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令和7年(2025年)8月5日(火) / 南から北から / 日医ニュース

ビールは1杯目がおいしい

 この2月に、広島の某有名ホテルで地区の会合があり、当然のように「とりあえず生ビール」から始まりました。みんなが一口ずつ飲むと、向かいの先生が「ここのビールは、やっぱり違いますねー」。なるほどスッキリしておいしい。そして二口目を口にすると、んッ、お互い一口目よりも苦味を感じたようです。「何でですかねー?」。続けて三口目を飲んでみると、おやおやもっと苦くなりました。
 ここで自分なりに考えてみました。思い付いたのは、苦味が強くなるのではなく、苦味以外の味覚が鈍くなりやすいためではないか、という「苦味際立ち」説です。飲み始めに連続して飲むのが条件です。調べると、苦味は自然界の有害物質を感知する毒味役を担っていることが分かりました。酸味の方は腐敗したものを教えてくれます。甘味・塩味・旨味などは身体に有用だから、あまり警告の必要は無さそうです。甘味と旨味の受容体は各1種類だけですが、苦味受容体は25種類もあります。つまり苦味は慣れを嫌う、より精密な味覚であるとともに、研究の余地も大きく残す領域であることを予想させます。ちなみに、歳を取るといろんな味覚が程良くマイルドとなり、最近はピーマンの苦味がますます好きになりました。
 それはそうと、昔覚えた味覚地図が現在全く否定されていることを今回初めて知りました。舌上にある味蕾(みらい)には、上記五味全てを感知できる味細胞が集まっています。味蕾の分布は不均一ですが、数は1万個近くもあります。道理で、一番感度の高いと言われる舌先だけで味見が成り立つはずです。
 もう一つ、ビールのおいしさを決める「のど越し」問題があります。実は味蕾の15パーセントが、口やのどの奥にもあります。のども舌の延長とも見なせますが、ただのどのビール通過速度が口の中とは大きく違い、このスピードと炭酸の力がのど越しの爽快感を生むのかも、と考えました。
 世の中には、ビールだけを延々と飲み続けるビール党の方も大勢おられます。この党員も恐らく、一口目は最高だとは思います。が、ツマミや食事などが舌をリセットしたり、酔いが全感覚をマヒさせたりすると苦味が和らぎ飽きないのでしょうか。のどの通過量を加減して爽快感を保つのでしょうか。そもそも苦味自体が好きなのでしょうか。
 私も長年、晩酌にビールを飲んでおります。350か500ミリリットルのビン・缶です。1~2年前に、なぜビールを好むのかと考え、結局は一口目のおいしさを求めているだけなのかなと思い至りました。缶のサイズには、150や250ミリリットルもあるので量を落としてみました。結果、「150ミリリットル缶一気飲み」でも結構満足している自分を発見しました。少なくとも冬場は。満足すればその晩のビールは終了となり、次の種目に移れます。
 下手な理屈はともかく、ビールはやはりチビチビではなく、特に最初は味わう暇が無いくらい一気に流し込むべきものだと改めて思いました。先日テレビで「ビールは1杯目がおいしい」と堂々と宣伝しておりました。営業的にはどうかとも思いましたが、ひょっとして誰もが認める1杯目のおいしさを狙ってビール造りをしているのかも知れません。

(一部省略)

広島県 広島県医師会速報 第2621号より

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