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令和4年(2022年)3月5日(土) / 日医ニュース

「新型コロナウイルス感染症による母子保健への影響」をテーマに

 令和3年度母子保健講習会が2月13日、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が流行状況にあることを鑑み、参加者がWEBシステムを介して聴講する形で開催された。
 冒頭のあいさつで中川俊男会長は、日本医師会が、日本小児科医会・日本産婦人科医会と共に提唱してきた「成育基本法」が、平成30年12月に成立、令和元年12月に施行されたことに言及。社会全体で妊娠期からの切れ目のない支援を目的とする同法は、「未来を担う子どもたちが安心して健やかに成長できる環境づくりをより一層進めるもの」とした上で、同法に基づいて令和3年2月9日に「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」が閣議決定されたことを紹介。今後は、この「基本的な方針」に基づいて、国、地方公共団体、企業や地域社会が、成育医療を切れ目なく提供するための施策の推進に取り組むことが期待されるとし、日本医師会としても、実効性のある施策の実現に向け、積極的に政策提言を行っていく意向を示した。
 講習会では、渡辺弘司常任理事を司会に、「新型コロナウイルス感染症による母子保健への影響」をテーマとして、5人の講師による講演が行われた。
 山本圭子厚生労働省子ども家庭局母子保健課長は、わが国の母子保健行政の歩みとして、1942年に現在の母子健康手帳の基となった「妊産婦手帳制度」が開始され、基本的な母子保健サービスの主体が国から市区町村に移譲されたことに伴い、母子健康手帳の交付を始め、現在では多くの妊娠・出産等に係る支援体制が市区町村により整備されていること等を紹介。
 続いて、最近の母子保健行政の動向として、令和4年度から新たに「性と健康の相談センター事業」「母子保健対策強化事業」を実施する他、不妊治療が保険適用となること等を説明した。
 中井章人日本産婦人科医会常務理事は、昨年8月に千葉県で発生した、新型コロナに感染した妊婦が入院できないまま自宅出産を余儀なくされ、新生児が死亡した事案について触れた上で、コロナ禍における周産期医療の課題について概説。新型コロナ陽性となった妊婦においては早産や帝王切開の適応となる例が多くなること等を報告するとともに、全国の妊婦陽性者数・入院者数が正確に把握できていないなどの問題点を指摘。今後は、(1)行政による妊婦陽性者数の正確な把握と情報開示、(2)病床逼迫(ひっぱく)時における妊婦の宿泊・自宅療養転換への見極め、(3)かかりつけ医による妊婦陽性者の健康観察への積極的な関わり―等が必要になると強調した。
 池田智明三重大学医学部産科婦人科教授は、三重県の取り組みとして、(1)2020年2月に、新型コロナに感染した妊婦を受け入れる施設を限定し、入院時・分娩時の院内感染防止対策を徹底している、(2)妊婦重症化リスクスコアの点数に応じて、入院療養とするか、自宅療養とするかの判断を行っている―こと等を紹介。また、オミクロン株については、その感染力の高さから、何よりも医療スタッフの感染による医療崩壊を防ぐ手立てが重要になるとの認識を示すとともに、県・保健所と医療提供施設間で良好な関係を築いていく重要性を強調した。
 齋藤昭彦新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野教授は、子どもの新型コロナの感染者数は人口比で見ると少なく、症状も軽症であることが多いことや、感染経路の70%以上が家庭内であること等を解説。また、オミクロン株の感染が先行して広がっていた英国では、5歳以下、特に1歳以下の乳幼児の入院が急増していること等を報告した他、感染後にMIS―C(小児多系統炎症性症候群)と呼ばれる合併症を生じることがあり、その場合は重症化するケースが多いことを紹介した。
 子どもへのワクチン接種については、個別接種が望ましいとするとともに、子どもの学習機会を守り、長期の後遺症や新たな変異株のリスクを避けるにはワクチンが唯一の積極的手段になるとして、周囲の成人へのワクチン接種が重要であるとした上で、子どもへのワクチン接種を推進していく必要性を強調した。
 田中恭子国立成育医療研究センターこころの診療部 児童・思春期リエゾン診療科診療部長は、コロナ禍において行われた学校閉鎖等により、子どもがその心身状態に強い負の影響を受けているとの研究結果を報告。また、コロナ禍以前と比べ、摂食障害や登校拒否といった、子どもの心身に関する相談が増えていることを紹介するとともに、周囲の大人がどのように関わるかについては、「子どもの気持ちの受容」「傾聴と心理的な支援」「良好な家族関係」が重要になるとした。
 更に、子どもアドボカシーとレジリエンス向上の観点から、かかりつけ小児科医、教育機関、福祉機関、家庭等が連携することで、子どもの生物学的・心理的・社会的な問題にアプローチし、成育環境を整備していくことが今後ますます重要になるとした。
 その他、福田稠日本医師会母子保健検討委員会委員長/熊本県医師会長は、令和2~3年度の同委員会への会長諮問「子どもを産みやすく育てやすい社会の実現に向けて医師会はどう関わるべきか~成育基本法をもとに~」に関する検討内容を報告。(1)子育て支援に関する有識者ヒアリング、(2)令和3年度母子保健講習会の立案、(3)都道府県医師会における成育基本法に係る取り組みアンケートの実施と結果の概要を説明し、講習会は終了となった。

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