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令和7年(2025年)9月20日(土) / 日医ニュース

昭和の教師

 中高時代を過ごした場所に出張する機会があり、当時教えを受けた先生をランチに誘った。
 先生の授業は情熱的で面白かった。この先生のおかげで医者になれたといっても過言ではない。武闘派で酒好き、やんちゃして怒られ殴られるとかなり痛かった。
 色々と想いを巡らせながら待ち合わせ場所のバスターミナルに向かった。卒業後初めての再会。多くの人が行き交う中で先生を認識できるのか不安だった。
 時間ぴったりに正面からそれらしき人が登場。経年劣化は否めないが、話してみると声質や話し方は昔のまま。一瞬で学生時代にタイムリープした。早速、先生お気に入りのチャンポン屋へ。その店のうんちくを聞き、当時の学生名簿を見ながら昔話。食後は近くの喫茶店に移動し、ケーキセットと共に話は止まらない。
 実は、酒癖をこじらせて私の卒業後に酔って乱闘騒ぎを起こし、定年前に退職したと聞いていた。退職後はお遍路回りを経て、年に数回、良酒を少量じっくり味わうことにしたらしい。その後は孔子の『論語』を完読し、今は聖書を読んでいると熱く語られた。手提げ袋から取り出した何冊かの本には付箋(ふせん)がついており、ページを開くとマーカーが引いてあり、「読んでみろ」と言う。「人生で本当に役に立つ言葉だ。論語も絶対読んだ方が良いぞ」と、2、3時間の無料特別講義を受けた。
 気が付くと、こんな風に人から教えられ、怒られる機会が無い年齢になった。昔と変わらず、教え子に正面から向き合ってくれる恩師との至福の時間だった。いつまでもお元気で。

(巌)

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