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令和5年(2023年)2月20日(月) / 日医ニュース

「学校保健を巡る諸課題について」をテーマに活発な討議

「学校保健を巡る諸課題について」をテーマに活発な討議

「学校保健を巡る諸課題について」をテーマに活発な討議

 令和4年度第3回都道府県医師会長会議が1月17日、日本医師会館大講堂で開催された。
 当日は「学校保健を巡る諸課題について」をテーマとして、活発な討議が行われた他、事前に寄せられた質問に対して、日本医師会執行部から回答を行うとともに、「日本医師会定款・諸規程一部改正案」の内容等について説明を行った。

 本会議は、都道府県医師会を六つのグループ(A~F)に分け、毎回一つのグループを中心としてテーマに則した議論を行うとともに、都道府県医師会から事前に寄せられた同テーマに関連する質問に日本医師会執行部から答弁する形で開催しているもので、今回が今年度3回目となった。
 会議は釜萢敏常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長は、まず、新型コロナウイルス感染症の第8波となる感染再拡大と季節性インフルエンザとの同時期の流行に備えた体制づくりや年末年始の対応を含め、長期にわたる新型コロナ対策への尽力に謝意を示した。
 当日のテーマである"学校保健"については、「これまで都道府県医師会長会議において取り上げられていなかったが大変重要なテーマである。本日の議論を踏まえて、今後の学校保健活動推進のための糧にしていきたい」との意向を示した。

Cグループによる討議及び全体討議

 その後は高井康之大阪府医師会長が進行役を務め、Cグループ所属の医師会(岩手県、栃木県、新潟県、岐阜県、大阪府、岡山県、高知県、宮崎県)による討議が行われた。
 岩手県医師会は、「学校内科健診における客観的データを用いるなど、標準的な検査項目等の検討」「内科健診・乳幼児健診のあるべき回数や健診内容等について管轄省庁を超えて再検討を行うこと」を提案した。
 栃木県医師会は、コロナ禍が子ども達に及ぼした影響を調査・検証し、その悪影響に対して迅速に対応していく必要があるとした。
 新潟県医師会は、「がん教育」について、教育現場では教材、人材不足に加えて実施率が低い状況にあると指摘した他、がんサバイバーに対する教育的配慮がないことを問題視。また、学校保健に関する多くの課題対応に当たっては、医師会と教育委員会等との間で顔が見える関係を構築すべきであると主張した。
 岐阜県医師会は、学校健診実施時の脱衣がセクハラと捉えられ、見直しを求める署名運動が起こっている一方で、脱衣をしない健診で脊柱側弯(せきちゅうそくわん)症を見逃し、早期治療の機会を逸したとして訴えられた事例もあることを報告。その改善策として超音波検査機器の導入を提案するとともに、その導入支援を要望した。
 岡山県医師会は、思春期の自殺予防対策として、岡山大学の研究報告を基にアプリ等を用いた介入により希死念慮(きしねんりょ)を持つ者が有意に減ることなどを紹介。自殺を防ぐためには早期に自殺の予兆を察知し、対応できるような体制づくりが求められるとした。
 高知県医師会は、不登校生徒の居場所に中学校内の空き教室を提供することで、好結果を得られている県行政の取り組みを報告。全国展開を求めるとともに、「その際には医師会からも支援をお願いしたい」と述べた。
 宮崎県医師会は、学校健診の際の脱衣に関して、限られた健診環境の中で疾病を見逃さない最善の健診を提供できる環境整備を、学校や行政が責任をもって行うことを要望。また、教職員の健康管理を、健康管理医として学校医が低額報酬で担うことがあり、負担になっていると指摘し、その改善を求めた。
 各県の発言を踏まえて、高井大阪府医師会長は、学校健診のあり方について、根拠に基づく統一的な基準を示す必要があるとの考えを示した。
 その後の全体討議では、学校医が健診を行いやすい体制整備を求める意見(山口県医師会)や視診の重要性を訴える意見(山形県医師会)が出された他、愛媛県医師会は、一人一人に時間を掛けた丁寧な健診方法に変更していくことを提案。沖縄県医師会からは、コロナ禍でのマスク生活が今後の成長過程に及ぼす影響を懸念する考えが示された。
 また、三重県医師会からは、「思春期セミナー」を開催していることの紹介があった他、鹿児島県医師会は、電子カルテやマイナンバーカードなどを活用した母子健康手帳のあり方の検討を提案した。

