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令和元年(2019年)8月20日(火) / 南から北から / 日医ニュース

私とキョンキョン

 30代のことであった。友人のO君の影響で海水魚飼育にハマった。暇があれば東京、神奈川のショップに出向いて、美しく、珍しい魚や珊瑚を求めていた。
 その時も新たなショップを訪ねて、井の頭線の西永福駅に降り立った。改札口を出て、地図を見ながらショップの方向に歩いていた。そうすると、はるか向こうから恐ろしく顔の小さな、色白の可愛い女の子が歩いて来るではないか。まるでその小さい顔が周りの暗闇に浮かんで、顔だけが私に向かって一直線に近づいて来るごとくである。
 10メートルほどになって顔の正体が分かった。キョンキョン(小泉今日子)ではないか どうしよう、近くに来たらあいさつした方が良いのか。いや待て、相手は私のことを知らない。ならばそのまま無視して通り過ぎた方が良いのか。いや、サインぐらいもらおうよ。等々考えているうちに何も声を掛けられず、すれ違って去ってしまう瞬間であった。
 「カット!」と大きな声が背後からあった。振り向くと、カメラとカチンコがあった。どうやらテレビドラマの撮影だったようである。しかし考えてみるとおかしい。テレビドラマのロケであればエキストラを使うはずで、素人の私が撮影の絵に入ってきたならばその時点で撮影中止である。それなのに彼女とすれ違うまで撮影は続けられた。
 なぜだ、という疑問に包まれながら私は歩いていた。そうだ、私の後ろ姿がカッコよく、このドラマの雰囲気にマッチしていたのでそのまま撮影を継続したのではないか。そうに違いない。
 その後、風の便りではそのクールの彼女の主演ドラマに私が映っていたそうである。
 それから私は芸能事務所からいつオファーが来ても良いように、医師を辞めてでも俳優になる覚悟をしている。
 この話、信じるか信じないかはあなた次第です。

岩手県 盛岡市医師会報 No.657より

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