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令和6年(2024年)4月5日(金) / 日医ニュース

「医療DXで何が変わるか!? ~国民と医療者が笑顔になるために~」をメインテーマに開催

「医療DXで何が変わるか!? ~国民と医療者が笑顔になるために~」をメインテーマに開催

「医療DXで何が変わるか!? ~国民と医療者が笑顔になるために~」をメインテーマに開催

 令和5年度日本医師会医療情報システム協議会が3月2、3の両日、「医療DXで何が変わるか!?~国民と医療者が笑顔になるために~」をメインテーマとして、ハイブリッド形式で開催された。

第1日

 協議会は担当の長島公之常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長は、令和6年能登半島地震における日本医師会災害医療チームの活動に感謝の意を表明。本協議会に関しては多彩なプログラムを用意しているとして、参加者にとって有意義なものとなることに期待感を示した。

Ⅰ.医療DXについて

240405b2.jpg 引き続き、1日目には六つの講演が行われた。
 長島常任理事はまず、日本医師会が目指す医療DXについて、適切な情報連携や業務の効率化などを進めることで、国民・患者へ安全・安心でより質の高い医療を提供するとともに、医療現場の負担軽減を図ることにあると説明。国が進める医療DXに関しては、今後も適切に推進されるよう、全面的に協力していく考えを示した。
 その一方で、拙速(せっそく)に進めることにより、医療提供体制に混乱・支障が生じることはあってはならず、国民、医療者を誰一人取り残してはならないと強調。セキュリティ対策に掛かる費用については、本来、国が全額負担すべきと主張した。
 また、全国医療情報プラットフォーム(以下、全国医療情報PF)と既存の地域医療情報連携ネットワーク(以下、地連NW)は併用する必要があると説明。標準型電子カルテに関しては、「必要な機能は一定程度まとめた上でリリースする」「診療報酬改定など大きな改修と同時に行う」ことなどを提案するとともに、紙のカルテでも情報共有できる仕組みをつくることを強く求めた。
 更に、オンライン診療については、対面診療を原則として適切に組み合わせるべきとした他、利便性のみを重視して、安易に拡大すべきではないとの考えを改めて示した。
 その他、同常任理事は、(1)医療DXに関する日本医師会の取り組み、(2)令和6年度診療報酬改定における医療DXへの対応―等を概説。
 (1)では、デジタル医師資格証を3月末にリリース予定であることや、サイバーセキュリティ対策として相談窓口を設置していることなどを、また、(2)では「医療DX推進体制整備加算」や「在宅医療情報連携加算」が新設されたことなどを、それぞれ紹介した。
 田中彰子厚生労働省医政局参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)は医療DXについて、「厚労省としても推進室を設置するなど、その推進に省を挙げて取り組んでいる」とした他、現場の負担を最小限にすることを目的として、標準型電子カルテシステムの開発を進めていることなどを報告。また、電子カルテの導入にはサイバーセキュリティ対策も進める必要があることから、『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン』の内容をより分かりやすくするための改定を行うとともに、医療法施行規則第14条に2項を新設し、病院、診療所または助産所の管理者が遵守すべき事項として「サイバーセキュリティの確保」を追加したことなどを概説した。
 中園和貴厚労省保険局医療介護連携政策課保険データ企画室長はオンライン資格確認の利用状況として、令和6年能登半島地震の際に災害時モードの情報閲覧が約2万9600件(2月26日現在)あったことなどを紹介。マイナ保険証の利用促進を図るため、待合室で視聴可能な動画の制作などを検討していることを明らかにするとともに、その推進には都道府県行政や保険者の関わりも不可欠だとして、働き掛けを行っていく意向を示した。
 更に、マイナ保険証利用促進に取り組む医療機関・薬局への支援金についても触れ、交付に当たっては医療機関等からの実績報告も不要なことなどを説明し、その活用を求めた。
 猪飼裕司厚労省大臣官房総務課企画官・電子処方箋(せん)サービス推進室長は電子処方箋の導入が進まない要因として、(1)周囲の医療機関・薬局が導入していない、(2)複数のシステム改修が次々と(断続的に)必要となることによる負担増大、(3)電子署名対応に手間が掛かる、(4)導入しても問題なく使えるか不安、(5)患者からの要請がなく、ニーズを感じない―が考えられると指摘。その改善策として、好事例や成功事例を厚労省のホームページで公開しているとした他、令和6年度には医療情報化支援基金の補助上限額が引き上げられるだけでなく、診療報酬上の評価も導入されることを説明した。
 日野力内閣府健康・医療戦略推進事務局参事官は次世代医療基盤法データベースの特徴として、(1)医療機関の他、さまざまな主体から多様なデータを収集しており、名寄せが可能、(2)アウトカム情報を含む大規模なデータベースの構築、(3)オーダーメイドの加工が可能―などを挙げる一方で、その利活用が進んでいないことが課題であったと指摘。
 その改善のため、法改正が行われ、新たに『仮名加工医療情報』を作成し、利用する仕組みを創設した他、NDB等の公的データベースとの連結を可能としたことなどを紹介した。
 島添悟亨厚労省政策統括官付情報化担当参事官室室長補佐は診療報酬改定DXについて、工程表に基づき、令和6年度から共通のマスタ・コード及び共通算定モジュールを提供しつつ、全国医療情報PFと連携を図るとともに、中小病院・診療所等においても負担を極小化できるよう、最終的には標準型レセプトコンピューターの提供も検討していることを報告。「その推進により医療保険サービスの底上げを図っていきたい」として、協力を求めた。
 また、医療機関・薬局でのマイナンバーカードの利活用推進事業についても触れ、「地域の利便性向上を図るためにも、地域単位で申し込みをして欲しい」とした。
 その後は、出席者と演者との間で活発な意見交換が行われた。
 なお、1日目には協議会に先立って事務局セッションが行われ、日本医師会事務局から「日本医師会Web研修システム」や「新会員情報管理システム」の構築状況について報告を行った他、警察庁からサイバー攻撃事案の被害の傾向や対策について説明を受けた。