都道府県医師会からの質問に執行部から答弁

 「学校保健を巡る諸課題」について事前に寄せられた都道府県医師会からの質問には、担当の渡辺弘司常任理事から回答を行った。
 北海道医師会は、(1)健康教育における外部講師の活用、(2)いじめ問題の対応―に関して質問した。
 (1)については、文部科学省に対し、各都道府県教育委員会にその活用を推進する通知を発出するとともに、地方行政に委ねられている講師謝金の支出の判断についても、その確保に向けた働き掛けを行うよう要望していく考えを示した。
 (2)については、日本医師会として、文科省に「医療事故調査制度」方式に準じた調査制度を創設するとともに、事前に委員となり得る医師を登録し、日本医師会の研修会等で基本的な知識を習得してもらうことを提案していることを説明。
 また、メンタルヘルスの問題に関しても、スクールカウンセラーの活用の推進などについて文科省と協議を継続する他、自身が委員として参画している文科省「いじめ防止対策協議会」においても、現場の意見を反映できるように努めていくとした。
 秋田県医師会からの学校医(特に耳鼻咽喉科、眼科)の不足に関する質問には、日本臨床耳鼻咽喉科医会、日本眼科医会とその対応について協議していることを明らかにし、「その中で具体的な解決策を見出していきたい」と述べた。
 また、毎年6月までとされている健診実施期間の延長については、コロナ禍では緊急対応として認められたが、その継続には法令上の対応が必要になることを説明。現在、文科省と今後の対応について交渉中であるとした。
 福島県医師会からの「教職員の免許制度の発展的解消が教職員の業務負担を増やし、働き方改革に逆行すること」「50名未満の学校に対する学校産業医の配置」等の問題提起に関しては、文科省「中央教育審議会」で要望するとともに、文科省の担当部局にも改善を求めていることを説明。
 更に、産業医報酬の算定については文科省、総務省に要請するだけでなく、「『教職員給与特別措置法の見直しに向けた課題を整理する有識者会議』にも日本医師会の考えを伝えていく」と述べた。
 茨城県医師会からの学校生活管理指導票の保険適用の拡大を求める要望には、次回の診療報酬改定に向けて、学校保健安全法に基づく心臓疾患や腎疾患の生活管理指導票に関する各都道府県の現場での取り組み実績などのエビデンスを積み上げることで、保険適用を目指していく考えを示した。
 栃木県医師会からの学校健診における脱衣の問題に対する日本医師会の見解を問う質問には、文科省に対しては「正確な診断ができる体制と環境を整備する責務や保護者への説明責任は学校側と教育委員会にあり、その環境と体制が整わない限り、学校医は責任をもって健康診断を行うことができない」と繰り返し伝えていることを説明し、理解を求めた。
 東京都医師会は学校医の後継者不足に関する五つの問題点の改善を要望。学校医の報酬額に関しては、「都道府県医師会並びに郡市区医師会において自治体等と連携を深めることで、交付に見合う報酬の支出をお願いして欲しい」とした。
 また、医学教育については、日本医師会の申し入れにより、昨年11月に公表された「医学教育モデル・コア・カリキュラム令和4年度改訂版」において、「学校保健安全法、学校医の役割、学校感染症等、学校保健の意義と概要を理解している」旨が盛り込まれ、令和6年度入学生から適用されることを紹介。「学校医の業務と開業医の日常診療との両立」「耳鼻科・眼科医の不足」については、勤務医に学校医を依頼する体制が既に多くの地域で実施されていることや、耳鼻科・眼科医の確保について各医会と今後の対応の協議を進めていることを説明した。
 更に、学校保健における健康教育の重要性については、学校医にもその重要性を認識してもらうための研修制度が必要であるとの考えを示す一方、認定学校医制度の導入については慎重な姿勢を示し、まずは、都道府県医師会学校保健担当理事連絡協議会や学校保健講習会などを通じて、健康教育の重要性と知識の啓発に努めていく意向を示した。
 静岡県医師会からの「学校医不足に対する今後の対応」「学校健診の際の脱衣」に関する質問には、学校医不足に対する一元的な対応は困難との考えを説明。脱衣に関しては、正確な健診ができる体制を整備し、保護者への理解を求める責務は学校側にあり、文科省にもその対応を求めるとともに、環境が整えられない場合には、健診の一部項目を除外するか、場合によっては健診を実施できないことを伝え、交渉しているとして理解を求めた。
 京都府医師会からの学校健診における脱衣の問題に関する指摘に対しては、脱衣の方が側弯症検診において見落としが少なく、診断率が高いとする島根医科大学の報告を紹介するとともに、文科省でも、次年度からモアレなどの機器を使った側弯症検診モデル事業を行った上で、事業の成果と課題を踏まえた検証を行う予定であることを説明。
