グローバルに活躍する若手医師たち
日本医師会の若手医師支援
JMA-JDNとは
Junior Doctors Network(JDN)は、2011年4月の世界医師会(WMA)理事会で若手医師の国際的組織として承認されました。JDNは、世界中の若手医師が情報や経験を共有し、未来の医療を考えて行動するための画期的なプラットフォームです。日本医師会(JMA)は2012年10月に国際保健検討委員会の下にJMA-JDNを立ち上げました。これまで若手医師の集まりは学会や医局、地域、NGOなどの枠組みの中でつくられてきました。JMA-JDNは、多様な若手医師がそれらの枠組みを超えて、公衆衛生や医療分野において自由に自分たちのアイデアを議論し行動できる場を提供したいと考えています。関心のある方は検索サイトやFacebookで「JMA-JDN」と検索してみて下さい。
今回は、世界医師会(WMA)ブエノスアイレス理事会及び欧州日本人医師会(欧州で医療活動を行う日本人医師約40名の任意団体)青年部会ブダペスト総会に参加した若手医師たちから感想を寄せてもらいました。
イベントを通して学ぶときに大切なこと
~WMAブエノスアイレス理事会に参加して~
JMA-JDN 代表 阿部 計大
私たちが勉強会やセミナーに参加するのは何のためでしょうか?そのイベントの講師が魅力的だったり、テーマに興味があったり、友達に誘われたからかもしれません。もし知識を得たいだけであれば、本や文献を読んだ方が体系的で正確な情報が得られます。2016年4月27日から4日間の日程でブエノスアイレスにて開かれたWMA理事会とJDN会議に出席しながら、これに参加して得る価値を最大化する方法を考えました。
ノーベル経済学賞受賞者のDaniel Kahneman氏は著書の『Thinking, Fast and Slow』の冒頭で人の思考を二つに分けて紹介しています。直観的で自動的な「システム1」と熟慮的で合理的な「システム2」です。この両方の思考過程を適切に使用することで、イベントをより有意義なものにできるのではないかと思うのです。まず、イベント期間中は「システム1」をフル回転させます。例えば、ブエノスアイレスの近代的な空港に着いた瞬間から、自動的に私の「システム1」は働いています。ホテルに移動するまでの車窓から街並みを観たり、世界のJDNメンバーと再会の挨拶をしている時にも働いています。会議中は「ジカウイルス感染症」や「気候変動の健康影響」など、20以上の声明案を検討します。夜は歓迎パーティーでアルゼンチンの伝統や文化が感じられる料理を頂いたり、タンゴを鑑賞しながら世界中の若手医師と会話を楽しみます。期間中は慣れない環境から多くの情報を認識して、迅速に処理しなければならず、高揚感を感じながら常に「システム1」が優位にならざるを得ません。しかし、このままヒューリスティックな思考で終わってしまってはバイアスがかかった理解に終始し、学んだ気にはなるものの悪影響すら及ぼすかもしれません。大切なのは、イベント後に「システム2」を優位にして論理的思考で検証することだと思います。今回も会議中にすべての声明案を理解することは難しく、「ジカウイルス感染症と小頭症の発症」の因果関係は既に証明されているものだと思い込んでいました。しかし、帰国後に文献を調べると2016年春のNew England Journal of Medicineに掲載された論文でようやく因果関係が示されたことがわかりました。イベント参加後は一度冷静に振り返り、学んだことを論理的に検証することで、その価値をさらに高められると思います。
手稲渓仁会病院で研修後、東京大学大学院公衆衛生学博士課程に在学中。家庭医療専門医。認定内科医。産業医。
グローバルに活躍する若手医師たち
世界の若手医師に「伝える力」を学ぶ
JMA-JDN 副代表、WMA JDN Membership Director 三島 千明
ブエノスアイレスで行われたJDNの会議に、日本から参加してきました。日々の目の前の臨床研修や業務に追われる若手医師にとっては、国際的な活動はとても遠い存在のように思えるかもしれません。また言語の壁から、自分には難しい、と感じる方もいるかもしれません。私自身も、国内外の健康問題に関心を持ちつつも、日々の臨床に追われるなかで、とても海外に目を向ける余裕はありませんでした。そんな私ですが、色々な人とつながり、学んでみたいと思い、JDNの活動に参加するようになりました。
