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令和5年(2023年)3月20日(月) / 日医ニュース

「医療DX2023 DX推進の現状と将来の展望 ―DX推進のためにできること、すべきこと―」をテーマに開催

左から恵比須神奈川県医副会長、菊岡神奈川県医会長、松本会長左から恵比須神奈川県医副会長、菊岡神奈川県医会長、松本会長

左から恵比須神奈川県医副会長、菊岡神奈川県医会長、松本会長左から恵比須神奈川県医副会長、菊岡神奈川県医会長、松本会長

 令和4年度日本医師会医療情報システム協議会が2月25、26の両日、「医療DX2023 DX推進の現状と将来の展望―DX推進のためにできること、すべきこと―」をメインテーマとして、WEB会議で開催された。

第1日

 協議会は担当の長島公之常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長は、新型コロナウイルス感染症への日頃の対応に感謝の意を表明。本協議会が参加者にとって有意義なものとなることに期待感を示した。
 続いて、今年度の担当医師会である菊岡正和神奈川県医師会長があいさつを行い、「今回はオンライン資格確認(以下、オン資)やサイバーセキュリティ対策など、重要な事項を取り上げており、その内容が皆さんの医療活動の一助となることを願っている」と述べた。
 引き続き、1日目には三つのテーマに関する講演が行われた。

Ⅰ.医療DXに対する日本医師会の考え

230320e2.jpg 長島常任理事は、日本医師会が目指す医療DXについて、国民・患者により安全で質の高い医療を提供するとともに、医療現場の負担を減らすことにあると強調。今後もこの考えの下、国に対してさまざまな働き掛けを行っていくとした。
 マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関しては、「誰一人取り残さないようにすることが大事になる」と述べるとともに、電子処方箋(せん)については、リアルタイムで薬剤情報が共有できる意義は大きいとして、その導入を呼び掛けた。
 医師資格証に関しては、全会員への発行を目指し、「病院での一括申請・一括交付」「HPKIセカンド電子証明書の提供」などを行っていることを紹介し、その活用を求めた。
 サイバーセキュリティについては、医療機関が被害を受ける要因として、知識、人材、財源の不足が挙げられるとし、引き続き、国にその支援を求めていく考えを示すとともに、日本医師会としても「日本医師会サイバーセキュリティ支援制度」を創設したことなどを紹介。PHRに関しては、かかりつけ医と共に活用していくことが重要になるとした。
 その他、全国の地域医療ネットワークとオン資のシステムを基盤とした全国医療情報プラットフォームの関連性についても言及。当面は併用することが必須となるが、今後は地域の特性に応じて、どう連携を図っていくか考えていく必要があるとの考えを示した。

Ⅱ.国がめざす医療DX

 中園和貴厚生労働省保険局医療介護連携政策課保険データ企画室長は、健康保険証の廃止に向けた環境整備を丁寧に進めていく考えを示した上で、「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」が2月24日にまとめた「中間とりまとめ」の内容や、オン資の原則義務化の経過措置などについて説明を行った。
 伊藤建厚労省大臣官房総務課企画官兼電子処方箋サービス推進室長は、現状では電子処方箋に対応できる施設は少ないものの、導入手続きを行った施設は約4万施設あることを報告。導入施設の数を増やす方策の一環として、「電子処方箋推進協議会」を立ち上げたことを紹介した。
 島貫隆夫山形県酒田地区医師会副会長は、酒田地域で行われている電子処方箋のモデル事業について報告。「地域で取り組みを進めていくことが大事であり、広く普及が進めば、リアルタイムでさまざまな疾患の患者推計ができるようになる」として、今後もその普及に努めていく考えを示した。
 上野智明日本医師会ORCA管理機構株式会社取締役副社長は、「診療報酬改定DX」について、医療保険制度全体の運営コスト削減を目指すという目的に賛意を示すとともに、「引き続き、全ての医療機関がメリットを得られる仕組みとなるよう、その推進に協力していきたい」とした。

