命を救うことと機能を再建することを両立する
【整形外科】八幡 直志医師
(帝京大学医学部附属病院 外傷センター)-(前編)
ダイナミックさに惹かれて
――先生は、当時まだ臨床研修が必修でなかったにもかかわらず、3年間のローテーション研修を経験されているんですね。
八幡(以下、八):はい。周囲にはすぐ医局に入る人が多かったのですが、私は医学部卒業の時点で何をやりたいかが決まっていなかったので、ローテーション研修を行っていた都立病院に入職しました。しかし2年間の初期研修の後も専門分野が決められず、追加で整形外科と脳外科を半年ずつ回らせてもらいました。
――最終的に整形外科を選んだ決め手は何でしたか?
八:折れた骨を戻したり、ざっくり切れたところを治したりというダイナミックさに惹かれたからです。救急車で運ばれてきた外傷の患者さんを治療する先輩医師の姿に憧れ、その先生が所属する整形外科の医局に入りました。
ただ、入局直後は苦労しました。専門分野を選んだのが遅かった分、同年代の医師たちよりも整形外科の専門的な手技がうまくできなかったんです。「4年目なのにそんなこともできないのか」と怒られることも多く、悔しい思いもしました。
――その後、医局の人事で、約1年半ごとに大学病院と各地の関連病院を回られたんですね。
八:はい。ただ大学病院は扱う内容が専門的で、自分がイメージしていた「現場」とは何か違うなと感じてしまったんです。今思えば、初期研修の頃によく呼ばれていた救急の雰囲気を「これが医療の現場なんだ」と感じていたからかもしれません。もっと患者さんに近い場所で働きたいと思い、医局人事では最前線で働くことのできる地方病院や都立病院を希望しました。
命を救うことと機能を再建することを両立する
【整形外科】八幡 直志医師
(帝京大学医学部附属病院 外傷センター)-(後編)
救急の現場で外傷を診る
――この病院の前に救命センターを2つ経験されていますね。
八:はい。もっともっと最前線で働きたいと思い、墨東病院の救命救急センターを希望したのですが、この頃には既に自分の中で「現場」=救急・外傷というイメージがうっすらできていたんだと思います。
救命センターには大きく2種類あって、各専門科の医師がセンターに所属していてセンター内で完結する形と、救急の専門医の判断のもとに、各専門科所属の医師につないでいく形があります。墨東病院は前者でした。この当時に上司から教えられた「自分が少しでも関わったのであれば、主治医と同じように対応せよ」という考え方は今でも肝に命じています。例えば頭と四肢に外傷がある患者さんが運ばれてきた場合、もちろん脳外科の先生と一緒に対応するのですが、整形外科だからといって骨だけ診ていればいいというわけではなく、全身状態を把握することを求められます。これは勉強しなければと強く思い、休日も利用して月に数回セミナーに通っていました。
帝京大学外傷センターの強み
――現在は外傷を専門にされているんですね。
八:はい。通常は10年目前後に専門を決めるのですが、私は入局して8年で外傷を専門にしようと決め、この病院に来ました。
ここの大きな特徴は、救急科の中に外傷センターがあるところです。救命センターと外傷センターが併設されている施設は、ほとんどありません。外傷センターにはその道のスペシャリストが集まっており、常に患者さんを前に指導してくれます。今まで費用を払って参加していたセミナーの講師陣に、実際の症例を目の前にして、ライブで、しかも無料で教えてもらうことができるんです。毎日が、非常に貴重な勉強の日々となります。
外傷センターの役割は、初療の段階から機能再建を視野に入れて介入することです。救急の現場では命を救うことが最優先ですから、複合的な症状の場合は外傷治療が後になってしまう場合も少なくないのですが、機能の再建という観点で考えるとそれでは間に合わない場合もあります。どのタイミングで介入するかが患者さんのその後の生活を大きく左右するため、早期から各専門科が話し合いながら適切なタイミングで関わることがとても大事なんです。
外傷センターが救急科の中にあることで、救命と機能再建を両立しやすいと感じます。さらにこの病院のいいところは、一般整形外科各専門診との連携も密であるところです。一般整形各専門診の観点から、さらに踏み込んだ検討が行われる点も非常に魅力的です。
外傷治療の重要性を伝えたい
――今後はどんな医師になっていきたいと思っていますか?
八:これからもずっと救急の現場で外傷の治療に携わっていたいですね。ただ、現状では整形の中で外傷治療というと、研修医がやるべきものという認識も残っています。しかし外傷を専門とする医師からすれば「もっといい介入ができたのでは」という事例も少なくない。外傷治療の重要性を周知していく必要があると感じています。
そのためにも、この外傷センターのように専門家が集まり、情報共有しながら技術を磨ける場がもっと必要だと思います。
2002年 弘前大学医学部卒業
2014年10月現在 帝京大学医学部附属病院外傷センター
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