます。
その他にも、各地域で必要なかかりつけ医機能が発揮されるよう、医師の研修を始め、行政と連携して地域を面で支える役割を果たしていくことも求められるでしょう。
これまでも日本医師会では「日本医師会生涯教育制度」や「日医かかりつけ医機能研修制度」など、医師の先生方に対して多岐にわたる研修の機会を提供して参りました。「国民の生命と健康を守る」という医師の使命を果たすに当たり、全国の先生方に医学・医療に関する学びの機会を提供することは、日本医師会の責務だと考えており、引き続き研修の充実等に向けて取り組んで参ります。
医師の偏在対策
5点目は「医師の偏在対策」です。
医師偏在には、一つの手段で解決するような"魔法の杖"は存在せず、さまざまな手段を駆使して複合的に対応する必要があります。
また、今後、未曽有の超高齢・人口減少社会を迎える中、将来の医療を担う若手医師の声を傾聴していくことも重要になると考えています。
日本医師会は、8月21日に定例記者会見を開催し、医師偏在に対する見解を示しました。その中では、都道府県における議論とこれまでの地域医療対策協議会による医師派遣などの取り組みは引き続き充実させていくことを前提としつつ、国レベルでの具体的な方策として、基金の創設など、6点の取り組みを進めるべきだと提言いたしました(詳細については別記事参照)。
国民の生命と健康を守り、適切な医療を引き続き提供していくためにも、日本医師会はこれらの提言を基に、もう一段階ギアを上げ、医師偏在対策に主体的かつ積極的に取り組んで参りたいと思っています。
その他
この他にも、「自由診療の適切な運用」「医薬品の安定供給」「医師の働き方改革への対応」「2040年頃を見据えた新たな地域医療構想の検討」「一般社団法人立医療機関に対する非営利性の徹底」など、医療界にはさまざまな課題が山積しております。
日本医師会はこれからもこれらの課題解決に向けて引き続き取り組んで参りますので、これまでと同様のご支援・ご協力をお願い申し上げます。