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令和7年(2025年)7月20日(日) / 日医ニュース

次期診療報酬改定に向け、医療提供体制等の現状と課題を踏まえて議論

長島常任理事長島常任理事

長島常任理事長島常任理事

 中医協総会が6月25日、都内で開催され、令和8年度診療報酬改定に向けて、当日示された医療提供体制等の現状と課題を踏まえた議論が行われた。
 4月に入り、次回改定に向けた議論が開始された際に、厚生労働省事務局から「次期診療報酬改定に向けた本格的な審議を始める前に、医療全体として取り上げるべきことがある」として、医療を取り巻く状況や医療提供体制・地域医療構想について議論すべきとの提案がなされた。
 今回はこの提案を受けて、4月23日に審議された医療機関を取り巻く状況(別記事参照)に引き続く議論となった。
 当日は、厚労省事務局より、医療提供体制全体とし、(1)人口動態・医療需要の動向、(2)医療提供施設の状況、(3)医療従事者の状況、(4)医療提供体制に関する取組について説明が行われ、(5)現状と課題では、診療報酬改定の方向性に関して、「患者の高齢化への対応」「生産年齢人口の減少」「急性期機能の維持・確保」「特に医療資源が少ない地方部の課題」の各観点から、どのように考えるかといった課題が提示された。

厳しい経営環境の改善のためには診療報酬と補助金での対応が必要―長島常任理事

 議論の中で、長島公之常任理事はまず、医療人材確保の問題に触れ、新たな地域医療構想など、これからの医療提供体制を考える上で、医療人材の確保が不可欠であり、働き方改革と相まって、労働環境の改善も必要である他、処遇改善が大変重要な要素になると主張。看護職員・看護補助者数が年々減少に転じ、地域差も大きい上、看護職養成校の定員充足率も深刻な減少傾向にある一方、リハビリ・栄養・口腔等の従事者は増加傾向にあることにも触れ、「看護職員の仕事のうち、これらの従事者がタスクシェアできる業務については分担するなどの工夫が必要になる」とした。
 更に、診療所数は微増から横ばい傾向だが、人口の少ない医療圏では減少傾向にある上、診療所の医師は高齢化していることを踏まえれば、「各地域で尽力されている先生方が引き続きその地域で頑張って頂けるようにすることに加え、若い医師が経営面でも安心して承継できるようにすることが重要になる」と述べた。
 また、地域で入院機能とかかりつけ医機能を併せ持つ有床診療所の存在の重要性を強調。その減少が深刻であることに留意すべきとした。
 その他、薬局の薬剤師数が需要より増加している一方で、病院薬剤師の確保は喫緊の課題となっているとして、薬剤師を薬局から病院へシフトすることが必須とした他、訪問看護は営利法人が増え、件数も急増していることから、3月12日の中医協の議論を踏まえ、適切な報酬のあり方を議論することが必要とした。
 更に、診療報酬は厳しい経営環境にある医療機関に対して、非常に強い誘導になるため、地域で丁寧に進めてきた協議を阻害してしまう可能性があることに触れ、「診療報酬という全国共通の視点に立つことも重要だが、地域で関係者が協議して、地域の実情に応じて考え出された方策を補助金等で支える方が適切な場合もある」と指摘。
 例えば地域の医療機能の集約化について、「地域医療構想によって進む場合もあるが、集約化自体が目的ではなく、将来の医療ニーズと医療資源等を踏まえて検討した結果として導き出されるものであり、中医協でも、その視点で議論する必要がある」とした。
 その上で、現在の医療提供体制は全国画一的に形づくられたものではなく、関係者の懸命な努力により、地域の医療資源や高齢化などの実情を踏まえたバランスの上に成り立っていることを強調。「一部だけを見て、現状を無視した見直しを行うのではなく、全体のバランスを取りながら慎重に対応しなければ、国民の生命・健康を危険にさらすことになる」と指摘した。

地域医療構想を進めるための最優先事項は診療報酬の確保―江澤常任理事

250720b2.jpg 江澤和彦常任理事は、「新たな地域医療構想は、外来、在宅、介護との連携、人材確保などを含めた、地域の医療提供体制全体の課題解決を図るものとなるので、かかりつけ医を始めとしたそれぞれの連携がこれまで以上に上回る仕組みが必要である」とした他、「治す医療」を担う医療機関と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担と連携がますます重要になると指摘。
 更に、医療機関は過去に経験のない経営危機に陥っており、病院や診療所の経営破綻(はたん)の件数は過去にないペースで増加していることに触れ、「そもそも、医療機関が無くなれば医療提供体制は崩壊するため、病院や診療所が健全な経営ができる診療報酬を確保することが、地域医療構想を推進するための一丁目一番地であり、最優先事項である」と主張した。

全国で安心・安全に分娩できる体制の確保を―茂松副会長

250720b3.jpg 茂松茂人副会長は、小児・周産期医療について、全国津々浦々どこでも安心・安全に分娩できる体制が必要だとした他、医療従事者の確保のために、民間の人材紹介派遣会社に多額の費用が支払われている問題への対応についても考慮すべきとした。
 また、支払側との議論の最後に改めて発言した長島常任理事は、「医療を提供するためには地域に医療機関が絶対に必要だが、今現在、地域から医療機関が無くなりかねない程に極めて危機的な経営状況にある」として、医療機関が置かれている厳しい現状への理解を強く求めた。
 中医協では今回の議論を踏まえ、夏からは次回改定に向け、外来・入院等の1回目の審議が行われる予定となっている。

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