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平成29年(2017年)3月5日(日) / 日医ニュース

「社会保障と経済の好循環~医療保障を中心に~」をテーマに開催

「社会保障と経済の好循環~医療保障を中心に~」をテーマに開催

「社会保障と経済の好循環~医療保障を中心に~」をテーマに開催

 平成28年度医療政策シンポジウムが2月8日、「社会保障と経済の好循環~医療保障を中心に~」をテーマとして日医会館大講堂で開催された。
 当日は、中川俊男副会長の司会で開会。
 冒頭あいさつした横倉義武会長は、「平成30年度の診療報酬・介護報酬同時改定に向けた予算編成が本年末に行われるが、社会保障費の財源不足により、地域で必要かつ十分な医療・介護が受けられなくなれば、最も不利益を被るのは国民である」と指摘。「国民が安心して医療や介護を受けられるよう、必要な財源はしっかり確保しなければならない」との考えを示した。

講演1「日本医師会の医療政策」

横倉会長

 続いて講演に入り、横倉会長は、国民医療費の財源構成である①公助(公費)②共助(保険料)③自助(患者負担)―のうち、②の保険料率に大きな格差があることを問題視。国際情勢等が不透明な状況で、国民の不安が高まる時こそ、社会保障を充実することで、将来の安心が社会を安定させ、経済成長にもつながっていくとした。
 特に、医療への財源投入は、医療従事者の比率が比較的高い地方では経済成長を促し、多大な貢献につながると指摘。また、未曾有(みぞう)の少子高齢社会が進展し人口が減少していく中で、国民皆保険を堅持していくためには、財政主導ではなく、医療側から過不足のない医療が提供できるような仕組みを提言し、時代に即した改革を進めていかなければならないと強調した。
 その上で、横倉会長は、「健康寿命を延伸し、高齢者が『社会から支えられる側』から『社会を支える側』になれるよう、『日本医師会綱領』を旗印として掲げ、国民の健康と国民医療を守る主張を続けることで、真に国民に求められる医療提供体制の実現に努めていく」と結んだ。

講演2「2000年代以降の 医療政策と経済」

遠藤 久夫 学習院大学経済学部教授

 遠藤氏は、まず、「医療制度が経済活動に及ぼす影響として、①需要拡大②雇用創出―があるが、現行の費用負担のあり方には問題があると考えている」とした。
 2000年代以降の医療政策と経済については、「後期高齢者医療費の特性」「医療費、国民所得伸び率、改定率」「国民医療費や保険料率の推移」等のデータを示し概説。
 医療費の人口要因を除いたその他の要因による伸びについては、「調剤、特に薬剤料の影響が大きいこと」「医療提供体制では、外来シフトが進み病床数は減少、平均在院日数は短縮していること」「一方で、訪問診療を受ける患者は大幅に増加しているものの、それを行う医療機関数は最近あまり増えていないこと」などを指摘した。
 更に、「予防・健康づくりに係る指標」等の見える化により保険者種別ごとの具体的な制度設計等を検討していくべきであるとするとともに、2000年から2014年の都道府県別の年齢階層別医師増加倍率を基に、医療提供における「地域格差」についても言及した。

講演3「医療費と経済」

印南 一路 慶應義塾大学総合政策学部教授

 印南氏は、(1)経済、医療費、医療政策、(2)社会保障の成長足かせ論と下支え論、(3)派生する議論―について説明した。
 (1)では、医療費の問題は、高度経済成長期には「個別保険財政の問題」、安定成長期には「経済成長の問題」、低成長期には「財政赤字の問題」となり、医療費をめぐる政策環境は一段と厳しくなっているとした。
 また、(2)では、社会保障全般について「成長足かせ論」と「成長下支え論」があるが、アカデミックには決定的な結論は出ていないとした。
 その上で、(3)では、経済学者は基本的に「功利主義」であるが、医療提供者は「功利主義」一辺倒の議論にのらず「社会正義」の議論をすべきではないかと説いた。
 更に、個人的見解として、医療では「自律の原理(医師が介在して個人が意思決定する)」が最も重要で、生命保障の原理の「救命医療」は国家の責任として公助の考えの下に行われるべきであると指摘。また、共生の原理の「自立医療」には経済や社会情勢との間でバランスをとるクッションの機能があっても良いのではないかとの考えを述べた。

パネルディスカッション「社会保障と経済の好循環 ~医療保障を中心に~」

 その後、中川副会長、石川広己常任理事が座長を務め、3名の演者に新浪剛史サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長が加わった4名によるパネルディスカッションが行われた。
 初めに新浪氏は、民間議員として参画している経済財政諮問会議について、財政ではなく、経済を良くするためのものであり、自身が会長を務める経済・財政一体改革推進委員会では、データを基にどのような政策が効果的に実行されているのかを明らかにすることで、政策にマッチした予算の使われ方がされているかの把握に努めていると説明。
 健康長寿の好事例として、広島県呉市が地元医師会と共に取り組んだ「糖尿病性腎症等重症化予防事業」を挙げ、患者のQOLが上がっただけでなく、結果的に社会の生産性もアップしたことを紹介した。
 議論の中では、「見える化による平準化には、現場の混乱が起きないような配慮や住民の意識改革も必要」(横倉会長)、「医療費支出の内容が適正かはチェックが必要であり、負担の合理性も議論すべき」(遠藤氏)、「後期高齢者医療に公費負担を高めているが、ある意味、年齢による差別であり合理性はない」(印南氏)、「終末期医療(家族を含めたQOL)についての議論もきちんとして欲しい」(新浪氏)、「効果の研究を進めていくことは重要だが、データが全てを明らかにするものではない。医療費の地域格差等、バランスを取りながら検討することが求められる」(遠藤氏)など、広範囲にわたり活発な意見交換が行われた。
 最後に、中川副会長が、「持続可能な社会保障を守るためには経済をよくする、そのためには個人消費をよくする、そのためには社会保障不安の解消が必要との認識で全員が一致した。更に、単年度で結論を求めず、複数年度で検証することや医療費の地域格差など、数々の論点が明らかになったので、今後議論を続けていきたい」と総括し、シンポジウムは盛会裏に終了となった。
 参加者は、23道県医師会のテレビ会議システムでの視聴者を含めて、昨年の倍以上の合計425名であった。
 なお、本シンポジウムの記録集は、本年6月頃を目途に日医ホームページ、日医Libにて公表する予定となっている。

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