Ⅲ.医療情報の標準化がめざす未来

 笠貫宏Medical Excellence JAPAN理事長は、日本で電子カルテの普及が遅れている原因の一つとして、患者・国民、医師・介護者等にとって愛される電子カルテとなっていないことが挙げられると指摘。今後はその普及が遅れた理由を分析した上で、日本の国民性・文化を踏まえた日本版の「デジタル先進国」を目指すべきだと強調した。
 城克文厚労省大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官は、現在は医療DX推進のための基盤整備を進めている段階にあるとして、その内容を「診療報酬改定DX」「全国医療情報プラットフォーム」「電子カルテ情報の標準化等」の三つに分けて概説。厚労省としても、具体的な施策の企画・立案を進めていきたいとした。
 姫野泰啓内閣府健康・医療戦略推進事務局参事官は、現行の次世代医療基盤法について、希少な症例が研究できないなどの課題が出てきたことから、現在、法改正の検討が進められていることを説明。法改正のポイントとして、(1)仮名加工医療情報の利活用に係る仕組みの創設、(2)NDB等の公的データベースとの連結を認める、(3)医療情報取扱事業者は利活用推進に関する施策への協力に努める旨を規定する―等を挙げた。
 山本隆一医療情報システム開発センター理事長は、電子カルテの標準化のためには、少なくとも「情報伝送手段」「用語」「概念」の統一化を図る必要があるものの、難しい面が多いと指摘。「統一化のためには、標準化を図る必要があるものを臨床現場の合意の下に決め、その用語、コードを例外なく標準化することが必要なのではないか」と主張した。
 中島直樹九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター長は、現在の電子カルテの問題点として、解析目的のためのデータが質・量共に大きく不足していることがあると説明。その解決策として、電子パスの標準仕様である「ePath」の活用を提案するとともに、電子カルテの普及のためには今後、Z世代が医療現場の労働力の中心となることも考慮する必要があるとした。
 石見拓京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻予防医療学分野教授は、PHRのデータが標準化され、やりとりができるようになれば医療現場の負担も軽減することができると指摘。今後、更にPHRを推進していくためには、PHRを社会インフラとして捉え、目指すべき将来を国民が共有し、活用していくことが大事になるとした。
 その他、1日目には協議会に先立って、医師会のセキュリティ対策や日本医師会Web研修システムなどをテーマとした事務局セッションも3年ぶりに開催された。

第2日

 2日目には、二つのテーマに関する講演が行われた。

Ⅳ.地域医療情報連携ネットワーク

230320e3.jpg 長島常任理事は、全国の地域医療連携ネットワーク(以下、地連NW)の現状について、(1)稼働状況に大きな地域差がある、(2)ランニングコスト等に起因する持続可能性、(3)医療情報として何を標準化するべきか―等の問題があると指摘。ネットワーク間でどのように情報共有していくかについては、オン資の電子カルテ情報交換サービスを利用し、本人の同意を得た上で3文書6情報の共有・交換を進めていく方向であることを説明した。
 更に、令和4年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2022」の中で、①全国医療情報プラットフォームの創設②電子カルテ情報の標準化③診療報酬改定DX―が、医療分野の情報のあり方を根本的に解決する手段として挙げられていることに言及。①に関しては、日医総研の調査結果を基に、その推進に伴い、各地域で稼働している地連NWの運営・継続に懸念が生じている他、補助金の縮小や打ち切りといった影響が出始めていることを報告した。
 その上で、長島常任理事はこの問題の解決のため、厚労省の関連会議等において、「既存の地連NWと全国医療情報プラットフォームは役割が異なるため、併存の必要性がある」と強く主張してきたことを説明。その結果、自民党政務調査会「医療DX令和ビジョン2030」の提言の留意事項に、「地連NWも引き続き機能し、併存する」と明記されたことを紹介するとともに、「オン資システムを利用した電子カルテ情報の共有だけでは、地連NWで活用されている診療情報や画像データの共有、クリティカルパス、医療介護連携の実現は困難である」として、オン資システム基盤と地連NWの連携について検討を進めるべきとの認識を示した。
 藤井卓長崎県医師会副会長は、長崎県内の地連NW「あじさいネット」の運用状況について報告。新型コロナウイルス感染症の流行によりオンライン診療への注目度が増す中で、2020年より外部のオンライン診療ソフトウェアとの提携を開始するなど、その機能の拡充を進めていることを紹介した。
 藤川光一広島県医師会常任理事は、2013年より稼働している「ひろしま医療情報ネットワーク」を紹介。医療情報が個々人に発行された、県(国)で唯一の地域共通IDにより一意的に管理されているシステムであることの他、課題としては全国医療情報プラットフォームとの共存・連携があり、マイナンバーカードを地域医療IDカードの代わりに利用できる仕組みを構築中であることなどを報告した。
 高橋肇高橋病院理事長は、道南地域医療連携協議会「道南MedIka」を母体として発展してきた「ID-Link」の運用状況や問題点を説明。今後、オン資確認の運用が進む中で、在宅・介護を巻き込んだ地域医療のためには、地連NWとの関係性をどのように考えるべきなのかについて、経験を踏まえた説明を行った。
 JA山口厚生連周東総合病院の陣内聡太郎氏は、医師が常駐していない離島診療所において、2021年度よりオンライン診療を開始したことを紹介。その有用性と限界について説明するとともに、ウェアラブルデバイスを用いた診療の質向上や見守り機能強化、ドローンによる薬剤配送など、離島へき地の医療アクセス向上のための諸事業の成果等について報告した。

