医師のみなさまへ

2019年5月1日

第1回 生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー 受賞作品
一般の部【入選】

「みいちゃんへ」

坂口 有美子(30)東京都

 みいちゃん、あのね、みいちゃんは産まれた時、すぐに小さい手足をバタバタさせて、ママにすがりついてきましたよ。産着を着せるために、看護師さんがママから離したら、とたんに大声で泣きました。信じられないほど小さくて、フニャフニャしていた、みいちゃん。「世界で一番かわいい」と、心から思いましたよ。

 みいちゃん、ごめんね。ちゃんと健康に産んであげられなくて。心臓に重い病気を抱えていて、産まれてすぐ、どんどん体重が減っていった時、ママは夜も眠れませんでした。「つわりで、ろくに食事を取らなかったせい?」「お姉ちゃんの遊びにつきあって、大きいおなかで走り回ったせい?」。夜中に何度も目を覚ましては、みいちゃんの寝顔を見て、そんなことを考えました。

 かわいそうなみいちゃん。産まれてずっと、入退院の繰り返し。同じくらいの月齢の子が、日様を浴びてお散歩をしているのに、みいちゃんは呼吸をするだけで精一杯。「赤ちゃんは何も言わないけど、とてもつらい」と先生から言われた時は、胸が刺されるようでした。

 少しでも体調を崩すと、即入院。小さな体にたくさんのコード。ママは、病院から家に帰るのが嫌でした。みいちゃんは、「どうしておいていくの?」「さびしいよ」という顔をして、目に一杯涙をためて、ベッドからじっと見上げていました。まだしゃべることもできないけれど、大きな目で「ママ、帰らないで」と、ハッキリ言っていましたね。

 みいちゃん、みいちゃんの病気が分かった時、おばあちゃんはすぐに「家事は私がやるから、あんたはできるだけ、みいちゃんの側にいてやりなさい」と言ってくれました。それからおばあちゃんは毎日、仕事を早く切り上げて、病院通いで帰りの遅いママに代わって、御飯を作ってくれたんですよ。おじいちゃんは、2か月も仕事を休んで、みいちゃんのお世話を手伝ってくれました。パパも、夜、なかなか眠れないみいちゃんを抱いて、何時間もゆすって寝かしつけてくれました。

 このことを、みいちゃん、大きくなっても忘れないでね。毎日が、薄氷を踏むような心地だったけれど、家族みんなが、あらん限りの愛情をみいちゃんに注いで、一日一日を乗り切っていったのです。

 そして、みいちゃん。みいちゃん自身も、少しずつ、でも確実に成長しました。

 最初の手術を受ける時、ママは初めて、心から神様に手を合わせました。みいちゃんはまだ6か月。6か月で、まだ新生児の服を着ている小さなみいちゃんに、もしものことがあったらどうしよう。10時間、ろくに座っていることすらできませんでした。

 でも、みいちゃん。みいちゃんは、ちゃんと戻ってきましたね。自力呼吸ができず、人工呼吸器をつけていたので、だっこすることもできなかったけれど、小さなほっぺたが確かに温かかったことを、ママは決して忘れません。

 そして、退院する前の日、みいちゃんは初めて声を立てて笑いました。

 「聞こえましたか? 今、笑いましたよ」

思わずママが叫ぶと、近くにいた看護師さんたちが集まって、みいちゃんの頭をなでてほめて下さいました。「おめでとうございます」と、自分のことのように涙ぐんで下さる方もいましたよ。

 みいちゃん、みいちゃんは産まれながらに重い心臓病を負い、それはとても不運ではあったけれど、決して不幸ではありません。ママはみいちゃんを幸せ者と思います。

 パパやおばあちゃん、おじいちゃん、ひいおばあちゃんも、みいちゃんをかけがえのない希望として、心底からかわいがってくれるのです。また、病院の先生、看護師さん、多くの人がみいちゃんの生を支え、みいちゃんの一生が幸福であるように、手を尽し、念じて下さるのです。そしてこの愛情は、みいちゃんの中で、大きな力となってくれるはずです。

 みいちゃん、みいちゃんが産まれて、今、7か月。1歳になるこの冬、2度目の大きな手術をします。でもママは、1度目の手術の時のような、不安な思いは、もうありません。

 ひいおばあちゃんが、毎日仏壇に向かって、ご先祖様にお祈りをしているし、先生方や看護師さんも、万全の態勢をとって下さいます。そしてみいちゃんには、手術に耐える力があります。

 手術室に入って、また出てくるまで、ママはとなりの待ち合い室で待っています。ずっとそばにいるから、みいちゃん、無事に戻っておいで。人工呼吸器がとれたら、ぎゅっと抱きしめて、もう絶対に離さないからね。

第1回 受賞作品

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