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令和3年(2021年)2月5日(金) / 日医ニュース

社会的共通資本と医療

 「社会的共通資本」という言葉をご存じでしょうか。これは、現代社会になくてはならないもののことで、故宇沢弘文元東京大学経済学部教授がつくられた言葉です。
 現代社会で尊厳をもって生きていくためには最低限の食料やエネルギーがあるだけでは不十分です。自然環境や教育、医療、立法、金融など多くの制度や社会の仕組みが必要となります。宇沢教授は、これらを「社会的共通資本」と名付けられました。
 更に、「社会的共通資本」は国家官僚によって運営されるのではなく、専門家集団によって運営されなければならないとも宇沢教授は言われています。
 従って、「社会的共通資本」は私的所有が許されるものもありますが、目的は公的なものとなります。
 現代の経済学は「市場」を最も重要な場所として考え、市場取引によって需要と供給が調整され、価格が決まると説いています。
 一方、宇沢教授は人間の幸せを第一に考え、市場取引にはなじまないものを「社会的共通資本」とも言っているのです。
 例えば、以前は教育は公立学校による公教育がほぼ全てであり、塾に行く子どもは少数派でした。今は塾や予備校に行かなければ、有名大学には行けなくなっており、教育が市場取引されるものになってしまっています。新自由主義を主張する人達は医療も教育のように市場取引される「サービス」にしたいと考えています。医療が市場化されると、我々は治療をする際に患者と値段の交渉をしないといけなくなるでしょう。そのような社会は不幸であると、宇沢教授は言っておられると思います。
 人間が生きていくこととは何か、という問い掛けに宇沢教授が答えられたことが「社会的共通資本」であり、我々医師はそのことを忘れないようにしていく必要があるでしょう。
 日医総研はこのような社会制度全体についても、研究や検討を行っています。『日医雑誌』においても昨年12月号より隔月で連載を持っておりますので、ご覧頂ければ幸いです。

(日医総研副所長 原祐一)

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