令和7年(2025年)9月5日(金) / 日医ニュース
医療に係る消費税の見直し、事業税特例措置の存続、医師不足地域における税制措置の創設などを要望
「令和8年度 医療に関する税制要望」まとまる
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日本医師会はこのほど、「令和8年度 医療に関する税制要望」を取りまとめ、8月19日に開催された第5回理事会において、担当の宮川政昭常任理事から報告した。
本要望は会内の医業税制検討委員会での検討を経て、執行部で取りまとめたものであり、「1.社会保険診療等に係る消費税制度の見直し」「2.医業承継時の相続・贈与に関する税制措置」「3.医療機関に対する事業税特例措置の存続」「4.働き方改革・医師偏在対策を支援するための税制措置」「5.医療DXに関する設備投資を支援するための税制措置」「6.医療提供体制の強靭化を支援するための税制措置」―の6項目からなっている。
「1.社会保険診療等に係る消費税制度の見直し」では、懸案の控除対象外消費税問題について、現状で診療所と病院が合意できる税制上の解決方法として、昨年と同様、「社会保険診療等に係る消費税について、診療所においては非課税のまま診療報酬上の補てんを継続しつつ、病院においては軽減税率による課税取引に改めること」を要望。
ただし、今回の要望には「高額な投資の際のキャッシュフローの悪化は喫緊の課題であり、上記の措置を講じるまでの間、高額な投資に対応する何らかの手当てを別途検討することも必要」との文言を追記している。
「2.医業承継時の相続・贈与に関する税制措置」に関しては、特に(3)として、認定医療法人制度に係る税制措置が令和8年12月末に期限を迎えることから、その延長並びに拡充を要望。その他、(1)では「持分のある医療法人」は制度上の永続性が保証されないのであれば、それに応じて持分の評価を引き下げることを、(2)では、持分のない基金拠出型医療法人への移行に係る税についての特例措置の創設を、(4)では出資額限度法人の持分の相続税評価を出資額のみとすることを、それぞれ求めている。
「3.医療機関に対する事業税特例措置の存続」では、「社会保険診療報酬に係る事業税非課税措置」「医療法人の社会保険診療報酬以外の部分に係る事業税軽減措置」の2点について、その存続を強く求めるものとなっている。
「4.働き方改革・医師偏在対策を支援するための税制措置」ではまず、(1)において、勤務時間短縮用設備等の特別償却制度について言及。本制度を適用するためには、設備等を購入する前に医療勤務環境改善支援センターに計画書を提出し確認を受けることが要件とされ、タイムリーに機器を導入した医療機関が本制度を適用できず、結果として本制度の利用実績が低迷していることから、計画書の提出を設備の取得後でも可能とすることが特に重要との考えの下に、制度の拡充を求めている。
また、(3)では、新規項目として、医師が不足する地域における医療従事者への所得税の軽減、また、そのような地域で承継・開業する診療所への登録免許税、不動産取得税、固定資産税の軽減措置の創設を要望。その他、(2)では中小企業の設備投資に関する固定資産税の特例措置の対象に医療法人等も加えること、(4)では賃上げ促進税制に関する要望を、昨年同様に求めている。
「5.医療DXに関する設備投資を支援するための税制措置」に関しては、医療DXへの対応のための設備投資、すなわち器具備品やソフトウェアについて、即時償却または税額控除及び一定期間の固定資産税の軽減措置を創設することを求めている。
「6.医療提供体制の強靭化を支援するための税制措置」では、(1)において、防災並びに感染症対策に資する設備投資への税制措置(特別償却、税額控除等)を、(2)では、地域医療構想実現に向けた再編計画に基づいて取得した土地・建物に係る登録免許税・不動産取得税の軽減措置の延長を、それぞれ要望。
また、(6)では、この税制がなければ地域で医業を続けられない診療所を守るため、引き続き、社会保険診療報酬の所得計算の特例措置の存続を強く求めている。
その他、(8)は訪日外国人の増加を踏まえた要望となっている。社会医療法人や認定医療法人などの税制優遇の対象となっている法人では、訪日外国人を含む自費患者に対しても社会保険診療報酬と同一の基準で請求すること等の要件が課されている。そのため、こうした法人が訪日外国人に適切に対応することができるよう、訪日外国人患者の診療に係る社会医療法人等の非課税要件の見直しを求めている。
今後は本要望実現のため、年末の与党税制改正大綱の決定に向けて、政府・与党を始め、関係各方面に働き掛けを行っていくことにしている。
令和8年度 医療に関する税制要望
令和7年8月
公益社団法人 日本医師会
1. 社会保険診療等に係る消費税制度の見直し
社会保険診療等に係る消費税について、診療所においては非課税のまま診療報酬上の補てんを継続しつつ、病院においては軽減税率による課税取引に改めること
―消費税―
2. 医業承継時の相続・贈与に関する税制措置
(1)医療法人の出資の評価方法の改善
(2)基金拠出型医療法人における負担軽減措置の創設等
(3)認定医療法人制度に係る税制措置の延長・拡充
(4)出資額限度法人の持分の相続税・贈与税課税の改善
―相続税・贈与税・所得税―
3. 医療機関に対する事業税特例措置の存続
(1)社会保険診療報酬に係る事業税非課税措置の存続
(2)医療法人の社会保険診療報酬以外の部分に係る事業税軽減措置について地域医療の確保を図る趣旨に沿って存続
―事業税―
4. 働き方改革・医師偏在対策を支援するための税制措置
(1)勤務時間短縮用設備等の特別償却制度について、医師等勤務時間短縮計画の事後承認化、税額控除の導入、特別償却率の引き上げの措置を講ずること
(2)生産性向上や賃上げに資する中小企業の設備投資に関する固定資産税の特例措置について医療法人等の非営利法人を適用対象に加えること
(3)医師が不足する地域(重点医師偏在対策支援区域等を含む)の医療機関及び医療従事者に関する税制措置の創設
(4)賃上げ促進税制における税額控除上限の引き上げ
―所得税・法人税・登録免許税・固定資産税・不動産取得税―
5. 医療DXに関する設備投資を支援するための税制措置
医療機関における医療DXへの対応に資する設備投資等に関する税制措置の創設
(1)即時償却又は税額控除(10%)を選択適用できる措置
(2)一定期間の固定資産税の軽減措置
―所得税・法人税・固定資産税―
6. 医療提供体制の強靭化を支援するための税制措置
(1)医療機関における防災並びに感染症対策に資する建物、設備等に係る税制上の特例措置の創設
(2)地域医療構想実現に向けた再編計画に係る税制措置の延長
(3)高額の医療用機器の特別償却制度について、適用対象となる取得価額を160万円に引き下げ、即時償却又は税額控除(10%)を選択適用できる措置を講ずること
(4)地域医療構想に適合する病院用建物等の特別償却制度について、税額控除の導入、特別償却率の引き上げの措置を講ずること
(5)病院・診療所用建物の耐用年数の短縮
(6)社会保険診療報酬の所得計算の特例措置の存続
(7)消費税インボイス制度における免税事業者等からの仕入に係る経過措置の延長
(8)訪日外国人患者の診療に係る社会医療法人等の非課税要件の見直し
―所得税・法人税・相続税・贈与税・消費税・登録免許税・固定資産税・不動産取得税―