勤務医のページ


高齢者誤嚥性肺炎への対応は急務
本邦における肺炎死亡者の多くは、超高齢化に伴い、65歳以上の高齢者が占め、2020年の人口動態統計では、肺炎と誤嚥性肺炎の死亡者数の合計は、死因の第4位となった。
高齢者の誤嚥性肺炎は、突然発症するのではなく、その前段階として、加齢に伴う全身及び嚥下(えんげ)機能に関わる部位におけるフレイル(廃用性機能低下)という予兆が必ずある。
嚥下機能のフレイルは「老嚥」とも呼ばれ、健常な高齢者の、摂食嚥下及び咀嚼機能の生理的老化による嚥下機能の低下を意味する。ここに何らかの負荷が加わった時に初めて顕性化することが一般的でありそれまでは明確でないこともある。
嚥下機能のフレイルを早期に発見した上で、可逆的回復もしくは機能低下の予防が期待できる段階で的確に介入し、誤嚥性肺炎を予防することが、高齢者のQOL改善、長寿延伸、また、医療負担軽減の観点からいずれも重要である。
嚥下のフレイル:早期発見、早期介入がカギ
嚥下のフレイルは、口腔から咽頭を経て食道に至るまでの経路、つまり嚥下機能に直接関連する各器官が、加齢に伴い徐々に形態的・機能的変化をもたらすことが主な原因とされている。加齢に伴う嚥下関連筋の機能低下から、健全な嚥下に不可欠な喉頭挙上運動(飲み込みの際にのどぼとけがいったん上がって下がる)が障害されることや、嚥下の呼吸相と嚥下相のタイミングのずれ(通常嚥下の際には呼吸は一瞬停止している)や、咽喉頭粘膜の感覚の加齢に伴う低下(食べ物がのどに残っていても気付かない、咳反射が出にくい)、生理的に誤嚥を防ぐために重要な咳反射の低下などから、結果として気道防御機能が低下するため誤嚥を起こしやすくなる。
また、口腔内の不衛生状態や口腔内乾燥、低栄養も重要な原因となる。この嚥下のフレイルの進行した状態から嚥下障害の状態に至ると、誤嚥性肺炎を生じやすくなり、いったん発症すると全身のフレイルから二次性サルコペニアを誘発し、全身及び嚥下機能に関連した骨格筋の双方のサルコペニアが進行する悪循環(負のスパイラル)に至るリスクには十分注意を要する。
嚥下のフレイルそのものは未病の状態であり機能障害ではないが、このように全身予備能力の低下に伴い、誤嚥を起こしやすい状況が自覚無しに生じてしまっている場合がある。この予備能力が低下している状態に、疲労や上気道炎への罹患(りかん)など身体的なストレスが加わると、嚥下のフレイルから摂食嚥下障害、更に一気に誤嚥性肺炎に移行してしまう危険性が高まるため、この負のスパイラルに可能な限り入らないように、嚥下機能が低下し始める時期を的確に捉えて介入することが望ましい。
新しい概念:のどフレイルと嚥下機能低下症
しかし、実際には、嚥下のフレイルは年齢と共に徐々に進行するため、いつ・どこからが、嚥下機能の低下あるいは嚥下障害に該当するのかと判断するのは現時点では漠然としており、だからこそ簡便な嚥下機能の評価とそれらの評価基準が重要となる。
嚥下機能低下の疑いのある患者を早期に発見できれば専門的な検査を実施できる医療機関へ紹介し、詳細な評価(嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査)により早期に対策(嚥下指導、呼吸指導、音声指導、栄養指導)を講じることができる。
嚥下の口腔期と咽頭期は連動しており、嚥下のフレイルをこの二つの時期で分けて考えると、口腔期は「オーラルフレイル/口腔機能低下症」として既に確立されている概念である。
一方、咽頭期に関しては、現状では明確な概念、疾病名、診断基準がなく、全身のフレイルとの関連も明らかでないため、適切な時期での介入が難しい。
この咽頭期嚥下の評価に関しては、我々耳鼻咽喉科医が日頃から「のど」の診察に精通している強みを生かして、しっかり貢献すべきと考えている。
そこで咽頭期嚥下のフレイルの状態を「のどフレイル」、更に進行して嚥下機能が低下した状態を「嚥下機能低下症」と定義して、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会と日本老年歯科医学会が協議を重ねながら、これらの新しい疾患概念(図)の確立に医科歯科連携を基盤として現在注力している。
まだ協議段階ではあるが、今後、この概念の社会啓発を進めていきながら、最終的に高齢者の誤嚥性肺炎患者数を可能な限り減らすことにつなげ、本邦の健康長寿延伸と医療負担の軽減に、耳鼻咽喉科医としてぜひとも貢献していきたい。




