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令和元年(2019年)8月20日(火) / 日医ニュース

教授の椅子

 数カ月前、山崎豊子原作の「白い巨塔」が何度目かのテレビドラマ化をされ、高視聴率を取ったという。
 新臨床研修医制度導入後は、以前ほどではないにしても、研究者の誰もが教授の椅子に強い憧れを抱くことに変わりはないだろう。しかし、ここに例外がいる。
 この人物は、今春、某大学病院の臨床診療科の教授に就任した。私の親友である。研究熱心で、人当たりもよく、苦労人で、部下にも慕われている。少し時間は掛かったが、晴れて教授となった。さぞ喜んでいると思い、早速連絡した。
 私のお祝いの言葉に明るく答えてくれたものの、歯切れが悪い。さては、早くも問題が起きたかと心配していると、「教授になれたのはうれしい。しかし、就任後すぐに自分がこの職に向いていないと悟ってしまった。幸い、教室の人材は豊富なので、出来るだけ早く辞めることに決めた」と堰(せき)を切ったように話した。こちらは言葉も出ない。
 挙句に、「今後は、どうしても臨床の最前線に身を置きたいので、今、近隣の市民病院の部長職に就けないか画策中だ。応援して欲しい」と言われてしまった。その市民病院は、勤務の過酷さで有名だ。耳を疑った。こんな話は聞いた事がない。しかし、痛快である。その教室には申し訳ないが、この計画が功を奏することを祈りたい。
 彼は、きっと教授の椅子に慣れる前に、臨床の奥深さに魅入られていたのだろう。
 さあ、我々、生粋(きっすい)の臨床医のお仲間へようこそ。

(和)

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