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令和元年(2019年)7月5日(金) / 南から北から / 日医ニュース

ムンテラ

 患者に病状説明をする時は「ムンテラ」と言われていた。私はいまだに「患者さんの家族にムンテラするよ」と言うが、大概最近は看護師に「ICですね」と返される。いつの頃からか「ムンテラ」は「インフォームドコンセント(IC)」に変わったのだ。本当だろうか。
 ネットで調べてみると(これが変わった大きな理由らしいが)、1990年代後半から日本での医療訴訟事情が変わった(訴訟リスクが高まった)ため、"医師は、患者に対して病気に関する情報を提供し、患者が治療方針を決める"ためにインフォームドコンセントが使われ出したそうだ。果たして本当に全ての情報を話して患者が決めることはできるのか? はたまたムンテラは患者を一方向に誘導することなのか?
 ムンテラは言わずと知れたMund Therapieの略であり、口で治すのである。よく言ったものである。もちろん、うまく口車に乗せて治療方針を決定してしまうという意地悪い見方もあるかも知れない。しかし、治すのは病気だけではなく、患者や家族の心も、である。インフォームドコンセントで患者や患者家族に安らぎを与えることはできるのか?
 私の専門は小児血液腫瘍であり、患者家族に白血病などのがんの告知をすることがしばしばである。自分の可愛い子どもががんと告知され、耐えられる親などいるであろうか。そこには患者に寄り添う言葉が必要なのである。
 だから、看護師に言い直されながら、今日も「患者さんの家族にムンテラするよ」と言い続けるのである。きっと「はい、分かりました。ICですね」と返されるのであるが。

北海道 北海道医報 第1195号より

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