医師のみなさまへ

WMA医の国際倫理綱領


17.A
THE WORLD MEDICAL ASSOCIATION, INC.
WMA医の国際倫理綱領

  • 1949年10月
    英国、ロンドンにおける第3回WMA総会で採択
  • 1968年 8月
    オーストラリア、シドニーにおける第22回WMA総会で改訂
  • 1983年10月
    イタリア、ベニスにおける第35回WMA総会で改訂
  • 2006年10月
    南アフリカ、ピラネスバーグにおける第57回WMA総会で改訂
  • 2022年10月
    ドイツ、ベルリンにおける第73回WMA総会で改訂

序文

世界医師会(WMA)は、世界中の医療専門家のための倫理原則の規範として、医の国際倫理綱領を策定した。本綱領は、WMAジュネーブ宣言:医師の誓いおよびWMAの政策文書全般に準拠し、患者、他の医師および医療専門家、自分自身ならびに社会全体に対する医師の職業上の義務を定義し、明らかにしている。

医師は、適用される国内の倫理的、法的、規制的規範および基準、ならびに関連する国際的規範および基準を認識しなければならない。

このような規範や基準は、本綱領に定める倫理原則に対する医師の責任を軽減させるものであってはならない。

医の国際倫理綱領は全体として解釈されるべきであり、その構成段落のそれぞれは、他のすべての関連段落を考慮した上で適用されるべきである。WMA の使命に基づき、本綱領は医師を対象としている。WMAは、医療に携わる他の人々に対しても、これらの倫理原則を採用するよう奨励する。

一般原則

  • 1.

    W医師の第一の義務は、 good medical practice と専門性に則り、的確で時宜に適った、かつ思いやりのあるケアを提供することにより、個々の患者の健康とwellbeingを増進することである。
    また、医師は、将来の世代を含め、医師が奉仕する人々と社会全体の健康と wellbeingに貢献する責任を有する。
    医師は、人間の生命と尊厳、患者の自律性と諸権利を最大限に尊重した上でケアを提供しなければならない。

  • 2.

    医師は、年齢、疾患または障害、信条、民族的起源、ジェンダー、国籍、所属政治団体、人種、文化、性的指向、社会的地位またはその他のあらゆる要因に基づく偏見あるいは差別的行為に関わることなく、公正かつ公平に医療を実践し、かつ患者の健康ニーズに基づいたケアを提供しなければならない。

  • 3.

    医師は、委託された共有資源の公正、公平かつ慎重な管理を踏まえて、患者に最適な利益をもたらす方法で医療資源を使用するよう努めなければならない。

  • 4.

    医師は、常に独立した専門的判断を下し、最高水準の専門的行動を維持しながら、良心、実直さ、誠実さ、説明責任を持って診療を行わなければならない。

  • 5.

    医師は、自分自身または所属機関に利益が生じる可能性によって個々の専門的な判断が左右されるようなことがあってはならない。医師は、実際のまたは潜在的な利益相反を認識し、それを回避しなければならない。そのような利益相反が避けられない場合は事前に申告し、適切に管理しなければならない。

  • 6.

    医師は、個々の医学的判断に責任を持たなければならず、医学的考察に反する指示に基づき、専門家としての健全な医学的判断を変えてはならない。

  • 7.

    医学的に適切な場合、医師は患者のケアに関与する、あるいはケアの選択肢を評価または推奨する資格を有する他の医師および医療専門家と協力しなければならない。このコミュニケーションは、患者の秘密保持を尊重し、必要な情報に限定されなければならない。

  • 8.

    専門的な証明書を提供する場合、医師は自ら確認したことのみ証明しなければならない。

  • 9.

    医師は、医師自身の安全と能力、および他の実行可能なケアの選択肢の有無を考慮しながら、医療上の緊急事態に支援を提供すべきである。

  • 10.

    医師は、拷問、その他の残虐、非人道的または品位を傷つける行為ならびに処罰に加担、または助長してはならない。

  • 11.

    医師は、専門的な知識と技能を維持、発展させるために、職業生活を通じて継続的な学習を行わなければならない。

  • 12.

