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令和7年(2025年)5月20日(火) / 日医ニュース

「学校健康診断に関する諸課題について」をテーマに開催

「学校健康診断に関する諸課題について」をテーマに開催

「学校健康診断に関する諸課題について」をテーマに開催

 令和7年度学校保健講習会が4月13日、日本医師会館大講堂で開催された。
 渡辺弘司常任理事の司会で開会。冒頭、あいさつした松本吉郎会長は、日頃の学校保健活動等への従事に敬意を表した上で、現在実施されている健診項目について、「社会的状況に見合ったものになっているか、医療機器を使った健診の可能性などを検討する時期が来ているのではないか」と指摘。参加者に対しては、「本講習会で知見を深め、学校医が抱えるさまざまな課題に取り組んで欲しい」と述べた。
 その後は、松本吉郎日本学校保健会長(弓倉整日本学校保健会専務理事代読)のあいさつに引き続き、加藤智栄日本医師会学校保健委員会委員長/山口県医師会長を座長として、8名の講師による講演が行われた。
 堤俊太郎文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課学校保健対策専門官は学校保健施策の動向について報告。学校保健統計調査によると、視力1・0未満の園児及び学生の割合が上昇傾向にあるが、9都道府県の約8600~8900名を対象に令和3~5年の3年度にわたって実施された近視実態調査では、視力低下・近視の予防のために屋外活動が重要であることが明らかになっているとした。
 更に、脊柱側弯(せきちゅうそくわん)症の検査については、全国1806の教育委員会を対象とした調査を行い、139の教育委員会から「検査機器を導入済み」と回答があったことを説明。特に秋田県、千葉県、愛媛県では6割以上の教育委員会が導入していることを報告した。
 渡辺常任理事は、日本医師会が行った「機器を用いた脊柱側弯症検診アンケート調査」の結果について報告。検査結果の判読者や機器ごとの有所見率、要精査率基準等のアンケート結果を踏まえ、脱衣の問題や時間の課題により医師の負担が増加することに懸念を示し、「医師の負担を軽減するためには、機器を用いた検査による精度の向上はもちろんだが、まずは機器を導入するための制度整備が必要」と強調した。
 新井貞男日本臨床整形外科学会顧問は、側弯症検診が平成28年に完全義務化されるまでの歴史や現状について詳説。現在の側弯症検診の主な課題として、「脱衣の問題」と「内科・小児科医が主体である校医が側弯症疑いのチェックをできているか」を挙げ、これらの解決策として、検査機器を用いた側弯症検診の可能性を提示した。
 その上で、検査機器導入のメリットとして、客観的で均質な検査の提供やデジタルデータを用いた経年比較が可能となることを挙げる一方で、そのデメリットとしては費用面での課題や判定までに時間が掛かることなどがあると指摘した。

シンポジウム「北から南から」

 続いて行われたシンポジウムでは、笹本洋一常任理事/北海道眼科医会長が北海道における眼科学校健診の現状を解説。眼科医による健診を実施している自治体は179市町村のうち97市町村(54・2%)であり、眼科医不在の自治体が多い上に、他の自治体から健診に来てもらうとしても、移動距離が長く医師の負担も大きくなっているとした。
 また、「眼科学校健診の項目は当初の感染症予防から、近視進行抑制など、視機能の管理に軸足を置くための項目へと見直すことが必要になってきている」と述べた。
 坂東伸幸北斗病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科副院長は、同じく北海道の耳鼻咽喉科に関する学校健診の現状について報告。北海道は市町村数が非常に多いことから健診が広がりにくく、更に耳鼻科医が札幌市と道央に偏在していることから、耳鼻科学校健診の実施状況にもその影響が出ているとした。
 真栄城徳秀真栄城耳鼻咽喉科院長は、沖縄県における耳鼻咽喉科学校健診について、実施率が全国平均の88・8%に対し沖縄県は37%と著しく低いこと、また、耳鼻咽喉科学校医の配置状況については全国平均が79・8%であるのに対し、沖縄県はわずか2%という深刻な状況を報告。これらの要因としては、学校医複数制導入時に沖縄県がアメリカの統治下にあったことや、教育委員会の認識不足、耳鼻咽喉科医の不足などが挙げられるとし、今後の対策として①法改正への提言②教育委員会への啓蒙活動③耳鼻咽喉科医の意識改革―が必要と述べた。

講演

 土生川千珠国立病院機構南和歌山医療センター小児アレルギー科・小児科医長は、子どもの不登校等の社会問題や、全国で展開している体とこころの学校健診について詳説。不登校児童生徒数が令和5年度には34万名に達し、毎年5万名ずつ増加しており、特に小学1年生は令和3年度と比較して倍増しているなど、深刻な状況にあることなどを指摘した。
 また、不登校の始まりについて、土生川医長は子どもと保護者が体の不調や生活リズムの乱れを訴えている割合が74~78%程度あるのに対し、教員の認識は8~19%と大きな差があることを報告。医療機関への未接続率も86%と高いことも問題との認識を示した。
 それらの課題への介入策については、タブレット端末を使用した質問紙システム「こころの学校けんしんくん」を活用。これまでに2万名以上の子どもが参加し、不登校の早期発見・予防的介入に成功していることを報告。更に、8000名の子どもを対象に「こころの学校健診」を行った結果、早期医療介入群では就寝時刻が早まり、無欠席の子どもが増加したことなどを挙げ、その成果を強調した。
 小林潤一郎明治学院大学心理学部教育発達学科教授は、発達障害の児童生徒と心の健康について講演。発達障害については、生まれながらの要因と育ちの環境が心の健康に大きく影響しているとして、特に、限局性学習症(SLD)、注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)の特徴と課題について詳説した。
 また、学校教育における発達障害児童の支援について、通常学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒が8・8%存在し、小学1年生では12%に上ることを示し、その対応のためには学校と医療の連携が重要であるとして、学校医や養護教諭の協力による早期発見・支援の仕組みづくりを提案した。
 各講演後にはフロアからの活発な質疑応答が行われ、最後に渡辺常任理事が閉会のあいさつを行い、講習会は終了となった。

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