 今後については「着衣では聴診や視診に関して対応できない項目も出てくると考えられるため、法改正も含め対応を協議していく」と述べた。
 大阪府医師会からの「超少子化時代における少人数学級」「インクルーシブ教育体制強化」の提案には賛意を示し、今後も文科省に働き掛けていく意向を示した。
 兵庫県医師会からの側弯症検診における機器の導入に関する質問には、「機器の感度・特異度がどの程度か、機種によってどのくらいの差が生じるか、検診実施者による差はどうか等の課題を解決する必要がある」とし、「現時点では統一した情報はなく、文科省のモデル事業の結果を待って今後の対応を検討する」と述べた。
 山口県医師会からの学校健診における脱衣に対する質問には、既述の日本医師会の考えを改めて説明。都道府県医師会に対して、「正確な診断ができる環境で健診を行えるよう各教育委員会に働き掛けをお願いしたい」とした。
 高知県医師会からの日本と諸外国の子育て及び教育の予算・制度・人員などのデータ分析を求める意見に対しては、「日医総研の研究員とも相談し、対応していきたい」と述べた。
 長崎県医師会からの学校健診の事後措置の受診率の低さを問題視する意見に対しては、その改善のためには都道府県教育委員会と連携を密にしていく必要があると指摘。また、学校健診の項目を現状に合った内容に変えていけるよう文科省と協議を重ねていることを明らかにした。
 加えて、学校医の選定に関しては、「学校医と学校産業医は本人の希望があれば兼任が可能だが、それぞれ異なる医師が行うべき」との日本医師会の方針を示し、その報酬の引き上げに関しても、引き続き、文科省、総務省に要望していくとした。
 大分県医師会からの学校における健康教育の重要性を指摘する意見に対しては、「文科省とこども家庭庁との連携状況を見極め、小児保健として小児期を広くカバーした一貫性のある健康教育体制の構築を求めていく」と述べるなど、母子保健と学校保健の連携強化に努める意向を表明。小児生活習慣病予防健診が、学校保健安全法に含まれていないことから、全国で統一した実施体制になっていないことに関しては、法的に位置付けられるよう各地域での取り組みを求めた。
 鹿児島県医師会は、(1)学校産業医の活動に対する支援、(2)学校健診データの活用―等について要望。(1)については、将来的に学校医と学校産業医が独立した体制を目指す考えを示すとともに、その移行期には学校医が産業医として活動する場合に参考となる研修を検討するとした。
 (2)に関しては、個人情報保護法により、学校保健におけるPHRへの項目は基本的情報のみに限られているものの、文科省においても学校健診情報の利活用の重要性は強く認識しており、今後の検討課題として関係省庁とも連携しながら取り組みを進めていくとした他、学校健診データの利活用については、どのような情報管理と対応が可能であるかを関係者と検討していくとした。
 沖縄県医師会からの学校医業務の魅力向上のための具体的な施策を求める意見に対しては、「まずは、学校医の負担軽減が必要であり、そのためには効率化が重要となる。今後は必要とされる健診項目は何かを社会環境に応じて考えていくべき」とした他、健診体制についても文科省と協議を重ねていく意向を示した。
 その後の全体討議では、コロナ禍における児童生徒への影響とその対応に関する質問に、渡辺常任理事が文科省との協議内容を説明。パーソナルヘルスレコード(PHR)での死亡情報の扱いを要望する意見については、長島公之常任理事がレセプトデータのナショナルデータベースに死亡情報を連結する方針が決まっていることを説明した他、ヘルスリテラシーの推進を要望する意見を受けて、先進的に取り組んでいる香川県医師会がその取り組み内容を報告した。
 その他、釜萢常任理事から、日本医師会定款・諸規程一部改正案について、会議当日に開催された第11回理事会で、昨年12月に取りまとめられた本会定款・諸規程検討委員会答申書の内容のとおり、理事の定数を33名以内とし、常任理事を4名増員する件を、本年3月の臨時代議員会に上程することが了承されたと報告した。
 最後に総括した松本会長は、地域医療をしっかり支えていくのは地域の医師の責務であると強調。「一般企業の参入などにより粗悪な健診などにならないよう、学校保健等について医師会としてもしっかり管理しておくことが今後は重要になる」として、引き続きの協力を求めた。

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