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令和6年(2024年)1月20日(土) / 南から北から / 日医ニュース

スマホに向かってハミングしてます

 記憶に残っている音がある。
 夕餉(ゆうげ)の匂いの中、微(かす)かに聞こえる母の歌声。今晩のおかずは何かな? 風呂を浴び、テレビを付けて「ごはんですよ」の合図、家族だんらんの始まりだ。
 情景は多すぎてむしろぼんやりとしているが、音の記憶は今でも鮮明である。母は芋をむきながら、鰯(いわし)をさばきながら、何かしら歌っていた。「いつでも夢を」「松の木小唄」、コトコトコットン......何かの童謡? まだあったはずだ。今度酒でも酌み交わしながら二人の兄にも尋ねてみよう。
 最近スマホの機能を知る機会があり、余暇の楽しみが増えた。キーボードを打たなくても音声で検索できるし、たまたま出会った芳醇(ほうじゅん)なワインもラベルをパシャリと撮ればお気に入りワインリストの仲間入りだ。コロナ禍の趣味である散歩中、奇麗に咲いている名も知らぬ花が、原産国から栽培法まで説明できる花に。スマホの魔法だ。
 同僚に「店で流れている素敵な曲の検索機能があったらいいのにね」と尋ねる。「え? スマホでできますよ」と、早速教えてもらった。音源にスマホを向ける、すると数秒で曲の動画を手に入れた。母のコトコトコットンをスマホに向かって自分で歌ってみた。1942年作の「森の水車」、作曲は「ヤン坊・マー坊の唄」や「三百六十五歩のマーチ」の米山正夫先生、作詞は「月がとっても青いから」の清水みのる先生と知識も加わった。
 更に自分流の使い方も発見。言い表せない気持ちを込めてハミングすると近いフレーズの洋楽にヒット。名曲ではないが素敵な曲に出会えたserendipity。
 今夜は、共働きしながら3人の子育てに奮闘していた天国の母と一緒に歌ってみることにしよう。
 「コトコトコットン、仕事に励みましょう♪」
 皆既月食の夜に、感謝を込めて。

宮崎県 日州医事 第880号より

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