JDNの国際的な活動の醍醐味は、様々な国の若手のメンバーや組織のリーダー達と、各国の若手医師が抱える問題を議論し、国際問題やリーダーシップを共に学び合うことです。今回は、ブエノスアイレスでの開催ということもあり、アルゼンチン・ブラジル・ペルー・コロンビアといった南米のほか、アジア・北米・欧州の様々な国々から参加者が集まりました。各国からの最近の若手医師の状況のアップデートや、「Leadership and Method of Advocacy」と題したレクチャーなどが準備され、世界の若手からのインプット、そして自分自身が発信するアウトプットの両方の機会がありました。
私は当初英語で会議に参加することをとても難しく感じていました。しかし、実際には参加する若手のメンバーは英語を母国語としない方々も多く、流暢には話せなくても、伝えようとする姿勢や自分が伝えるものを持つ、自分の意見を持つことが重要だと感じるようになりました。もっとこのネットワークの中で学び、成長したいと思い、今年度からメンバーをまとめる国際役員として活動しています。今回は、南米からの参加者を増やすために、ペルーの若手医師らと連携して広報活動を行うなどの企画・準備に関わりました。
普段は日本で医師として勤務し、目の前の患者さんのことで余裕がない日も多い私にとって、JDNは自国の医療に対する自分の考えを持つこと、自分の考えを世界に伝える力や姿勢を学ぶ場、になっているように思います。
JDNの国際会議は、次回台湾で開催される予定です。海外の若手医師との交流に関心がある方、何かに挑戦してみたい方、ぜひご参加いただければと思います。
島根大学附属病院で初期研修、医療法人北海道家庭医療学センターで家庭医療後期研修を修了。
世界から見た日本、日本から見た世界
JMA-JDN地域担当役員 岡本 真希
将来のキャリアプランをどうするか。私だけでなく、医師となり数年が経過した多くの若手医師が経験する悩みだと思います。医学に限らない経験を積んで、人間としても成長したいという思いのなか出会ったのがJMA-JDNでした。国内外の若手医師同士のネットワーク構築を目的としたJDNの活動を通じて、今回ブダペストで行われた欧州日本人医師会青年部会に参加し、実際に海外で働く日本人医師の皆様と交流する機会を頂きました。諸外国と比べて日本の医療の魅力や改善の余地はどこにあるのか。医師として海外で働くとはどのようなものなのか。とても興味がありました。同青年部会では各国の医療事情や社会保障、医師の勤務体制、急性期から慢性期の病院連携、医学教育・患者教育のシステムなど、様々な内容に関しお互いの国の現状を報告し、意見を交換しました。そのなかでも皆の関心が高かったのは、各国の医師の労働環境です。欧州では全般的に長期休暇や産休・育休、当直明けの引き継ぎの制度が整備され、ワーク・ライフ・バランスが保たれている印象がありました。例えばドイツでは年6週間の長期休暇が保障されており、残業代の代わりに休暇を取るそうです。
その反面、代診の医師の仕事量が倍になる、産休で人手不足が生じているなどの問題点もありました。また学費や医療費が無償の社会保障が充実した国では、給与の半分以上が税金として徴収されるなど、制度の裏側にある問題点も見えてきました。一番驚いたのは、EU内で共通の医師免許により途中で働く国を変えたり、医学部を転校したりできる制度の存在です。国外にも視野を広げたキャリアの選択肢があることを知り、一気に自分の世界が広がりました。言語や文化の壁を乗り越えて現地で活躍される先生方と出会えたことは、努力を惜しまず患者様のために尽くすという医師としての根本に立ち返るきっかけとなる、かけがえのない経験になったと感じています。
洛和会音羽病院にて研修後、同病院で心臓内科医として勤務中。学生ACLS, AMSAなどで活動。



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