第2日

 2日目には、二つのテーマに関する講演が行われた。

Ⅱ.医療DXと地域医療情報連携ネットワーク

 長島常任理事は、医療DXの全国医療情報PFと地連NWの未来について解説。両者の関係を、前者は高速道路、後者は生活道路のようなものと例え、それぞれ機能、役割が異なることから、医療や介護の地域特性も踏まえながら両者が連携していく必要があるとした。
 また、全国医療情報PFは、公的保険に関するデータの網羅性などに優れる一方で、地連NWには独自の機能があり、全国医療情報PFにそれらが実装される予定はないことから、併用していくことが望ましいとの考えを示した。
 次に、日医総研のワーキングペーパーを基に、ICTを利用した全国地域医療情報連携ネットワークの概況として、地連NW数の推移や運営主体、連携状況などを紹介。「地連NWの未来のためには、地連NWの目的・有用性・効果、運用方法、財源の再検討が必要」とした上で、具体的な検討項目として、(1)「全国医療情報PF」との連携、機能分担、インフラの活用、(2)電子カルテの標準化への対応、(3)広域化、全国化(システム、同意取得・運用ルール)、(4)PHR(行政・民間)との連携―等を挙げるとともに、事業者には費用負担軽減、患者登録、同意確認等の業務負担軽減への対応が求められるとした。
 長友篤志佐賀県診療情報地域連携システム協議会運営管理者は、佐賀県診療情報地域連携システムである「ピカピカリンク」の運用状況を報告。
 参加施設を「開示施設」と「閲覧施設」に区分した、基本的に一方向的な構造となっており、「医療者間の診療情報共有ツールに徹する」「ツールとしての価値向上に務める」ことを貫いているとした。
 また、全国医療情報PFとの連携に向けて、必要な機能を見直しながら、持続可能な運営を継続していく方針を示すとともに、API連携の実装が「共存」の一つの解になるとの考えを示した。
 田能村祐一別府市医師会ICT・地域医療連携室長/地域保健センター管理者は、大分県別府市の「ゆけむり医療ネット」について報告。地域に密着した地連NWを目指しているが、(1)一般診療が手一杯で情報を自ら操作して取得する時間が無い、(2)そもそも医療連携が少なく必要ない、(3)センターサーバーの利用料―など、情報を取得する負担や費用負担が問題となっているとした。
 更に、今後は全国医療情報PFとの連携に向けた取り組みと合わせ、課題への対応も進めていく意向を示すとともに、「関係団体との連携を進めることが、ゆけむり医療ネットの生き残る道である」と述べた。
 杉浦弘明しまね医療情報ネットワーク協会理事・事務局長/出雲医師会理事は、しまね医療情報ネットワーク「まめネット」について報告。地域アプリはNPOが、基盤システムとネットワークは県が担当しながら運営していることや、費用面の実情、在宅医療や介護など現場での活用事例なども紹介した。

