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平成28年(2016年)6月20日(月) / 南から北から / 日医ニュース

小児科医とおむつ

 先日、あるラジオ番組から「おむつはずし」について専門家の立場から、うまい方法などアドバイスをして欲しいと依頼された。小児科医は、おむつについても専門家なんだと、今更ながらいろいろ考えた。
 研修医の頃、大学病院での初期研修を終えて地方病院に出る時に、先輩から『育児相談』という薄い新書版を頂いた。学生の頃の小児科学の系統講義には「育児相談」の項目はないが、小児科医の業務には、予防接種、乳幼児健診があり、そういった場で子育てに関するさまざまなことを聞かれることがある。そんな時に役立つだろうという配慮だった。
 あれから30数余年、開業したこともあるが、「子育て」に関して小児科医が"専門家"として期待される度合いは増えていると実感している。
 私が中学生の頃、同居していた兄夫婦に子どもが生まれ、私もおむつ交換をしたことがあった。かつて、多くの人が同じ家に寄り添い、町に子どもたちがあふれていた頃、子育てを横目で眺めながら親になっていくことができた。今は、親になると決まった時に、赤ちゃんを触ったことさえないことに気付く。育児雑誌は少子化にもかかわらず発行部数を増やし、インターネットやメディアでも子育てに関する情報があふれている。でも、それぞれが異なった情報を載せていることもあり、ますます親は不安になる。
 『たまごクラブ』『ひよこクラブ』という子育て雑誌の編集長をしていた方を新潟にお呼びしてシンポジウムを開催した際、子育てに関する情報取得の現状を知るために、雑誌を介してアンケートを取った。
 その結果を5年前と比較すると、意外なことにインターネットからの情報取得は減り、「身近な人に聞く」という回答が増えていた。その理由はいろいろ解釈できるだろうが、やはり、ネット情報の確実性が確認できず、それなら、経験者に聞いた方が現実的と思われたのではないだろうか。その延長線上に専門家としての小児科医が必要になってくるのかも知れない。
 昔、某大学で「育児学」という講座を担当していたことがあった。その時に実感したのは、「育児」は科学としては成立しないということだった。先天性股関節脱臼の原因とも考えられる巻おむつは、日本では既に行われていないのに、インドではいまだに一般的であったり、昔、バイブルとして読まれていた育児書には、母乳より人工乳、自律哺乳より時間を計測した授乳がベストと書かれていたりで、時代と場所が異なれば、基準も変わるというのが育児のようである。でも、それがその時代でやりやすいのであれば、否定できないとも思う。
 しかし、学校教育の中で、「正解を求める」ことで評価されることに慣れていると、育児も正解を求めるようになる。その結果として専門家の登場となるような気がする。
 冒頭の番組では、「おむつははずすのではなく、はずれていくもの。大切なのは、子どもに寄り添い、その変化に気付き、うまくいった時の喜びを共感できること」を伝えた。医学とはほど遠い視点になってしまった。(一部省略)

新潟県 新潟市医師会報 No.531より

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