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令和8年(2026年)8月5日(水) / 南から北から / 日医ニュース

七夕に想う

 この寄稿が出る頃には終わっているが、7月7日は七夕の日である。函館では、この日、子ども達がお菓子をもらいに夕方頃から街に出る。ササ飾りを飾っている家の前で「たけーにたんざくたなばたまつり、おおいにいわおう、ろうそくいっぽんちょうだいな」と歌ってお菓子をもらうのだ。私は、この行事が嫌いだ。
 私が子どもの頃は、この行事は大好きだった。七夕の夜、友人達と集まって、火を灯した提灯、あるいは空き缶で自作したカンテラを持って、家々を回る。「たけーにたんざくたなばたまつり、おーいやいやよ、ローソクいっぽんちょうだいな」と歌うと、家人が出てきて蝋燭(ろうそく)をくれるのだ。本当に蝋燭をくれるのだ。いっぽんと言うけど1本ということはなく2~3本、時には5本くれたりする。ありがとう、と言って隣の家に向かう。2~3回くらい歌っても戸が開かなければ隣に移動する。蝋燭もらって何がうれしいのか。当時は家々に仏壇があって、毎日灯明をあげてたような家では蝋燭は必需品だったと思われるが、うちはキリシタンで、仏壇用の蝋燭の需要はなく蝋燭を集める必要はなかった。それでも、夜に子ども達だけで行動し、それも火を持って(提灯だが)、そして人様から蝋燭と言えどもものを頂く、そのことがうれしくて楽しくて1年が待ち遠しい行事だったのだ。
 それがなんだ、今は。親が付いてて、ササ飾りを飾っている家の前だけで歌う。手には提灯なんか持たず収穫を入れる大きな袋。ササ飾りを飾っていない家では歌わない、歌えば必ずお菓子がもらえる成功が約束された行動。服装はなるべく男の子は甚平、女の子は浴衣で、歌はちゃんと歌いましょうと学校で指導される、とのこと。おまけにあそこの地域は実入りが良いから、といった情報をSNSで仕入れて、遠方の地区に車で子どもを連れていく親もいる。まるでほいど(死語)ではないか。私は、7月6日の夜に雨乞いの踊りを舞うくらい、この行事が嫌いだ。
 昨年の6月、妻から7月7日にお菓子配りをする、という宣言があった。妻の目に、反論許すまじ、の光を感じ取ったので、不本意ながらも参加することとなった。やるからには形から入るのが基本。ササ飾りは、本物のササを秘密の場所から切り出して用意し、折り紙を折って、切って、貼っていろいろ作る。短冊にも願い事を書く、「診療報酬が上がりますように」。どこの神様でもよいからかなえてほしい。お菓子は何をどのくらい用意すれば良いのかな。何せ初めての参加だから、皆目見当がつかない。お菓子は妻に任せる。蝋燭も用意したいが却下された。子ども達が浴衣で来るのならばこちらも負けてられない。勝ち負けではないのだが、勢いをつけないと参加するマインドが高まらない。この時期になると上磯イオンに大人用の浴衣も売り出されるので、それを購入し当日に備えた。
 当日はよく晴れた。私も浴衣に袖を通し、角帯を締める。出来合いの貝ノ口をマジックテープで留める、なんてことはしない。博多帯を片ばさみで締める。気分は吉右衛門の鬼平だが、着ている浴衣がまるで演歌歌手のような派手なものだったので、ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。自慢の帯の結び目は、正面視では見せられない。それでも、外に出て子ども達を待った。
 いざ、参加してみると、子ども達は来てくれるのかどうか心配になる。来てくれなかったら大量のお菓子はどう処理すればよいのか、全て私が処理すれば、血糖値は大変なことになってしまう、などと考えていると、遠くからこちらのササ飾りを見て、走ってくる子ども達、「たけーにたんざくたなばたまつり、おおいにいわおう、ろうそくいっぽんちょうだいな」、子ども達の目はほんとうに輝いている。その子の持っている袋にお菓子を入れると、「ありがとう」と礼をして去っていく。あなたたちは50年前の私だ。私もきっと、同じ目をしていたのだ。頂くものが蝋燭かお菓子か、なんてことはどうでもよいことで、大人達は、このキラキラ輝いている子ども達の目を見て、エネルギーをもらうのだ。私もうれしい気持ちになる。かなり恥ずかしい浴衣を着ているのだが、一人の男の子が「浴衣、かっけえ」と言ってくれて、全てが報われた気分になった。大人だって褒められるとうれしい。
 用意したお菓子はあっという間に無くなった。もう一つうれしいことは、お向かいの家の人が、われらを見て、来年は自分達も参加しよう、と言ってくれたこと。そう、みんなで参加したほうが盛り上がるに決まっている。ただ、来年は、浴衣はやめようと思う。というのも、わが家の前の道路を通る車の運転手が、私を2度見するのだ。おそらく、大人が浴衣を着ているのを1度見、かなり派手な浴衣だったので2度見、なのだな。その時は確実に脇見運転になるので、危険なことこの上なし。子ども達がいっぱい街に出ているので、危険なことは極力しない方がよい。私の七夕での浴衣参加は一度限りで終わったが、今年も晴れますように。お菓子は昨年の倍くらいの用意で間に合うかな。

北海道 北海道医報 第1283号より

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