今年2月の熊本城マラソンでは、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)を3包飲んだものの脱水症状で足がつり、最後の10キロメートルをゾンビのように歩く羽目になり、制限時間7時間ギリギリでゴールするという屈辱的体験をしました。そのリベンジを果たすべく、11月の福岡マラソン2024に挑戦しました。
今回は後半の失速を避けるため前半はペースを抑えました。その結果、30キロメートルを過ぎても調子が良く、最後の10キロメートルを猛ダッシュ。ネガティブスプリット(後半が前半より速いペース)でゴールでき、記録も更新してリベンジ成功。ただし、ネットタイムは6時間6分。決して自慢できるタイムではありませんが、一応の成果でした。
今回の遠征では、マラソン以上に印象に残る出来事がありました。
前泊したカプセルホテル(何と1泊1万2000円!)では、QRコードが印字された薄いカードキーを渡され、それをかざしてロッカーや出入口を開けるシステムでした。
当日、朝5時に起床し、準備を進めていると、6時頃に挙動不審な若者が目に入りました。20歳代後半の男性で、ブリーフ1枚の姿。ロッカールームの洗面台のそばに立ち、表情が硬く、何かをブツブツつぶやいています。何か思い詰めているような。一見して自閉症スペクトラムの特徴をもつ方だろうと思いましたが、シャワー室の空きを待っているのだろうと考え、そのまま気にしませんでした。
10分程経った頃、その男性が私の肩を叩き、「あー、あう、すみません」と言いながら、私のカードキーと自分のロッカーを指さし、開けてほしいと頼む仕草をしました。(ああ、カードキーをロッカーに閉じ込めたのか)と気付きましたが、「僕のロッカーキーは31番用なので、あなたの35番のロッカーは開けられません。フロントに行って、マスターキーで開けてもらって下さい」と伝えました。しかし、彼は困った顔をするだけ。「ああ、裸なのでフロントに行けないんですね」と察し、代わりにフロントヘ。
事情を説明するとスタッフの女性が「スペアキーを発行します」と言い、プリンターで新しいカードキーを作成。(ああ、磁気カードじゃなく二次元コードだからすぐに作れるんだな)と感心していると、そのカードを私に渡そうとするので「でも僕がウソをついて35番ロッカーの物を盗もうとしているかも知れませんよ?」と冗談交じりに言うと、スタッフは「35番ロッカーの方は外国の方ですよね」と返答。そこでようやく彼が言葉にハンディキャップのある方ではなくて韓国か台湾か中国からの旅行者だと気付きました。「ああ、外国の方です!」と答え、スペアキーを持って彼の元へ。
5分後、彼が再び私の肩を叩き、ペットボトルのお茶を差し出しました。更にスマホを見せられると、通訳ソフトで「どうもありがとうございました。」と表示されていました。旅行必須のスマホもロッカーに閉じ込めてしまい、さぞ心細かったことでしょう。助けてもらったことがよほどうれしかったのか、感謝の気持ちが伝わってきました。
ちょっとした国際貢献ができたと、少し誇らしい気持ちになりました。ただ、英語なら You're welcome! と言えますが、韓国語や中国語は全く分からず、「どういたしまして」と日本語で返すことしかできませんでした。
この経験は、マラソンの記録以上に心に残る出来事となりました。