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令和2年(2020年)6月5日(金) / 日医ニュース

ピーテル・ブリューゲルの「死の勝利」

 新型コロナウイルス感染パンデミックに関する情報が市井(しせい)に氾濫している。
 私が今回の新型コロナウイルス感染症でまず頭に浮かんだのは、ピーテル・ブリューゲルの絵画「死の勝利」だ。14世紀中頃にヨーロッパで大流行した黒死病(ペスト)。当時は原因不明で、地位も権力も関係なく感染が拡大し、ヨーロッパの総人口の3分の1が犠牲になった惨劇を題材としたものだ。塔や船が燃え上がり、遠くの山からも火の手が上がり、有力者が感染地から逃げるように避暑地に向かい、それにネズミとノミがお供したために感染が拡大していった様子がうかがえる。
 当時は、ユダヤ人が毒を井戸に流したというデマから自警団が組織され、ユダヤ人狩りが横行した。黒死病の不安、恐怖を利用して、ユダヤ人に罪を着せ、財産を奪うことが一つの目的だったという。昨今の「自粛警察」も過度になれば、何か他の目的に利用されないか心配だ。
 1918年のインフルエンザパンデミック(スペインかぜ)は、アメリカのカンザス州を起源とする説や、中国由来ウイルスがアメリカのボストン近郊で変異してヨーロッパに広がったとする説がある。
 現在の新型コロナウイルスの起源も米中で論争が続く。スペインかぜパンデミックは3年間続き、世界中で多くの命が奪われた。日本では、1918年から1920年の3年間で総患者数約2300万人、死亡者数約39万人に達した。現在パンデミックとなっている新型コロナウイルス感染症の総患者数は5月21日時点で1万7145人、死亡者数約797人。新型コロナウイルス感染症の対策として厳格なロックダウンを行った多くの欧米諸国と、国としてロックダウンを行わなかったスウェーデンと日本。それぞれの国の事情があり、対コロナ政策がその国にとって適切であったかの判断は未来に委ねる。
 最近、新型コロナウイルス感染者数は減少傾向にあるが、第2波、第3波襲来の可能性を考えると油断できない。綿密な検証と対策を期待する。

(フェランド)

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