令和7年(2025年)5月20日(火) / 「日医君」だより / プレスリリース / 日医ニュース
医療機関の厳しい経営状況を踏まえ補助金と診療報酬の両面からの対応を改めて要望
松本吉郎会長
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松本吉郎会長は4月23日、記者会見を行い、医療機関の著しく逼迫(ひっぱく)した経営状況など医療をめぐる最近の情勢について説明。これらの状況を打開するため、補助金と診療報酬の両面からの対応を改めて強く求めた。 |
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松本会長はまず、4月14日に自由民主党社会保障制度調査会、16日には医療政策研究会、18日には「医療・介護・福祉の現場を守る緊急集会」が開催され、その後、石破茂内閣総理大臣に申し入れを行うなど、医療現場の窮状を訴える声が各所で上がっていることを強調。また、会見当日に開催された中医協総会において、医療機関を取り巻く状況についての議論が行われたことに触れ、長島公之常任理事が、「純粋に診療報酬を引き上げなければならない状況にある」と主張したことを紹介した(別記事参照)。
一方で、財務省ではいわゆる「春の建議」の取りまとめに向けた動きが始まっており、いわゆる「骨太の方針」の策定に向けた議論も既に各所で行われているとして、日本医師会の考え方を説明した。
医療機関の経営状況について
14日開催の自民党社会保障制度調査会で提出された、医療法人の経営状況に関する資料に言及。
同資料では、病院・診療所の令和4年度、5年度の法人単位の経常利益率、及び令和6年度の経常利益率を機械的に推計した結果が示されているが、特に「最頻値」では、病院・診療所いずれもマイナス圏内に落ち込む見通しとなったこと等を説明。「令和6年度診療報酬改定後に経営状況が著しく悪化している」との見方を示した。
更に、平均値や中央値も悪化していることを指摘した他、同様の形態である法律事務所、社会保険労務士事務所等と診療所の経常利益率を比べた場合、診療所が極めて低い状況にあることを説明。「病院だけでなく診療所の経営状況も厳しい状況にある」とした上で、改めて賃金上昇と物価高騰、更には日進月歩する医療の技術革新へ対応するためには十分な原資が必要であるとして、経済成長の果実を活用するなど、補助金や診療報酬両面による機動的な対応を求めるとともに、著しく逼迫した経営状況を鑑みれば令和8年度診療報酬改定の前に、期中改定も必要な状況にあるとした。
「公助」「共助」「自助」への考え方
更に松本会長は、これまで日本医師会が、医療財源は「税金による公助」「保険料による共助」「患者の自己負担による自助」の三つのバランスを取りながら進め、自己負担のみを上げないこと、併せて、低所得者への配慮が重要であると主張してきたことを紹介。
「公助」については、昨今、税収が増加していることから、税収増加分を社会保障関連、特に医療へ更に投入することが、適切な医療を提供する上で欠かせないとの見方を示した。
「共助」については、他産業では賃上げが行われており、現行の保険料水準のままでも税収が増加していると指摘。「医療保険財政を守るためにも、政府の求める賃上げをしっかりと進めていくことは極めて重要」と述べるとともに、こうした公助、共助の経済成長の果実を、医療を始めとする社会保障に活用し、経済を更に好循環させていく必要があるとした。
「自助」については、丁寧な議論を重ねることを前提とした上で、今後、応能負担が求められる可能性があるとした。
令和8年度診療報酬改定に向けた3点の要望
令和8年度診療報酬改定に向けては、改めて(1)「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安対応の廃止、(2)賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入、(3)小児医療・周産期体制の強力な方策の検討―の3点を要望していくことを表明した。
(1)では、現在の逼迫した状況を鑑みると、「骨太の方針2024」に記載された「経済・物価動向等に配慮しながら」という文言では不十分であると指摘。更に強めた文言にするとともに、財政フレームを見直し、別次元の対応とすることが必要とした。
(2)では、医療・介護業界でも他産業並みの賃上げができるよう、賃金・物価の上昇を踏まえた仕組みを導入していく必要があるとした上で、「現状ではこれ以上の賃上げは到底不可能であり、このままでは人手不足に拍車が掛かって、患者に適切な医療を提供できなくなる」と述べた。
(3)では、出生数に好転の兆しは見えておらず、著しい人口減少により対象者が激減していることを説明。小児医療・周産期体制については、救急医療を中心に単純に集約すればいいという考え方ではなく、全国津々浦々で対応するための強力な方策を構築する必要があるとした。
「OECD諸国における社会保障支出と国民負担率の関係」について
松本会長はその他、4月9日開催の財政審財政制度分科会に提出された資料「財政総論」において、「OECD諸国における社会保障支出と国民負担率の関係」が示されたことにも言及。財政審が、日本は諸外国と比べて、給付と負担のバランスが不均衡の状態に陥っており、制度の持続可能性を確保するための改革が急務であると主張していることに対し、当該資料は、10年前(2015年)の消費税率引き上げ前のデータを用いるなど、恣意(しい)的なものであると批判。
その上で、この10年間で、消費税率引き上げによる国民負担の引き上げを始め、医療においてもさまざまな適正化と称した改革がなされた結果、直近の2022年のデータでは、高齢化率が高いにもかかわらずOECD諸国並みとなっており、日本の社会保障の給付と負担のバランスは改善されていると説明。「こうした現状も見ずに、あたかも社会保障支出の膨張によって給付と負担のバランスが悪化し続けているかのように主張するのは、もはや卑劣であると言わざるを得ない。医療費削減ありきで議論を進める姿勢は改めるべき」と強く主張した。
松本会長は最後に、財政健全化の立場から小さなリスクは自助とすべきとする主張が一部にあることに対して、日本医師会は反対の立場であることを表明。「大きなリスクは小さなリスクから生まれるものであり、両者を線引きすることは不可能」とするとともに、国民生活を支える基盤として、「必要かつ適切な医療は保険診療により確保する」という国民皆保険制度の理念を今後とも堅持し、給付範囲を縮小すべきではないとした。
関連資料
問い合わせ先
日本医師会総合医療政策課 TEL:03-3946-2121(代)