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平成31年(2019年)3月20日(水) / 日医ニュース

「成育医療の現代的課題と対策」をテーマに

「成育医療の現代的課題と対策」をテーマに

「成育医療の現代的課題と対策」をテーマに

 平成30年度母子保健講習会が2月17日、日医会館大講堂で開催された。
 平川俊夫常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長(中川俊男副会長代読)は、政府の少子化対策を説明した上で、日医が、日本小児科医会、日本産婦人科医会と共に提唱してきた「成育基本法」が昨年12月に成立したことを改めて報告。「社会全体による妊娠期からの切れ目のない支援が謳(うた)われている本法は、未来を担う子ども達が安心して健やかに成長できる環境づくりを一層進めるものである」として、今後も実効性のある施策の実現に向け、積極的に政策提言を行っていくとの姿勢を示した。

成育基本法施行後の実施状況を注視―自見議員

 続いて、自見はなこ参議院議員が、「子ども政策の今日的課題~成育基本法の成立と今後について~」と題して講演を行った。
 昨年12月8日の参議院本会議において全会一致で可決成立した成育基本法については、超党派の「成育医療等基本法成立に向けた議員連盟」を設立して丁寧な議論を積み重ね、与野党議員の協力を得て、難しい国会情勢の中、ようやく成立にこぎつけたものであるとして、その経緯を概説。
 今後、法律施行までの1年間に、厚生労働省に設けられる「成育医療等協議会」において「成育医療等基本方針」を取りまとめ、閣議決定の後、都道府県の医療計画や障害福祉計画に落とし込まれていくことになるとし、基本方針の項目立てに当たっては医師会が要となって意見を集約すべきであるとした。
 また、「本基本方針の見直しは6年ごとだが、政府は毎年、その進捗状況を公表しなければならないことになっており、都道府県でも評価・公表が努力義務とされている」として、「施行後も各地で行政の実施状況を注視して欲しい」と述べた。
 この他、今後の自身の活動については、CDR(子どもの死因究明)の体制整備や、「児童の養護と明るい未来を考える議員連盟」における虐待防止、予防接種法の改正、赤ちゃん防災プロジェクト(液体ミルクの普及等)などに取り組んでいくとした。
 引き続き、「成育医療の現代的課題と対策」(座長:福田稠熊本県医師会長/日医母子保健検討委員会副委員長)をテーマに講演4題が行われた。
 「産婦人科領域における諸課題」と題して講演した石渡勇日本産婦人科医会副会長/日医母子保健検討委員会委員は、児童相談所における虐待相談対応件数が急増しているデータを示した上で、強い体罰を受けた子どもは、問題解決能力や自己制御能力に関わる前頭前皮質が減少する他、DV(ドメスティックバイオレンス)目撃により視覚野の容積減少、暴言虐待により聴覚野の皮質容積異常が見られるなど、虐待が脳の変化を引き起こすことを解説。脳重量は1歳で成人の70%、4歳で90%以上となるなど、乳幼児期に急速に発達することから、妊娠期や生まれて間もない時期のサポートが肝要だとした。
 また、日本産婦人科医会の活動にも触れ、約90%の産科医療施設においてメンタルヘルスケアを要する妊婦がいる現状を踏まえ、全ての医療機関でスクリーニングとケアを行えるよう教育・研修システムの構築を進めていることを紹介した。
 「小児科領域における諸課題」について講演した神川晃日本小児科医会長/日医母子保健検討委員会委員は、わが国の子どもを取り巻く状況として、虐待や貧困、いじめや自殺などのデータを示した上で、親子の信頼関係に基づく自己肯定感が将来への明るい展望をもたらすことを強調。子ども達が健やかに成長できるよう、これからの小児医療・保健においては、子どもと養育者に継続的に関わる体制づくりが重要であるとした。
 その上で、妊婦健診から出産後の定期健診、予防接種など継続的に関わる保健師が、家族全体を切れ目なくサポートするフィンランドの出産・子育て支援センター「ネウボラ」に倣い、現在、全国展開が進められている「子育て世代包括支援センター」においても、ポピュレーションアプローチを充実させていくことを求めた。
 「成育過程におけるメンタルヘルス~精神科の役割について~」と題して講演した竹内崇東京医科歯科大学医学部附属病院精神科講師は、わが国における周産期の自殺率が先進国の中でも突出して高いことを指摘。「妊娠期の母親の不安やストレスが長期間にわたって子どもの発達や情動に影響を及ぼすことから、メンタルヘルスの問題を早期に発見して、重症度評価を行い、必要に応じて医療機関へつなげていくことが大切である」と述べた。
 一方、総合病院精神科からは、「産科は精神疾患を理由に、精神科は妊娠を理由に、妊産婦の診療を総合病院に依頼するケースが多く、対応に苦慮している」「出産後の育児についても考慮しなければならず、児童相談所、保健所、家族等とのミーティングの設定など、時間が掛かるが報酬上の評価に結びつかない」などの意見があることも紹介。今後は、産科・精神科診療のネットワークシステムの整備や、多職種連携体制の構築が急務であるとした。
 「母子保健行政の最近の動向」について講演した平子哲夫厚労省子ども家庭局母子保健課長は、母子保健行政の歩みを概説した上で、子育てに関する相談窓口となる「子育て世代包括支援センター」が、平成30年4月1日現在、761市区町村(1436カ所)に設置されていることを報告。同センターにおいて「業務ガイドライン」に従い、実情把握、相談、支援プランの策定、関係機関との連絡調整などを行う際には、顔の見える関係を保ちながら、寄り添っていくことが重要であるとした。
 この他、各自治体における、子どもの心の診療ネットワーク事業、産後ケア事業、不妊専門相談センター事業、女性健康支援センター事業、児童虐待防止医療ネットワーク事業などに関する取り組みを推進していることを紹介した。
 その後の討議では、フロアから、匿名での相談体制や情報共有のあり方等、さまざまな質問や意見、要望等が寄せられた。
 当日の出席者は217名であった。

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