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令和4年(2022年)11月20日(日) / 南から北から / 日医ニュース

ちはやふる

 数年前に「ちはやふる」という映画がありました。競技かるたを題材にした邦画ですが、この「ちはやふる」という言葉が気になり調べてみると、その意味とともに「ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 から紅に 水くくるとは」という歌が出てきました。
 何気なく読んだにもかかわらず、つい口に出てしまう程よどみなく心地良い響きの歌です。ご存じ小倉百人一首17番、在原業平朝臣(ありわらのなりひらあそん)の歌です。
 小倉百人一首は、飛鳥時代から鎌倉時代に掛けて活躍した百人の歌人の和歌を、藤原定家が選定し編纂(さん)されたとされています。高校時代に冬休みの課題として暗記された先生方もいらっしゃるかと思います。自分もこの課題が出されたのですが、生意気にも私は暗記する意味や意義が理解できず完全無視を決行。当然ながら休み明けの試験では散々な結果となり、呼び出され再試を受けた苦い思い出があります。
 今回、この歌をきっかけに、40年越しの反省を兼ねて小倉百人一首を読み直してみました。まず、たった31文字で自然の描写や人間の感情の動き等を表現し完結させてしまうことに驚きます。そのためにはいろいろな技法がありますが、よく知られているのが掛詞(かけことば)でしょう。これを使用することで、一つの歌が全く意味の違う二つの歌になってしまいます。これは日本語だからこそできるものでしょう。
 また99、100番は天皇親子の歌ですが、この二人は勢力を拡大しつつある鎌倉幕府に対し、天皇の権力復権をかけて反乱を起こします(承久の乱)。しかし争いに破れ流刑となります。そんな二人の歌は世の中を憂い、あるいは古き良き時代への懐古的な歌となっています。1、2番も同じ天皇の歌ですが、権力争いの少ない時代に作られた歌であり、その内容は穏やかで、先の2首とは対照的でもあります。歌は時代を反映する鏡とも言われますが、まさにそのとおりで、時代背景や人物像を知ってから読んでみると、更に違った面白さが出てきます。
 今、百人一首は日本文化を学ぶ教材として海外でも紹介されているそうです。巷では英文字英単語あるいは難解な略語が氾濫(はんらん)しており、それら無くして会話が成立しない時代であります。もう一度古典を見直し、美しい日本語に触れてみるのも良いのかも知れません。
 ちなみに、この文章も英文字英単語等無しで書いてみました。「かるた」は葡萄牙(ポルトガル)語が語源ではありますが、ほぼ国語化していますので、その辺はご容赦を。

(一部省略)

山梨県 山梨県医師会報 NO.613より

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