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令和5年(2023年)8月20日(日) / 南から北から / 日医ニュース

バカンスは誰のため

 私の妻は学生時代、スペインのセビリアに留学していました。セビリアの夏はとにかく暑く、夏季の最高気温は40度を超える日も珍しくないそうです。ヨーロッパ諸国には、夏季に2週間~1カ月程有給休暇を取得してバカンスを楽しむ風習がありますが、セビリアの人々も夏季にはこぞってバカンスに出掛けるため、街全体がひっそりしていたそうです。40度の暑さでは仕事にならないでしょうから、理にかなった休暇だと感じます。
 さて、バカンスの典型的な過ごし方は「近場のビーチでひたすらのんびり」だそうです。高級リゾート地で豪勢に過ごすのは一部の人で、妻も近隣の海に友人達とバスで出掛け、ビーチで読書や昼寝をし、夜になって涼しくなったら街を散歩するというような、ゆったりした時間の贅沢(ぜいたく)を満喫していたと言います。
 私が印象深かったのは、この「バカンス」を失業中であっても満喫しているスペイン人の方の話でした。「バカンス=長期休暇」と聞くと、普段働いている社会人や勉強をしている学生が、しばし仕事や学業を休むものであるとイメージしていました。しかし、妻が間借りしていた家の家主マリベルさん(当時2年間ほど失業中)は「仕事をしていようがいまいが関係ない! バカンスのシーズンはとにかく誰もが楽しまなくちゃ!」と言って、同じく失業中の友人達と連れ立って、陽気にバカンスへ繰り出していたそうです。
 もし私が失業中であれば、一日も早く新しい職を探さねばと焦ったり、失業中なのにのんきに遊んでいると思われたらどうしようと周囲の目を気にしたりして、彼らのようにバカンスを楽しめないような気がします。
 このエピソードの背景にあるのが、マリベルさんの明るく前向きな人柄なのか、スペインのおおらかなお国柄なのかは定かではありませんが、少なくとも妻の目に映るマリベルさんやその周りの人達に悲壮感や焦燥感は無かったと言います。毎日フラメンコを歌って踊って、サッカーの試合を見ながらテレビの前で大騒ぎして楽しく暮らしていたそうです。
 幸せの意味について考えるとともに、いつかスペインの晴れわたった青空の下で、のんびり波の音を聞きながら過ごせたらなあと幸福な夢が膨らむ夏の話です。

福岡県 福岡市医報 NO.684より

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