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令和3年(2021年)1月5日(火) / 南から北から / 日医ニュース

成長の物差し

 時々、ゴルフに出掛ける。
 いや、結構出掛ける(今年は別として)。きっかけは大学6年の夏、叔父が5番と7番アイアンをくれたことだ。当時は年寄りのスポーツというより道楽と思っていたのでそれほど興味もなく、何度か練習場で打ち、ショートコースで遊ぶ程度だった。叔父は一緒に回りたそうであった。卒後しばらくはすることもなかったが、派遣先の病院のコンペでそれこそ年1回の人数合わせで参加するようになり、40歳を過ぎた頃、「どうせなら」ということで少しまじめに向き合うようになった。
 健康のため、知り合いが増える、家庭からの逃避?などゴルファーにはそれぞれの行く理由はあろうが、大の大人が前夜は遠足にでも行くかのようにそわそわし、目覚ましをセットし慣れぬ時間に布団に入る。結果寝不足なのだが、季節を問わず早朝の凛とした空気が好きだ。
 試合に出るのもまた楽しい。技術、体力、メンタル、ゲームマネージメントなど自分に足りないものを見つけ追い掛け、また挑む。手術と似ている。
 また、そんなゴルフには競技として特異的な点が三つある。審判がいないこと、ボールに触れるのは自分のみ、同伴者はパートナーでありながら競う相手でもある。自律、責任、礼節。まるで校訓のようだが、人生に似ている。そんなところが中高年のハートをがっちりつかむのだ。というのは建前で、年寄りが若いもんをやっつけられる稀有(けう)なスポーツだからかも。「君もまだまだだなあ、ふっふ」など問わず語りで、ひとくさり持論を聞かせ、苦いコーヒーを一口飲み干し、満足げにコースを眺める。ああ、いやらしい、けどたまらない。
 さて、そんなゴルフだが、一方であまり良くない印象を持たれる一面も否定しない。接待にゴルフが使われてきたのは事実。日本では企業間の接待ゴルフは文化とも言われているが、彼らの言葉を借りれば、これは接待という名の試験らしい。ひきょうな振る舞いがないか、結果が悪くても言い訳しないか、最後まで努力するか、パートナーへの配慮があるかなどを、何億という商談や共同プロジェクトを進めるに当たって人物査定するのだ。うわ、これは別の意味で眠れん。
 ともあれ、アマチュアのゴルフ。スコアは目標であって目的ではない。夏坂健風に言えば、ラウンドが終わって「上手ですね」と言われるのは一つの目標だが、「また一緒に回ってくれますか」と言われるのがゴルファーの目的。
 お盆を迎え、くだんの叔父の墓にも掌を合わせた。もう「一緒に回る」ことはかなわなくなってしまったが、そんなゴルファーになれていますかね? 叔父さん!

富山県 富山市医師会報 第594号より

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