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令和4年(2022年)1月20日(木) / 南から北から / 日医ニュース

小さな奇跡

 今年も5月に元気に5羽のツバメがクリニックから巣立ちました。
 開業して2~3年目頃に、クリニックの玄関の対面のポーチの壁に、泥を固めたお椀型の巣を作りました(巣の形からイワツバメと思われます)。天敵であるカラス、ネコやヘビから巣を守ってもらうために人の出入りの多い所に作るらしいです。
 ただ、糞(ふん)の問題がありました。巣からお尻を突き出してする仕草は可愛いのですが、ポーチの床が糞だらけになるのです。巣の下に板や箱のふたなどをつるしておこうと考えましたが、壁の素材から難しく、結局巣の真下の床に新聞紙を敷いた箱を置き、飛ばされないように箱の角っこに大きめの石を置きました。そして、患者さん達の頭に糞が落ちないよう「上にツバメがいます。注意してください」と貼り紙をしました。今まで苦情は出ていないようで安心しています。
 その後、毎年ツバメがやって来て巣を補強して(床に泥が少し落ちているのを見付けると、今年もまた来たなと分かります)、産卵・子育てをするようになりました。産卵は1日に1個で、3~7個とのことですが、私のところでは大体4~5個です。雛(ひな)が孵(かえ)るのには2週間ほど掛かりますが、巣に親ツバメがいつも居るのが見られるようになると、そろそろ雛が孵るかなとワクワクします。
 雛が孵っても最初は下からは見えず、鳴き声も聞こえませんので、順調にいっているか不安になることも。その後、雛が大きくなると、親鳥が餌を持って巣に帰ってきた時、いわゆる黄色い嘴(くちばし)を巣から突き出してピーピーと鳴き声を出すようになり、生まれたのが確認できます。親鳥が1日に餌を巣に運んでくる回数は300~500回だそうでビックリしましたが、雛の成長の速度を見ていると宜(むべ)なるかなと思います。日に日に大きくなっていき、狭い巣からはみ出しそうになり、時には巣の一部が欠けて下に落ちていることも。孵ってから3週間程で巣立ちを迎えます。
 ただ、巣立ちを迎えるまでにはいくつかの試練が待ち構えています。一番大きい試練はカラスでしょうか。カラスはツバメが巣作りをしている時から観察をしています。木の上、電柱の上、そして隣のマンションの上から。ツバメを追い掛け回す、巣を壊しにくる、巣を襲って卵や雛を巣から落としたり連れ去ったり。クリニックに平日朝通勤した時や、休日に仕事で来た時に何度も見付けました。雛の死骸を埋葬したことも何回かあります。直接見ていないので、人が居ない時にカラスがやって来るのだろうと思います。
 初めの数年間は2~3年に一度、運良く雛が巣立てば良い程度でした。どのような対策が可能なのか、初めは全く分かりませんでしたが、通勤する道すがら、ツバメの巣の前に緑色のネットを垂らしている所があるのを見付けました。多分カラスが巣に近寄ってきてもカラスの翼がネットに当たるため嫌がって接近できないのだと考えました。巣から60センチ位離れた所にポーチの天井から緑のネットを垂らしてみたところ、この4年間は毎年順調に4~5羽が問題なく巣立っています。ネットを奇麗にと修復することもあるのですが、雛が居る時には親鳥が鋭い警告の鳴き声を掛けたり、威嚇(いかく)するように私の周りを飛び回ったりします。ほほ笑ましいような、何となく残念なような複雑な気持ちになります。
 また、来年も戻ってきてくれることを願っています。ただ、ツバメは渡り鳥で越冬のため台湾、フィリピン、マレーシアやオーストラリアなどへ3000~5000キロメートルも移動(時速45~50キロ)して、また戻ってくることや、一夫一妻制で親鳥達(寿命は7年位)は前の年に作った巣の近くで待ち合わせすることなどを知って、毎年の産卵・子育てが奇跡のように思えて感動しています。
 コロナ禍に少しでもほっこりした話題が増えますように。そして皆さん頑張りましょう!

熊本県 森都医報 No.845より

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