    医師は、現在および将来の世代に対する環境上の健康リスクを最小限に抑える観点から、環境的に持続可能な方法で医療を実践するよう努めるべきである。

 

患者に対する義務

  • 13.

    医療を提供するにあたり、医師は患者の尊厳、自律性、および権利を尊重しなければならない。医師は、患者が自身の価値観や意向に沿って自由にケアを受け入れる、または拒否する権利を尊重しなければならない。

  • 14.

    医師は、患者の健康とwellbeingを最優先することを約束し、患者の最善の利益のためにケアを提供しなければならない。その際、医師は患者に対する危害を防止、または最小化するよう努め、患者に対して意図された利益と潜在的な危害との間の正のバランスを追求しなければならない。

  • 15.

    医師は、ケアの過程のあらゆる段階で患者の情報を得る権利を尊重しなければならない。医師は、提案されたケアについて、十分な情報を得た上での主体的な意思決定に必要な情報を、患者が受け取り、理解できるようにした上で、提供する全ての医療に先立ち、患者の自発的なインフォームド・コンセントを得なければならない。医師は、いつ、いかなる理由でも、患者が同意を保留、または撤回する決定を尊重しなければならない。

  • 16.

    患者の意思決定能力が実質的に制限されている、発達していない、障害がある、または変動している場合、医師は医療上の決定に可能な限り患者を参加させなければならない。さらに、医師は、患者の意向がわかっている場合、または合理的に推測できる場合には、患者の信頼できる代理人がいればその代理人と協力して、患者の意向に沿った意思決定を行わなければならない。患者の意向が特定できない場合、医師は患者の最善の利益のために意思決定を行わなければならない。すべての決定は、本綱領に定められた原則に則って行われなければならない。

  • 17.

    緊急事態において、患者が意思決定に参加できず、代理人も直ちに対応できない場合、医師は、患者の最善の利益のために事前のインフォームド・コンセントなしに、また、患者の意向が明らかな場合にはそれを尊重した上で、介入を開始することができる。

  • 18.

    患者が意思決定能力を回復した場合、医師はさらなる介入についてインフォームド・コンセントを得なければならない。

  • 19.

    医師は、患者の意向と最善の利益に沿い、患者の秘密保持を十分に考慮した上で、可能であれば患者に近しい他者に配慮してコミュニケーションをとるべきである。

  • 20.

    患者のケアのいずれかの側面が医師の能力を超えている場合、医師は、必要な能力を 有する、他の適切な資格を持つ医師または医療専門家に相談するか、あるいは患者を紹介しなければならない。

  • 21.

    医師は正確かつ適時に医療文書を作成しなければならない。

  • 22.

    医師は、患者が死亡した後も、患者のプライバシーおよび秘密保持を尊重しなければならない。医師は、患者が自発的なインフォームド・コンセントを行った場合、または例外的に、他の全ての可能な解決策が尽くされた、重要かつ最優先の倫理的義務を守るために開示が必要なときは、患者が同意しないか同意できない場合でも、秘密情報を開示することができる。この開示は、必要最小限の情報、受領者、および期間に限定されなければならない。

  • 23.

    医師が患者のケアに関して、第三者に代わって行動、または第三者に報告する場合、医師は、最初の段階で適切に、また必要に応じて、あらゆる意思疎通の過程で、患者に通知しなければならない。医師は、それらの関与の性質と程度を患者に開示し、意思疎通について同意を得なければならない。

  • 24.

    医師は、強引な、あるいは不適切な広告やマーケティングを控え、医師が広告やマーケティングで使用するすべての情報は事実に基づいており、誤解を招くものでないことを確認しなければならない。

  • 25.

    医師は、商業的、財政的、またはその他の利益相反が、医師の専門的判断に影響を与えることを認めてはならない。

  • 26.

    遠隔診療を行う場合、医師はこのコミュニケーションが医学的に正当であり、必要な医療が提供されることを確認しなければならない。また、医師は、遠隔診療の利点と限界を患者に伝え、患者の同意を得て、患者の秘密保持を確実に守らなければならない。医学的に適切であれば、医師は、直接的な対面診療を通じて患者にケアを提供することを目指さなければならない。

  • 27.