Ⅴ.サイバーセキュリティ

 田中彰子厚労省医政局参事官は、「厚労省におけるサイバーセキュリティ対策の取組み」について概説。近年、増加の一途にある医療機関へのサイバー攻撃について危機感を示すとともに、令和5年4月よりオン資導入が原則義務化されるため、医療分野におけるサイバーセキュリティ対策が喫緊の課題との認識を示し、国としても「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を定めた他、継続的な教育支援等の事業を展開していることを紹介した。
 結城則尚内閣サイバーセキュリティセンター情報セキュリティ指導専門官は、医療分野にあっては、病院における電子カルテシステムのランサムウェア被害により診療不能となる事案が複数発生していることに言及。これらの原因は、現場での対策及び対策の検証が不十分であることがほとんどとした上で、重要インフラ行動計画の改訂の狙いとともに、トラブル予防と拡大抑止の重要性を強調した。
 中嶋昌幸警察庁サイバー警察局サイバー企画課官民連携推進室長は、国内企業等に対するランサムウェア等による被害の増加に合わせ、医療機関においても電子カルテ等のウイルス感染も増加していることに言及。警察で把握しているランサムウェアやウェブサイトの改ざんを始めとするサイバー攻撃の被害の傾向、具体的な手口とその対策について概説するとともに、警察への通報・相談が事案対処において重要になるとして、更なる協力を求めた。
 桑名利幸情報処理推進機構IPAセキュリティセンターセキュリティ対策推進部長は、「脆弱性情報の提供」「各種相談窓口及び届出窓口の運営」「サイバー脅威情報の共有活動」「中小企業へのセキュリティ対策支援」等の取り組みについて紹介するとともに、業界内の情報共有活動を支援する「J―CSIP(情報セキュリティ安心相談窓口)」等の活動内容について概説した。
 日本医師会情報システム課からは、日本医師会A①会員を対象として、令和4年6月1日に運用を開始した「日本医師会サイバーセキュリティ支援制度」について、(1)日本医師会サイバーセキュリティ対応相談窓口、(2)セキュリティ対策強化に向けた無料サイト(Tokio Cyber Port)の活用、(3)日本医師会サイバー攻撃一時支援金・個人情報漏えい一時支援金制度―を柱としていることなどの紹介があり、今後は本制度を通じて、医療機関におけるサイバーセキュリティ向上と対策強化につなげていきたいとした。
 総括を行った長島常任理事は、「1年前と比べ、医療機関に対するサイバー攻撃の事案は増加したものの、関係者間の連携はそれを上回る勢いで進んでいる」とした上で、「このセッションは通過点であり、今後も関係者間の連携を深めることで、医療従事者の不安軽減に努めていく」との考えを示した。

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