240405b3.jpg また、全国医療情報PFとの連携についても「まめネットのほとんどのシステムは手作りであり、毎年新機能を追加しようと努めている。引き続き取り組んでいきたい」とした。
 埼玉利根保健医療圏地域連携推進協議会の中野智紀医師は、埼玉利根保健医療圏地域医療ネットワークシステム「とねっと」について、財政難等を理由に令和6年度をもってサービスの終了が決定したことを報告。
 その経緯を説明した上で、終了後のデータの取り扱いについて、「法的にも道義的にも、EHRの個人情報は参加者の求めに応じて開示する責任を有するとの結論に至った」と述べ、EHRやPHRの運営団体は、サービス終了後も参加者の個人情報を開示する責任があるとの見方を示した他、今後「とねっと」が担ってきた機能をどう代行していくのかに懸念を示した。
 その後の総合討論では、地連NWの県外との連携や、EHR・PHR機能に関する考え方等についての意見交換が行われた。

Ⅲ.オンライン診療・遠隔診療

 山本隆一医療情報システム開発センター理事長は、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の令和5年改正について解説。令和5年は規制改革会議からの指摘を受けて、(1)セキュリティ基準の見直し、(2)不適切診療への対応―が行われたとした上で、(1)では、「情報通信及び患者の医療情報の保管について十分な情報セキュリティ対策が講じられていることを、医師が確認しなければならないこととされていること」等、五つの指摘に対し、医師ではなく医療機関で対応するなど、医療現場の実情に合わせた記載に変更した他、(2)では、GLP―1受容体作動薬の不適切使用が議論の俎上(そじょう)に上がったことを紹介した。
 森正樹日本外科学会名誉会員/東海大学医学部長は、持続可能な遠隔手術の実現に向けた取り組みを解説。高速、大容量データ通信で遠隔手術支援が可能となり、基幹施設による連携施設で実施される遠隔手術に対する支援に向けた実証実験が進められていることや、患者が地方でも都会と同等の手術が受けられるようにするためのプロジェクトが、日本外科学会を中心に進行中であることを紹介した。
 また、遠隔手術の社会実装に向けた課題として、技術的・法的課題だけでなく、診療報酬上の対応や通信費の問題などを挙げ、その解決には社会からの理解と政策支援が必要になるとした。
 高木俊介日本集中治療医学会遠隔ICU委員会委員長/横浜市立大学附属病院集中治療部長は、わが国における遠隔ICUの成果とこれからの取り組みについて解説。現在、高齢化などで急性期医療の需給バランスが崩れており、ICUでの働き方を改善するための手段として、遠隔ICUの導入が考えられると説明するとともに、集中治療専門医の不足や働き方改革(宿日直許可)をサポートできる可能性もあるとして、医療者・保険者・患者「三方よし」の形となることに期待感を示した。
 また、「遠隔ICU支援センター」について、医療の質や予後の向上などが見込めるとした一方で、同センターと現場の信頼関係の構築の難しさ等を課題として挙げた。
 原田昌範山口県立総合医療センターへき地医療支援センター長は、離島・へき地にオンライン診療をどう組み合わせるのかについて解説。山口県のへき地(特に離島)では人口減少が著しく、医師の平均年齢も全国1位となっていることなどを紹介し、「診療科の専門分化が進む中で、全ての専門診療科をへき地に揃えるのは不可能」とするとともに、へき地医療を持続的に守るには、「離島・へき地でも持続可能な地域包括ケアシステム」などの構築が求められるとした。
 更に、離島・へき地における看護師との連携(D to P with N)の有用性について強調し、「患者も医師も安心できる」「顔色等の変化に気付きやすい」こと等をメリットに挙げた。
 その後の会場から講師に対する質疑では、へき地での遠隔診療の具体的な取り組み、実情やオンライン診療の責任の所在などについて活発な意見交換がなされた。
 総括した長島常任理事は、「オンライン診療は利便性や効率性だけではなく、医学的有効性・安全性が重要であり、今後もエビデンスを積み上げていく必要がある」と強調。地域包括ケアシステムの中で連携しながら使われていくことに期待感を示した。

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