    医師は、職業上の適切な境界を維持しなければならない。医師は、患者と虐待的、搾取的またはその他の不適切な関係または行動をとってはならず、現在の患者と性的関係をもってはならない。

  • 28.

    最高水準のケアを提供するために、医師は自らの健康、wellbeing、および能力に留意しなければならない。これには、安全に診療を行うことができるよう、適切なケアを受けることも含まれる。

  • 29.

    本綱領は、医師の倫理的な義務を表している。しかし、いくつかの問題については、医師と患者が熟慮しながらも良心的な信念が相反するという、深刻な道徳的ジレンマが存在する。
    医師には、患者のケアの中断を最小限に抑える倫理的義務がある。合法的な医療介入の提供に対する医師の良心的拒否は、個々の患者に危害や差別がなく、患者の健康が脅かされない場合に限り行使することができる。
    医師は、この良心的拒否および、患者が他の資格を有する医師に相談する権利を有することを、直ちにかつ丁重に患者に告知し、患者が適時にそのような相談を開始できるよう十分な情報を提供しなければならない。

 


他の医師、医療従事者、学生およびその他に対する義務

  • 30.

    医師は、偏見、ハラスメント、差別的な行為を行うことなく、他の医師、医療専門家およびその他に丁重かつ協力的な態度で関わらなければならない。また、医師はチームで仕事をする際に、倫理原則が守られるようにしなければならない。

  • 31.

    医師は同僚の患者と医師の関係を尊重し、どちらかの当事者から要求された場合、または患者を危害から守るために必要な場合を除き、介入すべきではない。このことは、医師が患者の最善の利益になると考えられる代替の行動方針を推奨することを妨げるべきでない。

  • 32.

    医師は、医師または医師以外の医療専門家が最高水準のケアを提供すること、あるいは、本綱領の原則を守ることを妨げる条件または状況を、適切な当局に報告すべきである。これには、医師および医師以外の医療従事者に対するあらゆる形態の虐待や暴力、不適切な労働条件、または過度かつ持続的なレベルのストレスを生み出すその他の状況が含まれる。

  • 33.

    医師は、教師および学生に対して十分な敬意を払わなければならない。

社会に対する義務

  • 34.

    医師は、公平かつ公正な医療の提供を支持しなければならない。これには、健康とケアにおける不平等、その決定要因、ならびに患者および医療従事者双方の権利侵害に対処することが含まれる。

  • 35.

    医師は、健康、健康教育、およびヘルスリテラシーに関連する事項において重要な役割を担っている。この責任を果たすために、医師は、ソーシャルメディアを含む非専門的な公共の場で、新たな発見、技術、または治療法について慎重に議論しなければならず、自身の発言が科学的に正確で理解できるものであることを確認する必要がある。
    医師は、自らの意見がエビデンスに基づく科学的情報に相反する場合は、その旨を示さなければならない。

  • 36.

    医師は、WMAヘルシンキ宣言およびWMA台北宣言を踏まえて、健全な医科学的研究を支援しなければならない。

  • 37.

    医師は、医療専門職に対する社会の信頼を弱めるような行動を避けるべきである。その信頼を維持するために、個々の医師は、自分自身と同僚の医師に最高水準の専門的行動をとり、本綱領の原則に反する行為を適切な当局に報告する用意をしておかなければならない。

  • 38.

    医師は、患者の利益および医療の進歩、公衆衛生および国際保健のために、医学的知識および専門知識を共有するべきである。

医療専門職の一員としての義務

  • 39.

    医師は、本綱領の倫理原則を遵守し、保護し、促進すべきである。医師は、本綱領に定められた義務のいずれかを損なう国内または国際的な倫理的、法的、組織的、または規制上の要件を防止することに協力すべきである。

  • 40.

    医師は、同僚医師が本綱領に定められた責任を守ることを支援し、不当な影響、虐待、搾取、暴力、抑圧から同僚を保護するための措置を講じるべきである。

世界医師会(WMA)トップへ