医師のみなさまへ

医師主導の職業規範に関するWMAマドリード宣言

 

  • 2009年10月
    インド、ニューデリーにおける第60回WMA総会で採択
  • 2019年10月
    ジョージア、トビリシにおける第70回WMA総会で修正

世界医師会(WMA)は、医師のプロフェッショナル・オートノミーと臨床上の独立性に関する「WMAソウル宣言」を再確認する。

医療専門職は、会員の品行と職務上の活動を規制する上で中心的役割を果たし、会員の職務上の実践が市民の利益を最優先したものであることを保証しなければならない。

医療専門職の職業規範は、国民が医療専門家に対して期待できるケアと行動の基準への信用を保証し維持する上で不可欠な役割を果たしている。その職業規範には、非常に強力で独立性のある専門的関与が必要となる。

医師は、すべての患者に対して可能な限り最高水準のケアを最大限保護する職業規範制度の開発または維持を目指す。医師主導のモデルは、個々の医師が何人からも干渉を受けずに自らの判断で診療する権利を強化し保証する環境を提供することができる。したがって、WMAは、各国医師会とすべての医師に対し、効果的な制度の設置を確保するため規制当局と協力し適切な活動を行うよう要請する。これらの活動は、以下の原則の下で周知されるべきである。

  • 1.

    医師は高度なプロフェッショナル・オートノミーと臨床上の独立性を認められており、それによって、外部からの不当ないし不適切な干渉を受けることなく、自らの知識と経験、臨床エビデンス、および患者にとっての最善の利益を含めた患者の包括的理解に基づいて忠告を行うことができる。これは、ソウル宣言でより詳細に解説されている。

  • 2.

    医師の職業規範は、つり合いが取れ、促進的で、負担が少ないものでなければならず、またどの医師にも等しく適用され、患者を守り患者に利益をもたらすモデルに基づき、かつ倫理規範に基づいていなければならない。あらゆる種類の医療計画や提供は、すべての医師を統治する倫理モデルと現在のエビデンスに基づく医学知識に基づいている。これは医師のプロフェッショナリズムの中核要素であり、患者を保護するものである。医師は、関連する現場の状況を念頭におき、そのような規範的基準に照らして、同僚の行動を判断するのに最も相応しい立場にある。

  • 3.

    医療専門職は、規範に強く関与すること、つまり自主的規制に対して継続的責任を負う。最終的な管理や意思決定の権限には医師が含まれていなければならず、医師に特有の医学的訓練・知識・経験・専門性に基づいていなければならない。医師主導の職業規範が設けられている国では、医師は、それが国民の信用を保持していることを確保しなければならない。混在型の職業規範制度を有する国では、医師は、それが医師と国民の信用を保持していることを確保するよう努めなければならない。

  • 4.

    各国の医師は、つり合いが取れ、公正で厳格かつ透明性のある医師主導の職業規範制度を確立させ、それを維持し、かつ積極的に関与することを検討するよう強く求められる。そうした制度は、医療上の判断を自由に行う医師の権利と、それを賢明かつ節度を持って行使する義務とのバランスを保つよう意図されている。

  • 5.

    各国医師会(NMAs)は、十分な情報提供と効果的な規範の概念を会員および国民の間で促進・支援すべく、最善を尽くさなければならない。NMAsは、その代表的役割と規制的役割との間におけるいかなる潜在的利益相反も回避されるよう、そのふたつのプロセスを分離し、国民に職業規範の独立性と公平性を保証できるような、透明性があり公平な職業規範制度に厳重な注意を払わなければならない。

  • 6.

    いかなる医師主導の職業規範制度も、以下の事項を強化し保証しなければならない。

    • 患者への質の高い安全かつ要求にかなった医療の提供
    • その医療を提供する医師の能力
    • すべての医師の、倫理面も含めた職業上の品行
    • 社会と患者の権利の保護
    • 患者とその家族と国民の信頼と信用の促進
    • 職業規範制度の質の保証
    • 患者と社会による信頼の維持
    • 潜在的な利益相反に対する解決策の開発
    • 幅広い職務責任へのコミットメント


  • 7.

    患者への良質で継続的な医療提供を保証するためには、医師は、その臨床知識・技術・能力を更新し維持するため、内省的実践も含めた継続的専門能力開発プロセスに積極的に参加すべきである。雇用者と管理職には、医師がこの要件を満たすことを可能にする責任がある。

  • 8.

    医師の職業上の品行は、各国で医師を統括する倫理規定の範囲内にあるものでなければならない。NMAsは、患者の利益のため医師同士の職業・倫理上の品行を促進しなければならず、倫理違反は速やかに認めて関連規制当局に報告し対処しなければならない。医師は、能力に問題がある同僚が患者や同僚をリスクにさらすことなく、医師の健康プログラムまたは適切な訓練からの適切な支援を受けて現場に復帰できるよう、適時に介入する義務がある。

  • 9.

    規制当局は、司法あるいは準司法的手続きが完了した時、かつ医師に不利な判断がされた場合には、調査結果を公表し、改善措置の詳細も盛り込むべきである。あらゆる事例から学んだ教訓は、可能な限り、内容を抽出して医学教育課程で利用されるべきである。

  • 10.

    職業規範プロセスでは、そのような教訓を組み入れることが、できる限り滞りなく行われるようにすべきである。

  • 11.

    NMAsは、医師主導の職業規範に対する潜在的な脅威を含め、新しい課題や進展中の課題に対処するため、相互に助け合うことが強く求められる。患者の利益のためには、NMAs間で情報と経験を継続的に交換することが不可欠である。

  • 12.

    国が確立している司法や規制プロセスが何であれ、ある医師の職業上の品行や業績を判断するには、訓練、知識と経験によって関連する医療問題の複雑さを理解している同僚医師による評価が組み込まれなければならない。

  • 13.

    医師主導の職業規範の効果的かつ責任ある制度は、医師にとって私利的または内部保護的であってはならない。NMAsは、医師主導の職業規範とは、そのシステムが存在する国では、国民の健康に関連した権利を含め、国民の安全と支持と信用はもちろん、医師という職の名誉を維持するものでなければならないことを会員が理解するよう支援すべきである。

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